024
翌日、マスコさんと都内のホテルに行く。
「ホテルですか?」
「人目を避ける為ここを選びました。」
誰が来るのか知らないが、俺たちは目立たないな。
いかにもお役所って感じの方々だ、13人も入ってきた。
挨拶では各省庁のキャリアだ。面倒は嫌だな。
「マスコさん、彼らはどこまで知っているのですか。」
「隊員とダンジョンに行った事、ダンジョンの研究をしている事は理解しています。」
「そうですか、今日はどのような話ですか。」
「本日はご足労いただき、ありがとうございます。
ダンジョンの事、まずは魔石について伺いたい事があります。」
エネルギー関係の人か。
「魔石は代替え品になりますか?」
「大きな設備は解りませんが、ガスコンロの代わりにはなります。
魔石だけでは不十分で魔鉄や魔鋼といった鉱物と魔力、魔法陣が必要です。」
「魔法陣・・・とにかく火力としての応用ができる、そう捉えても?」
「お見せしましょうか?」
俺はフライパンを出し、水を入れコマを刺した。
250度にコマを刺したので一気に沸騰した。
慌ててコマを外し
「こんな感じの物は作る事ができるようになりました。」
「・・・・・なるほど、この材質は何ですか?」
「魔鉄、高級魔鉄ですね。」
魔石が入っているのは隠した。上から目線がイラつくから。
「魔法陣とは、どれですか?」
俺は魔力を通して裏側の魔法陣を浮かび上がらせる。
「・・・・・」
理解できたかな、ちょっと優越感。
「これを大量に作ることは可能ですか。」
「数にもよりますが、時間を掛ければ可能ですよ。
魔力を持たない人には使えないですよ。
今の水を沸騰させる、これが10回程度で魔力が無くなります。」
「使い捨てですか?」
「再度の魔力供給で使用可能になります。」
「温度を500度まで高める事は可能ですか。」
「試していないので何とも言えないですね。」、
やはり動力源を探しているのか。
「この技術を教えていただく事はできますか?」
「技術と言っても、錬金が必要ですがスキルを持った方が居てレベルがあれば可能かと。」
「スキルが必要ですか、該当者は居ますか?」
「把握している隊員に該当者は居ません。」
隊長さん、こっちに座ってくれないかな。
「スキルを取得するのが必要でレベルも必要、あなたのレベルは?」
「俺はレベル10です。」
フライパンの話、長いな。
「大勢の人にダンジョンでスキルを取得させていかないと無理ではないかと。
欲しいスキルが誰にでも習得できるって事ではないですから。」
「ありがとうございます。」
「次は回復についてお聞きしたいのですが。」
こっちは病気関係か
「あなたの使った回復、魔法ですか、それはどの程度有効なのでしょうか。」
「先日、隊員さんの骨折を治した事は知ってますか。」
「報告は受けております。」
「その程度です。」
「病気はどうでしょう?ガンなども治せるのでしょうか。」
「試していないので解りません。」
「我々に協力していただく事は可能でしょうか。」
「ガンの治療ですか?他に試したい事や備えたい事があるのでお断りします。」
「そこを何とかお願いできませんか?」
「今の現状、国としてそれが最優先事項ですか?」
俺は廻りを見ながら確認する。ガン治療が優先事項だとは思っていない。
「・・・・・そこは私達では判断できません。」
しばらく沈黙が続き、
「よろしいでしょうか?」
年配の方が口を開く
「はい、何でしょうか?」
「今、エネルギー源が無くなって現代社会の常識が変わろうとしています。
ダンジョンで代替えエネルギーが入手できる可能性ある今、我々にできる事は無いでしょうか。」
「一つでも多くのスキルが必要かと思います。
俺は複数のスキルを習得していますが全てではありません。
もっと有効なスキルがあるかもしれません。
他国ではどうですか?スキルの情報共有はできないのですか。」
「他国との対話は進めていますが、スキルの詳細はまだ掴めていません。」
「大国はどうですか?海兵隊がダンジョン制覇に動いてませんか。」
「動いているとは思いますが、詳細を教えてくれるかは・・・」
「こちらから先に情報を出してみたらどうです?」
「そこも我々では何とも言えませんが。
我々の知る情報はあなたからの物が多いです。
ダンジョンに進めていない現状では出せるものが無い状態です。」
「隊長さん、ダンジョンを一つ攻略しましょうか、一緒に。」
「「「「「えっ!」」」」」
「制覇でなないですよ、攻略です。最下層まで降りるって事です。
Lvは7か8の魔物系でどうですかね。
戦いの主は俺がしますので隊員さん達は同行って形でいいでしょう。
ただし、最下層に降りてもレベルやスキルが上がるかは解りませんが。
今のまま見ているだけでは話しも進まないでしょう。
一日で100キロは歩ける隊員を選んでください。」
「よろしいのですか、前回の同行では何もできずに撤収したのですが・・・」
「今回はゆっくり進むので大丈夫ですよ。」
「何人くらいの同行が可能ですか?」
「10人までなら大丈夫ですかね。」
「私の個人的な意見では同行したいのですが、上の許可を取らないと参加の可否は解答できません。」
そうなるよな、基本は役人だもの。
個人の判断はできないか。
他にもいろいろ聞かれたがダンジョン畑の話は無かったな。まだ秘密か。
別室で昼食の後、部屋に戻ると総理が居た。
「こんにちは。」
「こんにちは、ご足労いただき感謝します。」
挨拶も終わり話が再開される。
「錬金とは何ができるのですか。」
「物質の素材を変換したり素材から形を成形する事ができます。」
「フライパンを見せていただいてもいいかな。」
「どうぞ。」
「これが先日言っていた研究の成果ですね。」
「もう少し改良したいですがね。
同じ原理で鍋もできます。
応用で風呂も作りました。」
「・・・風呂・・・ですか。」
違った物を期待したのかな。役人さん、ムッとするなよ、情報は小出しが常識だろ。
「こういった物ではなく国全体を救えるような物を望んでいる、ですよね。」
「いや、これも十分な進歩です。想像以上ですよ。
確かに発電所や移動手段としての動力に使えれば申し分ありませんが。
一足飛びに技術は進歩しない、そうですよね。」
廻りに向かい視線を投げかける。
「で、ダンジョンの攻略に隊員さん達と一緒に行きたいのですが、どうですかね。」
「その話は聞いています。
隊長、人選は大丈夫ですか?」
「はっ、10人の人選は終わらせています。」
「俺にも教えてくれませんか?」
「今回は私の他、9名で同行を考えております。
ダンジョンに入った事のある経験者が同行します。」
「お願いとしては、まず
医療の知識のある人、技術関係の人、それぞれ2名が希望です。」
「知識があれば同様のスキルが修得できる、そう考えているのですか。」
役人さん、キャリアだけあって人の考えを察するのが早い。
「ええ、少し試してみたいですよね。
スキルと個人の関係が見いだせれば医療や技術が進むかな、と。」
「再度、人選をしてまいります。」
隊長は部屋から出ていった。
聖魔術と錬金術、修得できればいいが。
「装備ですが、隊員さんの標準装備では厳しいと思います。
俺の方で用意した物を使ってもいいでしょうか。」
「負担を掛けて申し訳ないが。よろしくお願いします。」
隊員さんを紹介してもらう。
女性隊員も3名いる。
まずは迷彩服を預かり、カイザーベアの皮で置換していく。
剣はミノタウルスの角で片手剣、刃渡り50cmで錬金する。
服は圧縮無だが剣は圧縮しておく。
出来上がった装備を見て、
「ありがとうございます。これは熊の皮ですか?」
隊長さんが聞いてくる。
「前回の機関銃も通さなかった熊の皮ですよ。」
「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」
「全員聞け、この装備があっても生きて帰れる保証はないぞ。
これから剣を使う鍛錬を始める。
運動場まで駆け足、行け!」
全員がダッシュだ、隊長さんも行った。
俺はゆっくりと歩いていく。
すでに素振りを初めている。魔石は入れなかったので魔法は出ないな。
隊長を除く9人、女性を含む5人はスキルが無い。
戦闘専門ではなく医療や技術関係者か。
動きも数段劣るな。
今日、明日の鍛錬では上達は無理だろう。
「隊長さん、疲れない程度で終了してくださいね。」
俺は一人、宿舎に戻った。
攻略が終わるまで来客用の宿舎で生活だ。
翌日から攻略が始まった。
他県にできた演習場内にあるダンジョンだ。今日からはここの宿舎に他の隊員と一緒に生活する。
ここは魔物系でLv8、13階層の構成で最下層は熊だろう。
1階層はネズミからだった。
10人の隊員は後方で控えてもらう。
まずは剣で動けないよう足を斬り隊員に倒してもらう。
少しはレベル上げに協力しよう。
ペースは遅いが何とかボス部屋に着いた。
全員にLvがありスキルが付与されている。剣術だな。
まずは3人の隊員と部屋に入りネズミと戦う。
弱めに凍結弾を撃ち、動きを止めてから一人一匹で倒してもらう。
隊員には2階層に行ってもらい、俺は一端出てから次の3人を同じ事を繰り返す。
最後は隊長さんだ、
「一人で戦ってみますか?フォローはしますよ。」
俺の問いかけに
「そうですね、戦ってみます。」
部屋に入り、2匹を風刃で倒し、隊長さんの戦いを見守る。
注意事項、噛まれると破傷風になる事は伝えてあるので大丈夫だろう。
隊長さんは躱すことはできるが、下を走るネズミを捕らえる事ができない。
だが、ネズミが飛び掛かる!
避けるが攻撃はできない。
まだまだ鍛錬が必要だな。
空刃で後足を飛ばし、手助けをする。
「今日は進んでしまいましょう。」
悔しそうな隊長さんと2階層に転移する。
ここはウサギだな。
「今日は1階層を突破できたので帰りましょう。
まだ時間も早いので希望者だけ1階層のボス部屋で鍛錬を続けましょう。」
「どのような鍛錬ですか?」
「一対一でネズミを倒す訓練です。俺の補助無で。」
「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」
「これがクリアできないと下層では見てるだけになると思います。
戦い、勝つ事でスキルが付与されると考えています。」
全員がボス部屋に来た。
隊長他2名と俺が部屋に入る。
3方向に分かれるよう土壁で遮ってしまう。
隊長は先程と同じで攻撃を躱しているが、他の2名は噛まれそうになる。
そこは風弾でネズミを押し返すよう補助していく。
「動きを見て、予想して。動きは単調だよ。」
俺が叫ぶと3人が頷く。
ネズミは一直線なので落ち着けば避けることはできるはず。
「避けたらネズミの前に剣を出すだけでいいから。」
そう、龍の鱗でできた剣だ。当たれば倒せるだろう。
避けながら剣を出す事ができるようになる。
「野球と同じだから、動いてるネズミを球、剣をバットと思って振って!」
最初に隊長がネズミを斬る。
2名の隊員も倒す事に成功した。
部屋からフロアに戻り、次の3名と入っていく。
全員が倒せるようになったので土壁を無くしての3対3だ。
時々2対1の場面になるが風弾でサポートする。
時計を見ると19時を過ぎていたので切り上げる事にした。
入口に転移して食堂に行くが、疲れ切った顔をしている。
昼も食べずに戦っていたからな、俺も腹減った。
全員のレベルが8以上になり剣術もLv1だ。
他のスキルを習得した者はいなかった。
2階層からは個人の訓練は行わず、一撃を入れるだけにして進む事にした。
最下層まで三日かけて進んだが隊員達は疲労が顔に出ている。
で、最下層で熊を倒して入口に戻る。
一応は攻略終了だ。
「隊長、この先どうします?このダンジョンは好きな階層に転移できるようになりましたよ。」
「2階層以降、我々だけでは戦えていないので2階層からやり直し、ですかね。」
「解りました。スキル、魔術はどうですか?」
火魔術と風魔術を習得してる人がいる。隊長は両方習得している。
聖魔術は居ない、錬金術は一人習得できた。
「どのタイミングで習得できましたか。」
錬金術を習得した隊員に聞いてみる。
「豹に倒す時に剣が刃毀れしたらとか折れたら等を考えながら剣を振るったら習得できました。」
「他の人は?」
「あの火魔法はどうやってだすのか?そんな事を考えて戦ったら習得できました。」
「隊長さん、いい報告書が書けそうですね。」
「そうですね、これも勅使瓦さんの協力あっての事、ありがとうございます。」
「「「「「「「「「ありがとうございます。」」」」」」」」」
約束は2週間だったので10日残っている。
「明日は2階層でお願いします。今日は早いが解散。」
隊長の一声で終了となったが、動く者はいなかった。
疲れて動けないのだ。
翌日から2階層が始まる。
2階層、3階層は一日で終わったが4階層のバッファローからは無理だった。
大きく重いバッファローの攻撃と受けるには魔法が必要だ。
隊員の魔力は少なく、盾を出せば倒れる程度だ。
循環、吸収を教えたが魔力の流れが見えないので無理だった。
ただ、俺が直接魔力を送れば増えたので全員と握手をするのが習慣になった。
6日目に2人の隊員が聖魔法を習得した。衛生班の女性だ。
隊員が危なくなった時に怪我しても治してみせる、そんな思いで戦って習得したようだ。
回復でも擦り傷程度を治すのが精一杯だが、使っていく事で魔力も増える、大丈夫だろう。
10人は複数の魔法やスキルを習得した頃に約束の2週間が終わった。
ダンジョンは6階層の狼で止まっているが個人レベルは20前後だ。
決して無茶をしないよう言って俺は帰る事になった。
暗くなっていたが送迎の車から見る街中は様子が変わっていた。
車は走っていない、電気も消えている。真っ暗な街だった。




