歩くしかないんだ
紅茶なんて僕には贅沢すぎたんだ。
昼間、気になる女の子と行った少し洒落たカフェで、僕は子供のように紅茶を盛大にぶちまけた。むしろ子供に失礼な様だった。
彼女は直ぐに立ち上がってバックを持ち、その場を去って行った。
僕は唖然とした。ああ、僕はいつもこうなんだ、大事な時にやらかして。
店員さんにすみませんと頭を下げてお金を払って僕は店を出た。
彼女を追う気力もなくただただ自分に呆れていた。
僕は彼女の雰囲気、いわゆるルックスに惚れた。あんなに美しい子は初めて見た。僕は都会育ちだったのだが人が多い割にはあまり良いなと思えるルックスの子はいなかった。目が悪かったからだろうか。訳あって田舎の大学に受験して入ったのだが、田舎っ子の服装はみんなパッとしないが顔はパッとしていた。その中でも彼女はより一層輝いていた。彼女の名前は佐野京子。最近は名前に子が付く人をあまり見かけたことがないが、見かけたと思えば天使だった。
ここで僕の過去の話を少ししようと思う。
僕は生まれた時から母と父、その他大勢の親戚に可愛がられ、なんというかとても恵まれた環境の元育ってきた。でもその愛情は日に日にエスカレートしていき、いつしか僕は女の子扱いされていた。名前も女の子のようだった。中園沙梨。幼稚園にあがり、さりちゃんと周りからもちゃん付けで呼ばれ、小学校に入って初めて自分が女だということに気づいた。
幼馴染はみんな男の子で自分のことも男だと思っていた。スカートやおままごとは好きじゃなかった。サッカーのかっこいいTシャツ、虫、ブロックや木登りを好んでいた。中学、高校と上がるにつれ、男に対しての憧れや妬みが大きくなって行ったが口に出すことはなかった。心の中でただただ被害妄想を繰り広げていた。
ある日突然、LGBTという言葉を見つけた。自分はその中のTに当てはまってるんじゃないかと思い、心が踊った。治療すれば男になれるんだ、やった、僕は病気なんだ。ホッとしたのだろう。そこから迷いに迷ったすえ両親に打ち明けた。両親は受け入れてくれて病院も探してくれて診察にも行った。でも結果は未成年だから。僕は割り切れずに家に引きこもった。みんなが当たり前に持っているその名前が欲しかった。だからと言って何もせずにいるわけにはいかないと思い独学を始めた。そして高卒認定試験に合格し、知り合いのいない田舎の大学に通い始め、それと同時に治療も始めた。
そう、そこで彼女に出会ったのだ。