030
朝、いつものように目覚めるが魔力の反応があるようだったので索敵を広げた。
この街周辺のダンジョンは消してあるので問題ないが30キロ以上離れたダンジョン周辺には魔物が多数いる。
発電機を動かしニュースを見るが砂の嵐だ。放送は止まっている。
どうするかな?周辺には魔物が居ないが、ここまで来るだろうか。
市谷周辺にも魔物が居るな。マスコさんは無事か?
とりあえず装備を身に着け市谷に向かって走り出す。
途中から魔物の群れに遭遇するが上空に飛び戦闘を避けて進む。
上空から市谷を索敵すると魔物の侵入を許したようだな。
マスコさんの反応は分かるかな?反応を一つ一つ解析していく。
上層階に固まって避難している。下にはゴブリンか、ファイター、ウォーリアも群れに居るな。
俺は剣を取り出して魔物を切り捨てていく。
建物内の魔物を探索で探して一体残らず倒していく。
建物周辺には土壁を出して新たな侵入を防いである。
締まっている防火扉を叩いて
「すいません、マスコさん居ますか?」
俺は問いかけてみるが返答は無い。
「マスコさん、マスコさん、勅使瓦です、居ませんか?」
扉が開いてマスコさんが出てきた。
「無事だったんですね。」
「勅使瓦さん、ここまで来ていただき感謝します。」
「何があったのですか?って解りませんよね。」
「朝、いきなり魔物が襲ってきました。
上に逃げるしかなく、ここで籠城状態でした。
下にいた魔物はどうなりましたか?」
「全部倒しましたよ。建物も壁で囲いました。窓から見えると思いますよ。」
「壁が出来ています!」
後で別の役人さんが教えてくれる。
「これからどうしますか?」
「判断できません、上層部は敷地内の地下施設に居るはずなので、そこに行きます。」
「一緒に行きますよ。護衛です。他の方も一緒ですね。降りましょう。」
総勢30人ほどか、何人が犠牲になったのか・・・
「地下施設のは誰が居るのですか?」
「総理以下、閣僚数名と各省庁の次官級以上の方が数名。あとは我々のような人間がいますが、50人は居ないと思いますよ。」
地下施設に繋がる建物はコンクリート作りで扉は鉄製だ。
魔物の侵入は無いだろう。
「鍵はありますか?」
「私が持ってます。」
鍵を開けて階段を下りていく。
地下3階くらいかな、扉があった。
ここも鍵を開けて階段を進む。
地下10階、長い道のりの先に扉がある。
ノックをすると除く扉が開いて、
「今、鍵を開ける。」
こちらを確認してから扉が開く。
そこは大きなフロアで人が居るが動きが無い。
「総理、勅使瓦さんです。」
「・・・・・こんにちは、勅使瓦さん。今日は?」
「いや、この状態をどうするのか、私が聞きにきたのですが。」
「手が無いですよ。他の施設と連絡を取ってますが、対応策がありません。」
「他国の状況は?」
「ほぼ同じ状況です。」
「この敷地内は安全ですか?民間人はどこに避難すればいいでしょうか?」
「安全?そんな場所があれば教えていただきたい。」
苛立っているな。
「俺は帰りますね、マスコさん鍵を閉めるのに一緒に来てくれますか?」
「・・・解りました。総理、送ってきます。」
二人で階段にでた。
「ここは電気があるのですね。」
「各国との連絡、全国の主要設備の指示をここで行っています。
ここが機能しないと国の機能は止まります。」
「しばらく待っていても?」
「ええ、大丈夫ですが。」
「ちょっと魔物退治してきます。鍵閉めて待っていて下さい。」
俺は外にでて上空に飛ぶ。
敷地内に壁が欲しいな、収納内の土では足りない。
探索で地下に空洞が無い場所を探す。あった2キロ先に場所がある。
公園か、いいか別に。
そこから土を掘って収納に入れていく。
穴は200mくらいになった。
その土を市谷の敷地を囲むように20mの高さの壁と作っていく。
あとは内側の魔物を倒して終わりか。
外の魔物は雷魔法で倒していく。
建物内は面倒だが剣で斬るか、1時間もかからず殲滅は終了した。
「マスコさん、居ますか?」
扉が開いてマスコさんが出てくる。
「魔物は倒しておきました。敷地周辺も壁で囲いました。」
マスコさんが周囲を見渡し、壁を確認している。
「少し先にあった公園から土を拝借しました、200m位の穴がありますが気にしないで下さい。」
「ありがとうございます。門はどこに設置しましたか?」
「えっ?ははっ、忘れました。すぐに追加しますね。」
通りに面した場所の壁をくずし、俺の敷地と同じ門を錬金で作り設置していく。
「内側からしか鍵ができませんが、魔物に破られる事は無いと思います。帰りますね。」
「自宅に帰るのですか?」
「その前に裾野へ、隊長さんに会いに行こうかと。」
「・・・裾野は連絡が取れなくなりました・・・」
「そうですか、でも行きますよ。」
「何か判りましたら連絡してください。」
俺は裾野に向かって飛んだ。
裾野周辺は魔物だらけだ。
施設にも入り込んでるな、索敵で隊長さん達を探す。
居ないな?
俺は鍛錬に使っていたダンジョンの中に入っていくと1階層に大勢の人が居る。
「勅使瓦さん!」
女性隊員さんが駆け寄ってくる。
「ご苦労さまです。隊長は2階層に居ます。」
「ありがとう。」
俺は2階層に転移した。
「隊長さん!」
俺が声を掛けると
「勅使瓦さん!」
同じ反応かよ。
「ご苦労さまです。」
「ダンジョンに避難したのですか?」
「はい、ここしか全員が入れる場所が無かったので。」
そうか、いい判断だな。さすが隊長。
「裾野の重要施設はどこですか?教えていただければ取り返してきますよ。」
「待って下さい。」
隊長はポケットからここの地図を出す。
「ここの建物です。ここがダンジョン、2キロは離れています。」
「分かりました、1時間程度で戻ります。敷地内に穴を掘っても大丈夫ですか?」
「???大丈夫だと思います。」
俺はダンジョンから出て施設に向かう。途中で遭遇する魔物は倒していく。
建物周辺を掘り、土壁を作り圧縮していく。堀には水球で水を入れていく。
内側の魔物を殲滅してから門を設置する。
門の前に橋も作って完成だ。
他の敷地も含めて囲ったので1キロ四方程度の敷地は確保できた。
隊長を呼びに行くか。
周囲2キロの範囲の魔物は雷魔法で倒しておく。
「隊長さん、施設の確保できましたよ。破損の度合いは解りませんが。」
「ありがとうございます。確認にいきす。」
二人でダンジョンを出て走る。
「この短時間で掘と壁を作ったのですか?」
「魔法ですからね。」
俺は笑って答えておく。
壁を飛び越えて中から門を開ける。
廻りを見渡して、
「全員で移動します。」
判断が早い。
隊長が走って戻っていく。
俺は門の前で門番をして待つ。
隊員が十名づつ走ってくる。
一応周囲を探索しつつ見守る。
最後に隊長さんが走ってくる。
「本当にありがとうございました。」
「食料などはこの敷地内の他にもありますか?」
地図を出して確認する。
貯蔵庫は点在しているようだ。
面倒なので倉庫ごと収納して敷地内に出していく。
「これで全部ですかね?」
「全て揃ってます。」
他の隊員が答える。
「隊長、市谷と通信が繋がりました。隊長からの報告を希望されています。」
「分かった、すぐ行く。」
「隊長さん、また来ますね。」
そう言って俺は空歩で飛びながら帰ってきた。
結局は知り合いを助けてしまうのだな。好きに生きる、これも俺が好きでした事だからいいかな。
俺が裾野で魔物退治をしている頃、市谷では
「まだ、裾野との交信はできないのか?」
苛立った感じで誰かが叫ぶ。
「こちら側の問題ではなく、裾野の不具合です。こちらからの復旧は不可能です。」
叫ぶ声が聞こえてくる。
「大きな声を出すのは止めましょう。」
総理が言う
「「「「・・・・・・」」」」」
「衛星を使って裾野の状況を見る事はできますか?」
「可能です。衛星の位置は変更するのに20分ほど掛かります。」
「すぐに初めてくれ。」
「関係各省に連絡を入れてくれ。」
また誰かが叫ぶ。
「誰に確認が必要なのですか?今は非常時です。本来なら非常事態宣言を発令しなければいけない状況です。この状況で誰に確認が必要なのですか?」
「「「「「・・・・・」」」」」
「初めてくれ。」
「了解しました。」
沈黙が続く、誰もが長く感じていた。
「繋がりました、画像にでます。」
一斉にモニターに視線が集まる。
「何だこれは?」
そこには堀で囲まれた裾野の施設があった。
誰かが言葉を発しようとしたとき、
「裾野と交信が繋がりました。スピーカーに繋げますか?」
「繋げてくれ。」
「こちら裾野、市谷聞こえますか。」
「こちら市谷、裾野、状況を報告してください。」
「魔物の襲撃にあい、多数の犠牲者が出ました。生存者230はダンジョンに避難し、現在施設に移動し態勢の確認をしています。」
「そちらのダンジョンから魔物は出なかったのか?」
「はっ、敷地内のダンジョンから魔物の発生は確認されていません。」
「ダンジョン内の魔物はどうしたのだ?」
「隊長以下ダンジョン経験者により魔物を殲滅されました。」
「そうか、ダンジョン内を避難所にしたか・・・」
総理が静かに言う。」
「現状の施設の状況はどうだ?」
「発電設備に異常はありません。通信設備は使用可能ですが出力は最大の30%程度で遠距離通信は不可能です。その他設備は確認中です。」
「今、施設の上空からの画像を見ているのだが、今までと様子が違うが何があったのかね?」
「詳しくは解りませんが一名の民間人により施設の奪還が成された聞いております。」
「詳細を説明できる隊員はいますか?」
「シマウチ隊長が民間人と話をしていましたので、彼なら詳細を知っているかと考えます。」
「呼んでくれるか?」
「少々お待ちを。」
「総理、民間人は勅使瓦さんで間違いないと思いますが。」
マスコさんが言う。
「私の考えも同じだよ。
彼が言っていたダンジョンの話は本当だったな。
忠告を聞いていれば対応できた部分もあっただろう・・・」
「・・・総理・・・」
「市谷聞こえますか、裾野です。シマウチ隊長が来ました。」
「シマウチ隊長、何があったのか詳細の報告を頼む。」
「は、魔物の発生により襲撃を受けた裾野施設は生存者全員でダンジョンに退避しました。
ダンジョン内で今後の対応について打合せしていた所、勅使瓦氏の訪問で助力いただきました。
施設の開放、施設周辺の囲い込み、魔物の殲滅。
正直、彼の訪問が無ければダンジョンから出る事は不可能だったでしょう。」
「彼は裾野に居ますか?」
「自宅に帰りました。」
「何故帰したんだ、他の拠点にも向かわせて開放させろ。すぐに連絡を取れ。」
先程から叫んでいるキャリア官僚だ。
「彼は民間人ですよ、指示も命令もできませんよ。」
「非常時ですよ、民間人も公務員も関係無いですよ。」
「あなたも知ってますよね、彼の助言の数々を。
それらに反対していた貴方が言う言葉ではない。
この先どうするか、決まってましたよね。
会議の議事録を出して下さい。
さあ、対策を始ましょう。」
誰も声を発せず、長い長い沈黙が続いていった。




