026
翌日は敷地内の木を全て切った。
更地にするためだ。
果物の木はそのまま残し、菜園も潰して更地にした。
ダンジョンから大量の土も持ち出し、圧縮で固めていく。
大岩の横あたりに井戸を掘る。
50cmの穴が100mだ。土魔法と錬金術で側面を圧縮しながら掘っていく。
底はフラスコのように広げて、余った土は圧縮して土弾で外に出す。
30分も待っていると水が5mほどまで水が上がってくる。
土管で穴を囲い蓋をする。
漆黒樹の柱を4本差して上を繋げるよう横柱を付ける。
一面だけ開けておき、そこから平板を溝に嵌めていけば屋根の完成だ。
短いパイプの上には横向きになるようパイプを嵌めておく。
このパイプにコマを刺せば風が出るよう魔法陣を描いたので、試してみる。
水が出た。コマを外すと水が止まる、成功だ。
井戸の横に5m×10m、高さ10mの土台を作る。
この上に貯水層を作るのだが、まだ考えてなかった。
叶井さんに相談するか?
そう考えて門を開けると、叶井さんが座っていた。
「やっと気づいてくれたか、待ってたよ。」
いや、偶然なんだけど。
「今、叶井さんの家に行こうと思って来たのですよ。」
「そうか、俺も一昨日の話がしたくてな、先にいいかい?」
「いいですよ、そこの東屋でいいですか?」
「いいよ、簡単な話だしな。」
二人で座り、
「よろしくな、世話になるよ。」
「・・・・ありがとうございます。嬉しいですよ。」
「で、話ってのは何だい?
その前に門を内側から見てもいいかな。」
言い終わらないうちに門に向かっていく。
「立派な門と壁だな、柱を撃ち込んで溝に板を嵌める。少しガタがあるか。
ここに一枚一枚丁寧に楔を入れると動かなくなるよ。手間だけどな。」
そう言って笑う顔は少し怖かった、手抜きではなく気付かなかったのですよ。
「近いうちに入れてみます。
奥までいいですか?」
俺は土台の場所に叶井さんを案内すりる。
「大きい土台だな、何に使うんだ?」
「この上に貯水槽を載せる予定です。
まだ貯水槽が決まってないので叶井さんに図面を書いてもらえないかと思って。」
俺は漆黒樹の平板を叶井さんに渡し、
「この木材を使う予定なのですが、通常の釘や刃物では加工できない素材です。
壁と同じで溝に嵌め込む、そんか構造の貯水槽が作りたいです。
加工は俺の錬金術で何とかなりますが、構造までは無理なのでお願いできませんか?」
「サイズは10mの5m、高さは?」
「ここからの自重で水の供給をするので10mで大丈夫ですかね。」
「分かった、10×5×10の木製貯水槽か、面白そうだな。
息子が建築系の高校なんでやらせるよ。2,3日時間が必要だな。」
「時間は大丈夫ですよ。加工は複雑になってもいいので、板厚も5cm以上がいいかな。
それ以下だと攻撃で壊れるかもしれないし、まあ適度に頼みます。
図面ができてから相談しましょう。」
「了解。これが飲み水になるんだよな、少しプレッシャー掛けてやるか。
失敗したら水が飲めなくて死ぬぞって、ははは!」
叶井さんが帰り、一人で鍋や漏斗を錬金で一塊にして収納していく。
菜園にあった井戸は土をかぶせて固めておく。もういいだろう。
東屋は人が来た時に便利なので門の横に移動させる。
土魔法で土台を切り取り、風魔法で浮かせれば移動は簡単だ。
壁の中は外からは見えない、何をしても大丈夫だろう、多分。
外は変った。
高層マンションは電気が無いと部屋への出入りもできない。
低い階には住人が残っているが上は廃墟のように無人だ。
住人は付近の学校や役所の避難所に居るが、問題が多いようだ。
収入が多い人ほど耐えられないようで、不平不満愚痴をインタビューでさらけ出している。
車庫にあった発電機と燃料を使い、時々ニュースを見ているのだ。
公共放送はニュースを流し続けている。
スーパーやコンビニでは閉店が続いている。
物流が止まったためだ。
農産物や海産物は取れているが、都内まで運ぶ手段が無いのだ。
お金があっても買う物が無い、全ての人々が困惑と不安で過ごしている。
配給制度の事は正式発表が無いままだ。難航しているのだろう。
翌日は排水を考えていた。
門のある面、角に深い穴を開けて、そこに向かい排水講を作るか?
更地を前にいろいろと思案しているが、考えが纏まらない。
鈴木さんと叶井さんに頼るしか方法は無いか。。。
二人に協力をお願いする為に外にでる。
外には黒い車だ。嫌な予感がする。
出てきたのはマスコさんと隊長さんだ。
「おはようございます、早いですね。」
「おはようございます、今日もお時間をいただけますか。」
「いいですよ、どうぞ。」
東屋に入り、収納からペットボトルのお茶を出す。ホットだ。
「ありがとうございます。それは温度を保てるのですか。」
マスコさんの質問だ。飲食物を人前で出すのは初めてだったな。
「俺の収納は時間経過が無いのです。熱い物は熱く。冷たい物は冷たく収納できます。
生ものでも時間経過が無いので収納できますよ。」
「それは凄いですね。スキルですか?」
「時空魔術ですね。時間と空間を使える魔術です。でも、これしか使い方を知らないのですよ。」
「それでも凄い事だと思います。
隊長、時空魔術を習得した隊員は居ますか?」
「居ません。魔術は火、風のみです。」
「そうですか、今後に期待ですね。
勅使瓦さん、今日は畑について話に来ました。
先日の話で収穫物の一部提供ですが、お願いできせんか。」
「俺が言い出した事だからいいですよ。
ただし収穫量は相談で、収穫する人員はそちらでお願いします。」
「人員についてはこちらからお出しする予定です。
量については後日相談ですね、解りました。」
「携帯電話が使えないのは不便ですね。
こうして話をするにも来て待ってるなんて。」
「車での外出ですからスマホは充電しています。
ただし、役所から車のキーと一緒に支給されるスマホ以外使用禁止です。
私物のスマホやタブレットは庁舎内への持ち込みが禁止されました。
庁舎は優先的に電気が来てますが、私用に使う事は住民の不満に繋がりますから。」
「大変ですね。隊長さん、今日は?」
「実はお願いがありまして。
先日の装備なのですが譲っていただく事は可能でしょうか。」
「いいですよ。皮は体系に合わせて作っているし、剣の在庫は豊富にあるので問題無いですよ。」
「ありがとうございます。助かります。
実は狼との戦いで1名が噛まれたのですが、熊皮を貫く事が無く打撲程度でした。
今後の事も踏まえ譲っていただきたかったのです。
価格ですが、どれくらいになりますか?」
「今回は不要ですよ、隊員さん達とダンジョンに行く事を提案したのは俺ですから。」
「いいのですか、ありがとうございます。
正直、予算交渉は苦手でして・・・」
正直だな。
「マスコさん、配給の件、発表はいつですか?」
「正直、混乱しています。
各国とも歩調を合わせる必要が出てきました。」
「そうですか、このままでは食糧難になりませんか?首都だけ?」
「耳が痛いですね、そうです、郊外に行けば食料は残っています。
地方では輸送できずに余っている場所もあります。」
「そうですかやはり難しい問題でしたね。」
想像通りだな、北の大地は大量作付けだ、輸送できなければゴミだな。
配給を集める事も運ぶ事も出来ないのか、不便だな。
「俺の畑の提供も相当先になりそうですね。配給先が無いのですから。」
「こちらで提供いただく作物は避難所での炊き出しに使う予定です。
週に一度か二度、場所を変えながら炊き出しを行う予定です。」
「そういった使い方なら俺も満足できます。
隊員の食事はどうですか?隊長さん。」
「今まで通り、とはいきませんが満足できる対応をしていただいています。」
「隊員の皆さんの自己犠牲で治安維持や防衛ができている状況なんですね。」
「いや、そんな事は・・・」
「隊長さん、俺が畑の作物を隊員さんに振る舞うって言っても断られるのでしょうな。」
「・・・・ありがたい事ですが、お断わりするしかないですね。」
食欲、性欲、睡眠欲、この三つが満たされないと人は欲求不満になる。
食欲は生死に関わる事だから注意して欲しいな。
「畑の手伝いは隊員さんにお願いしたい。
昼食は俺が用意する。人数は百人でも構わない。
これは絶対条件だ、マスコさん、必ず上に伝え守ってくれ。」
「ありがとうございます。勅使瓦さん。」
二人は帰っていった。
実際、百人は無理だけどな。
鉄板広げて焼き肉でいいか。
昼食は焼き肉にした。
排水を考えるのに二人の家に行こうとすると門の外に三人がいた。
鈴木さん、叶井さん、チーちゃんだ。
「こんにちは、三人揃ってどうしました?」
「こんにちは、今日はチーちゃんの付き添いできました。」
鈴木さんが軽く答える。
「先日の共同生活の話ですが、一緒にお願いできませんか?」
「ありがとうございます。一緒に頑張りましょう。」
「先日の役人さんの話は聞きましたか?」
「なんだ、その話って。俺も知りたいな。」
鈴木さん、誰にも話してないのか。
俺は先程の話と合わせて話をした。
余っている食べ物の事は驚きと怒りがあったな。
「今、二人に相談に行こうと思っていたのですよ。
排水工事を始めたいのですが、どうすればいいか困ってしまって。」
三人で排水の事を話しているとチーちゃんが
「皆さん、呼んできますね、そろそろお昼だし。」
「俺が一緒にいくよ、女一人だと危ないぞ。」
叶井さんがチーちゃんと出て行った。
俺は鈴木さんとダンジョン畑で野菜を収穫、肉を出してBBQをする事にした。
東屋の中央に高級魔鉄と魔石で鉄板を作り、魔法陣を書いていく。
「本当に魔法使いですね。」
笑いながら鈴木さんが言う。
「知りませんでしたか?」
そんな話をしていると皆が揃ったのでBBQのはじまりだ。
肉はドラゴンの肉だ。300キロはあるだろう。
俺は漆黒樹の板を敷詰め、肉を出す。
「これがアースドラゴンの肉です。俺も初めて食べます。」
そう言ってドラゴンの剣で切り分けていく。
「その剣で戦うのか?」
叶井さんは剣に食いつく。
「そうですね、ドラゴンを倒すには大きい剣を使いますが。」
「見たい!」
収納から大剣を取り出し、地面に刺して
「これですよ、ドラゴンを倒した剣は。刃には触らないで下さいね。危ないですから。」
叶井さんだけでなく、鈴木さんや子供たちも興味津々だ。
俺は触らないように見守っている。
「さあさあ焼けてきましたよ。」
叶井さんの奥さんが声を掛ける。
子供たちは一気に鉄板に駆け寄り、肉を頬張る。
「「「「「美味しい!!!」」」」」
嬉しそうだ。
「これが龍の肉か、どれどれ・・・美味しい!」
俺も声を上げてしまう。
採ってみた野菜に手を出す人ないない、奥さん方も肉しか食べない。
エンシェントはもっと美味しいのかな?
突発なBBQも進み、大人は今後についての話になった。
俺の希望から言わせてもらう。
「皆さんの親族、親兄弟ですが参加可能な方は居ますか?
ようは共同生活に耐えられる方です。
政府も避難所の設置や炊き出し等の対応はするので、ここでなくとも生活はできると思います。
前にも言いましたがお役所仕事的な方は無理では?と考えています。
その辺りの考えを聞かせて下さい。」
「俺は兄弟は居るが、実家の東北だしな、あっちは食べ物に困ってないそうだ。
わざわざ呼ぶ事も無いと思うな、お前の兄弟は?」
「私の兄弟、妹がいるけど都内で連絡無いからどうしているのか?
心配はしてるけど、共同生活は無理じゃないかしら。」
「都内ってマンションですか?」
「高層マンションらしいわよ、買った時に電話で自慢されたから。」
「もしかしたら避難所生活かもしれませんよ。エレベータが使えず避難っしてる方多いようですよ。」
「えっ!そうなの?連絡してみようかしら。でも連絡できるのかしら。」
「無理に連絡しなくてもいいだろう!あの家族は。」
「そうはいっても私の兄弟なのよ、無視はできなわよ。」
「でも、共同生活できるのか、最初に自分で言ったじゃねえか。」
「・・・・確かに無理ね、でも無視するのも・・・・」
「そういった事を考えて、親戚や友人に声を掛けるか考えて下さい。
一緒の生活が始まって、無理だから帰る、出ていく、そういった事が無いよう慎重に考えて下さい。
知り合い全員と一緒の生活できません。
誘わなかった人に不幸が訪れても自分の責任だ、と思わない事も必要です。
ある程度の覚悟が必要だと俺は考えています。」
「難しい問題ですね。私達だけでもと思ったけど、いざ考えると判断できないですね。
私にも兄弟は居ます。郊外ですが呼びたいと思ってました。
ですが、共同生活となると、難しいですね。」
「家族や友人と相談できる方は相談して考えて下さい。
あと70日は猶予がありますから。」
「難しいことは分からないけど、本人に共同生活するか?って聞けばいいだろ?
嫌なら嫌って言うだろうし。今は生活できてるから嫌な事をはいって言うやつはいないだろう。
俺はそう思うけど、どうだい鈴木?」
「・・・・・そうですね、今は嫌な物は嫌って言える状況ですね。
この先、食料事情が深刻になれば嫌でも「はい」と言ってしまいますね。
そうなれば落ち着いた後に不平不満がでる、そうですね、今だから確認できる事かもしれません。
叶井さん、たまにはいい事言いますね。」
「よせやい、照れるよ。」
「あなた、褒められているか、貶されているか分かってる?」
「「「「あはははっ」」」」
叶井さんに救われたな。
ただ、チーちゃんは浮かない顔だ。
「チーちゃんはどう思うの?」
「私は兄弟や知り合いの事はいいのですが、子ども達が何を言うか心配で。」
「そうですね、同じ年の子供が集まるとは思えないですしね。
難しいですが、我々でフォローできる事はしますから、遠慮せずに言って下さいね。」
鈴木さんが一番の大人だな。
「私には兄が居ますが共同生活は大丈夫だと思います。
ただ、お嫁さんが・・・お嬢様なのです。土弄りとかは無理かと。」
「掃除や料理は?お嬢様なら子供に勉強教えたりは?何かできる事はあるよ。」
「叶井さんの言う通り説明してみますが、遠いので連絡がとれるかどうか・・・」
そんな話でBBQは終了となった。
結局、排水の事は明日に持ち越しになり、二人は弁当持参で来る事になった。
今日みたいな騒ぎにしないための奥様方の提案だ。




