015
飲み会から一夜明け次の日、俺は畑に立っていた。
畑を区切る為だ。
鈴木さん、叶井さん、チーちゃんの3家族が使う事になった。
賃料は無料。ただし俺の区画をできる限り世話する事が条件になった。
俺はやらないって言ったのにな。
15m四方に杭を立ててロープを張る。
杭は魔法の練習で倒した木を錬金術で作った物だ。
長さ1.5m位で100本もあれば足りるだろう。
上と中間、3ヶ所にロープを通す穴を開けてある。
区画の間は1m程度開けて通路を確保するので踏み固める。
何か沈んでいくな、ダンジョンの1階層から土を取ってきて通路に盛り平になるまで踏み固めていく。
「あっ!」
つい声が出た。土を収納から無意識に出していたからだ。
廻りを見渡すが人影はない。索敵でも探っても大丈夫そうだ。
通路と畑の間に杭を打ち込み、ロープを張って完成だ。
あれ、ロープが無い。そうだよな外周で60mになるのだから、そんな長いロープは無いのが普通だよな。
スパイダーの糸を使ってはいけない。
まだ8時前だ、200m巻きのロープを3巻、買いにホームセンターに走る。
おっとダメだ。空歩で走ろうとしてしまった。ここは車で行かないと。
いろいろ見ていると東屋があった。
これいいな、畑の横にあれば休憩できるし最高。
キット物なので組立は自力だが叶井さんが居るから大丈夫だろう。欲しい。
思わず注文してしまったが、明日には届くそうだ。日曜だから叶井さんも手伝ってくれるだろう。
戻れば、鈴木さんと叶井さんが待っていた。
「おはようございます。随分と進んでますね。」
鈴木さんが驚いたように言う。
「おはよう。手伝おうと思ってきたのに終わってるよ。」
「あとはロープを通して終了です。」
ロープを差し出し自分の区画に張ってもらう。俺はチーちゃんの畑だ。
「場所決めはどうします?」
「俺の家族はがさつだから端がいいかな。」
「家族もがさつなのですか?叶井さんだけではなく?」
思わず聞いてしまった。
「そんな事ないですよ。がさつなのは叶井さんだけ。」
鈴木だんが教えてくれる。
「今日のところは場所は未定でいいでしょう。」
三人でロープを張っていく。
「叶井さん、これ買ったんだけど組立を手伝ってもらえるますか?」
俺は東屋のカタログを見せる。
「何買ったんだよ。どれどれ・・・髙かったろ、これ?」
「そうかもしれないけど、あったら便利だし。」
「何買ったのですか?」
鈴木さんも覗き込んでくる。
「あまり無理しないでくださいね。」
「大丈夫ですよ、俺も楽しく作業したいので。」
「いやいや、自分の畑が区画に無いけど?」
鈴木さんに突っ込まれるが
「そのうちに作りますよ。まずは御三方の畑が優先です。」
二人が顔を見合わせて苦笑いしている。
「明日の午前中に届くのでお願いできませんか?」
「いいよいいよ、いつでも大丈夫だよ。」
組立は何とかなったな。土台は夜にでも密かに固めておくか。土魔法で。
「そろそろ家内がお昼を持ってくる時間です。勅使瓦さん一緒に食べませんか。」
「おっ!お前のとこもか?うちも持ってくるぞ。」
「ね、東屋、必要でしょ!」
三人で笑いあっているとチーちゃんが来た。
「おはようございます。には遅いですね。こんにちは。」
「「こんにちは。」」
「早かったじゃねえか。」
一人だけ挨拶できない大人がいた叶井さんだ。
「「こんにちは。」」
チーちゃんの子供が二人そろって挨拶だ。かわいいな。
「場所をどうしようかと考えていたのですが、三人揃ったので決めましょうか。」
結局じゃんけんだった。
手前からチーちゃん、鈴木さん、叶井さんの順だ。
そこへ鈴木さんと叶井さんの家族がやってきた。
無駄に広い敷地なので車を止める場所に困る事は無い。
この地域だと大人は一人一台で車を持っている。
チーちゃんも含めさすがは女性陣、食べ物だけでなくシートも用意していた。
まだ寒いが総勢12人でピクニック気分だ。
皆さんに「自分の畑は?」と聞かれたが誤魔化した。
今はダンジョンだ、あと今後の事もあるので準備しないとね。
サンドイッチやおにぎりを食べながら近い将来の不安を考えていた。
魔物が溢れ出る。その言葉だけが引っかかっている。
神様が言ったのだから間違いないことだろう。
ここにいる皆はゴブリンにも勝てないだろう、ウサギだって怪しいな。
俺がダンジョンマスターになれば生きのこれるのか?
何を植えたいだとか、食べたいだとか、そんな話が来年もできるのだろうか。
不安が増すばかりだ。だからダンジョンに潜っているんだな。
そう、不安だから戦ってダンジョンマスターになって安心を得たいのだ。
自分の考えが纏まったころ、廻りの話も纏まった。
皆で苗や道具を買いに行くそうだ。
「いってらっしゃい」
俺は三家族を送り出し、ダンジョンで土を掘っていた。土台用だ。
あと井戸もあると便利だな。ちょっと掘ってみるか。
ダンジョンだから水は出ないと思うけど穴掘りはできるよね。
まずは土魔法で穴を開ける。下に押し込んでしまった。失敗である。
下が固いと水が出てこない気がする。
次は横に土を避けるように穴を掘る。成功した。側面が固まってる。
これなら壁が崩れる心配もないだろう。
あとはどれくらいで水が出るか?だな。
ちなみに戻せるのか?固めた土をどうやる?
錬金術を使ってみよう。固めた土にふれ分解するイメージで土を崩してみる。
戻った、少し落ち込んでいるけど普通の土に返ったよ。これなら掘ってダメなら元に戻せるな。
畑の横、少し間を開けて穴を掘ってみる。まずは10m程度か。
穴はできたが、水はどうだ?覗いてみるが出ていないようだ。
更に5mほど深くしてみる。ダメだな。横が固いからか?
水源が無いのかもしれないな。そんな事を考えていたら底が湿ってきた。
湧き水のようにボコボコと出てくる事はないのか、しばらく待ってみる事に。
20分も待っていると5mくらいまで水が溜まっていた。成功だ。
あとはポンプだな。通販サイトで確認だ。
おっ!ホームセンターでも売ってるな。
ちょっと遠いけど買いに行くか。
井戸に適当な蓋を乗せて買い物に。
ポンプを取り付ける枠も必要なのか。商品説明で理解する。
木枠なら腐食しないよう塗料が必要か。
枠は錬金で作れるので、ポンプとホース、塗料を買って戻る。
木はダンジョンで入手するか。
24階層に木があったな。下の階層にあるほうが強そうだ。
ビッグパンサーが居るが近くの群れだけを倒し、3本の木を切り倒して持って出る。
枝打ちはダンジョンで済ませているので50cm程の直径で30mの木が3本。
まずは10cm角の杭を1.5mで4本、20cm幅の平板を1mで17枚作り出す。
杭を60cmまで打込み周囲に平板を釘で打ち付けていく。
上にも天板を打ち付けて完了だ。穴が無いよ、ポンプ着かないな。
辺りを見回しポンプ取付の穴を開ける。
ついでに土台の為の土も持っておこう。
水平になるよう踏み固めるが大丈夫だろうか?
そうだ、ダンジョンの木で固めればいいのか。
50cmの丸太を持ち上げて落とす。これを繰り返していく。
できた。4m四方の土台だ。
ポンプも動かしてみよう。
おぉ~水が出たよ。綺麗だけど飲めないからな。
あとは東屋ができれば完成だ。
翌日、業者さんらの電話を待って9時位に畑に向かうと鈴木さんと叶井さん家族が来ていた。
叶井さんは居ない。どうしたんだ?
「夕べも飲みに行って起きれないんですよ・・・」
奥さんが申し訳なさそうに言う。昨日、東屋の話をしていたからな。
子供たちは鍬やスコップで畑の土を掘り起こしている。
「井戸、掘ったのですか?」
鈴木さんが聞いてきたので
「ええ、あの後に急に思いついて掘ってみました。
ポンプもホームセンターで購入してきました。」
「一人で掘ったのですか?」
驚いているようだ。簡単だったのだが、って駄目だ普通は掘らないよな。
「凄いですね!井戸を手掘りするなんて。何mくらいで出ました?」
「5mくらいですかね。苦労しましたよ。」
「そんなに掘ったのですか。結構小さく掘ったようですが・・」
ちょっと怪しまれているな。まぁいいか。
「ネットで調べていたら簡単そうだったので、実際に難しい事は無かったですよ。」
そんな話をしていると運送業者さんが到着。
ユニック付のトラックであっという間に降ろして帰っていった。
とりあえず開梱を始めてみる。
いろいろ入ってるな。組立手順書もあるから問題はなさそうだ。
「鈴木さん、出来るところで構わないので手伝っていただけませんか。」
「もちろん手伝わせていただきますよ。」
「まずは部品を並べてみましょう。」
「そうですね、勅使瓦さんはDIYは得意ですか?」
「正直、得意ではないですが好きですよ。」
「私も同じです。好きなのですが器用ではないので。」
かなりの物量を並べ終わる頃に叶井さんがやってきた。
「すまんすまん、遅くなった。」
若い者が一人いっしょだ。
「今日の手伝いを頼むのに昨日の飲みが代金だったんだよ。」
何か言い訳っぽいが、いいか。
車から脚立やら工具やら沢山の道具を下ろしてきた。
「よし、始めるぞ!
トシ、そっちから始めろ、俺はこっち側から始めるから。」
二人で手際よく仕分けして組立ていく。
「この土台、どうしたんだ?綺麗にできてるな。業者が固めていったのか?」
「昨日、皆さんが帰った後にそこの丸太で固めたんですよ。」
「自分でやったのか?しかも丸太?この丸太、何だ?
ヒノキではないな・・・解らん。」
「家に有った丸太ですよ。何かは知りませんが。」
「井戸も掘ってありますよ。」
鈴木さん、余計な事言わないで。
「井戸も!すげ~な、勅使瓦さんって何者なんだよ。」
「あははは、普通のおっさんですよ。
どうですか、キットの出来具合は?問題なさそうですかね。」
話題を変えていく。
「ああ、大丈夫だろう。どうだ?大丈夫だろ?」
若い者にも確認する。
「問題は無いと思いますよ、親方。」
「よし、材料の理解もできたし組んでいくか。」
二人でどんどん木材を並べて積み上げていく。
積む前に必ず確認するのか、大切な事だな。
「そろそろお昼にしませんか?」
鈴木さんの奥さんが話しかけてくる。俺も鈴木さんも見てるだけだったんで頷く。
「おし、飯だ飯!」
シートを広げて準備してるとチーちゃんが来た。
「こんにちは、遅くなりました。」
夜の仕事後だから朝からはきついよな。
子供たちは昨日に続きピクニック気分でウキウキだ。
午後は皆さん昨日買った苗や種を植えていく。
チーちゃんは畑の土起こしからなので俺も手伝う。
上の娘はシャベルで土を起こしていくが、下の娘は土弄りで遊んでる感じだな。
鈴木さんも手伝って植える事ができた。
じゃがいもやらほうれん草やら植えて終わった頃に東屋も完成した。
いい感じだな、独り出来具合に関心してると
「東屋に井戸ですか、申し訳ありません、お金と手間を出していただいて。」
「気にしないでください。俺の趣味ですから。」
「いいキットだったよ。加工する事もなく組みあがったからな。
多少は加工するようかと思っていたがな。」
「叶井さん、それからトシ君もありがとうございます。」
「昨日、たっぷり飲ませたので大丈夫だよ、はっはっはっ!」
「自分が飲みたかったんじゃないの?」
奥さん、突っ込みありがとうございます。
「昨日も盛り上がってましたね。」
チーちゃんの店か。常連なんだね。
「これから毎日のようにお世話しないとダメだからね。」
チーちゃんが子供たちに向かって言う。
「学校の帰りに寄ってお世話するよ。」
「だ~め、お母さんと一緒でないとダメ。二人で来てたら連絡下さいね。」
そうだね、子供だけだと鍬やスコップで怪我するかもしれなしな。
「見かけたら連絡しますよ。」
「私たちも気づいたら注意しますね。」
二人の奥さんも協力的だ。
飲み屋のおねえさんには冷たく当たると思っていたが、違うのか。
まあ地元だから悪さもできないか、少し離れた街のほうが怪しい事できるよな。
初日の菜園は無事に終わった。
そういえば連絡しろって連絡先知らないよ。
何かあったら鈴木さんに連絡だな、叶井さんは・・・
二日間ダンジョンに関わらなかったのは初めてだな。
たまには息抜きもひつようだし、青痣も消えて明日から戦おう。




