多重存在ー六本ノ指
構想はあるけど多分連載が続かないシリーズその1
PartyBlood'sを最近更新出来なかったのはこれを作っていたから
まぁ、これは気が向いたら更新するって形なので一つ、よろしくお願いします
ー討ち亡ぼせ
「契約は成立だ。その体から貰っていく」
ー冥王
「ではな。首切り役人よ」
ー咎者
「お前に幸多からぬことを切に祈らせてもらおう」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ー死ぬのが怖いと思っていた
彼女は落ちる。彼女は毒される。
ー自分が消えるのが恐ろしいと思っていた
彼女は堕ちる。彼女は蝕まれる。
ーそんなものはないと分かっていたのに
彼女は墜ちる。彼女は犯される。
ー私はきっと誰にも_
彼女は笑う。
「おかあ……さん。おとうさん……ぅん」
そして、彼女は落ちていく。
「逃がさナイヨ」
彼女の墜落は六本の指に阻まれた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「………………」
緋名村護は考えていた。
それはある一件以降わけあって同居しているあの少年の事だ。
「巧くーん」
香宮巧。その少年は昨晩から目下行方不明。
「全く……何処に行ったんだ?」
今までもこうして数日間ほど帰ってこないことはあったが、その時はいつも自分に事前に伝えていた。しかし、今回はそれがない。まさか、
「まさか、彼は堀の中に入れられたのか!?銃刀法なんやらかんやらで遂に捕まったのか!?」
そんな訳ない。もっと面倒なことに巻き込まれている。ついでに言うと巧は自分の部屋に置き手紙も書いてある。……机の下に置いてあるゴミ箱に落ちているが。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そして、その目下行方不明現在進行中(護視点)の香宮巧は
「………………」
「うわわ、な、なっにを見せてるんですか!?」
女の前で上半身を脱いでいた。
「……………あの失礼なこと聞きますけど、もしかして露出魔さんですか?」
「違うからな。何が悲しくて知り合って一分そこらの奴に裸見せなきゃならんのだ。そんな変態チックな趣味持ち合わせてない」
かなり鍛えているのか引き締まっている。と言うか、細いな。ちゃんとご飯食べてるのかな。そんな感想と共にその時、初めて彼の顔を確認するハッとした。
「女の子…………?」
「殴られたいのか、君?」
慌てて謝罪し、そのまま彼の顔をもう一度見つめる。
感じたのは一つ。ただ、純粋に綺麗だった。短いながらも流れるような黒髪。吸い込まれそうになる琥珀色の瞳。下手な女装よりもよっぽど彼の方が女性らしく思える。
「……チッ」
そんな私の様子にイラついたのか、舌打ちを一つすると本題に入った。
「これ見たことないか?」
「え?」
その少年の左半身が異様だった。
まるで、天使の翼が反転したかのような紺色の模様の刺青があった。いや、そもそもこれは刺青なのか。別の何かを感じる。とんでもない何かを。
そこまで思考を巡らせ思い出す。自分はこれを、この紋様を知っている。
(そうだ、これ。あの黒い空間の扉の模様と似てる。いや、同じだ。)
「扉しかない黒い空間で見たんじゃないのか?」
「えっ、あっ、はい。そうですそうです」
「…………………そうか。済まないな、いきなりこんなことを尋ねて」
そう言うと少年は服を着て出ていった。
「…………行っちゃった」
外で男と女の話す声が聞こえる。多分、男の方は少年だろう。だが、女の方は?その疑問に答えるように一人の女性が入ってきた。
「こんにちは。ごめんなさい、いきなり巧君が変なことを聞いてきたのよね?病み上がりなの分かっているんだから彼も少しは気を使えばいいのに」
彼女は苦笑いを浮かべながら、それでも先ほどの少年の事を__巧の事を嬉しそうに語る。
「えっと……」
「あら、自己紹介まだだったかしら?私は静流理咲。ここで看護師として勤めているの」
「あっ、はい。よろしくです理咲さん」
「はい」
彼女たちは気づかない。自分達を見つめる瞳に。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ハァ………ハァ……畜生!!何だよアレは!?」
逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。
六本指の化け物から。目に光の無いあの化け物から。まるで地獄の深淵を見たように語るあの化け物から。
ただの好奇心だった。普通に生きていく、普通に優等生として家と学校を行き来するだけの生活に飽きた、そんなただの好奇心から奇妙な薬を飲んだ。
その結果はこれだ。六本指の怪物に追われる。深淵の化け物から補食対象として狙われる。
「ぁ……あぁぁぁぁっっ!!」
飲まず食わずで逃げ惑う。どれくらい走った?どれくらい遠ざかった?ここは何処なんだ?
そして、その逃走は__
「うン、君でイイヤ」
無意味に終わった。計十二本の指に貫かれ。
彼の亡骸は灰のように消えた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「はい、検診終わり。もう服着てもいいわよ」
「いつも、ありがとうございます」
「ふふ、構わないわよ。大好きな男の子の裸を毎度見れるもの。役得だわ」
何だよそれ、そんな苦笑を浮かべながら巧は服を着る。ジーンズのポケットから黒と銀色のライターを取りだし開け閉めしながら指先で遊んでいた。
理咲は道具を整理しながら思い出したように巧に問う。
「そいうえば、今日はどうしてこっちに来たの?学校をズル休みずる理由があったのかしら?」
「彩音さんにアレの浄化を頼んでいたんですよ。本来なら今日はそれを取りに来ただけなんですよ」
「私に会いに来たわけじゃないの?残念」
「誘惑なら止めてください。俺が肉バイブにさえなれないことなんて、俺達自身を除いたら貴女が一番知っている筈でしょう?」
理咲は少し悲しげに微笑み話題を替えた。
「彼女はどうするの?私は貴方達の事はあまり深くは知らないから何とも言えないけど……」
「色々とおかしいですからね。彼女、名前はなんて言うんですか?」
「聞いてなかったの?貴方、自分で助けておいて?」
呆れたようにため息をつく自分の主治医に対して巧はどこか、ばつの悪そうな面差しで視線を彷徨わせる。
「色々と焦ってたんだよ。彼女の近くに六本指がいたし。それに知り合いに似ていたし」
「六本指って……まさか巧君、貴方戦ったの?深淵を行使したんじゃ……」
「戦ってはない」
巧は静に、だが強く断言する。
戦い?知るか。そんなものは好きな奴が好きなだけやればいい。俺のやる戦いは必要最低限の回数でいい。指先で数える程度の数でさえ要らないんだ、あんなもの。俺達は本当は本当に戦いなんてしたくない。
「俺が普通でありたいのなんて、ずっと前から言っていますよね?えぇ、そういう事ですよ。逃げられる戦いは全部逃げる。ましてや深淵なんてよほどの事が無い限り使うわけがない」
「……逃げられない時は?」
「問に答える必要は?」
「無いわね」
そういうことだよ、とそう巧は淡く笑う。
「じゃあ、また。俺達が死に損なったら、その時はまた体の調子見てください」
そう言ってドアを開けようとすると優しくあり、でもどこか咎めるような声音が聞こえる。
「死に急ぎすぎよ」
よく言われる言葉を投げ掛けられた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「いつ飲んでもここの水は美味しいな。いくらか持ち帰っていいか?きっと、協会の皆も喜ぶだろうから」
「はい。構いませんよ」
湯飲みに注がれた氷水を一気に飲み干すと彩音の顔が面白いものを見つけた少女のように歪んだ。
「品が無いですよ」
「二人だけなのに品なんているか?」
「ふふ、確かに必要ありませんね。
そう言えば、本題ですがリアラさん。今日はどういった用事でここに?」
するとリアラはため息をつくと用事を告げる。
「リンの力が必要になった。ヒナムラの所には居なかったからこっちだろうと思ってな」
「……相手は?」
「六本指だ」
困惑する彩音に対してリアラは淡々と続ける。
「あの時、六本指と戦っていたのがどちらかは知らないがアヤネ、君はその時見ていたんだろ?」
「えぇ、あの時に巧さんは六本指を倒したと思っていたのですが……まさか、アレで生きているとは。そもそも体ごと腐り堕ちた筈ですよ」
「だが事実だ。六本指は生きてるよ。どう生き残ったのかは不明だが」
そこでリアラは彩音の奥にある物に気付く。
「リンは得物を君に預けていたのか?」
「え?あぁ、あまりにも瘴気が溜まって鞘に収まらないから浄化してくれ、と頼まれまして。正直言って凄まじい量でしたよ」
「そうか。なんにせよアレを預かる以上君もあの瘴気には気を付けろ。ただでさえ一度は喰らっている身なんだ。二度目は助からないぞ」
「分かっています。その点については巧さんもかなり神経を使っているようなので」
「その首飾りか」
黒い銀の首飾りを楽しげに指先で弄ぶ。鋭利な刃物にも見えるそれを愛しそうに。
「ふふ……」
「理解に苦しむよ。リサもだが、何故君らはアレにそんなにぞっこんなんだ?」
「リアラさんも私たちと似たり寄ったりでしょ?それに私は、」
彩音はイタズラっぽく微笑み、
「私は彼が居ないと生きていけませんから」
そう断言した。リアラがその発言に苦言を呈す前より早く彩音は
「それよりリアラさん。どうやらお仕事ですよ」
「なに?」
ふらふらと男が歩いてくる。リアラはその様子に眉をしかめる。
男には生気も、死気も感じない。生きている存在の暖かさも、死んだ存在の冷たさも感じることが出来ない。ただ言い表しの無いような嫌悪感と無、それが目の前のナニかの総てだった。
「何ですかアレは?」
「分からない。取り合えずアヤネ、君は下がれ」
スゥと目を細め彩音はリアラの前に出る。
「おい!!」
「リアラさん、これはどうやら私と巧さん達の問題らしい。あなたは巧さんを呼んでください」
「どういう……!!」
意味だ、そう言いかけて言葉を飲み込んだ。
「たす……ケテ…………誰か……ガアァッ!!?」
突然、目の前の男の体がひしゃげ血の塊が落ちる。皮膚の一枚一枚が爛れ堕ち不愉快な音を上げ蒸発していく。
堕ちた皮膚から蛆が沸き蠅が寄り、その数が瞬く間に百を越える。羽音が騒音のように鳴り響く。まるでここに集まれと言わんばかりに。それだけではない。寄り集まった蠅が溶解していく。それは彼等の腐壊と似て異なる異界の法。
この現象には彩音もリアラも覚えがあった。むしろ、リアラはすでに見慣れている。
「これは……!?」
「先手、打たれましたね」
壊れた体の内側から新たな体が新生され構築される。陵辱された男の魂の欠片が新たな魂へと構成される。六本指の魔獣へと。
それは、酸と獣を司る契約された存在。
「じゃ、この体モ慣らさナイトネ」
ー六本指。
「さて、狙いは私でしょうか?彼らでしょうか?」
「呑気なこと言っている場合か!援護頼む」
退魔用のナイフを構え嘗て人であったナニかへと疾走する。そのナイフは首筋を捉えそのまま斬首のために振り抜いた。
だが、首を落とした程度では死なない。否、死ねない。そういう存在なのだ、彼らを含めた契約者は。
「やはり、これでは殺し切れないか」
「ハははハ滑稽だね。
人間如きガアァ、僕タチを殺せるナンテ思い上ガルナァァッッ!!」
「これでも貴様程ではないが人間を越えているつもりだが?」
六本指の獣が酸の毒を撒き散らす。地に付着し蒸発した煙が触れただけだというのに皮膚が焼け焦げる。そして、溶解る。
「リアラさん、巧さんも戦い始めました」
「リンは近くにいるのか?」
溶解始めた皮膚を切り裂き、後方で佇む彩音の言葉を確認する。
「えぇ、まだ深淵には繋がっていませんが」
「何ダ、彼はまだ繋がってイナイのか。向コウの僕も退屈ダロウネ」
六本指は悪辣に笑う。構えてもなく、ただ自分より弱い相手を遊び楽しんでいる。だが、リアラは構えを解かない。ただでさえナイフは苦手なのに、その上相手は自分より遥かに格上だ。
「リンが来るまで時間を稼ぐ。アヤネは逃げろ」
「それが可能ならば私は既にそうしています。言ったでしょう?先手を打たれた、と」
そして、彩音は軽く周囲を見渡す。それに釣られリアラも見渡すとため息を吐き乾いた笑いを浮かべた。
「なるほどな、どうやらこれ以上の抵抗は無意味らしい」
「大人しくしていれば巧さんが助けに来ます。それまで捕まっておきましょう」
周囲には百を越える六本指の獣が酸液を滴ながらリアラと彩音を囲んでいた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『リン』
「……………」
『おい、聞いてるのか?ってか、聞こえるよな。聞こえてて無視かよ、お前。性格悪いぞ~、女の子に嫌われちゃうぞ~、カレンにキスされなくなるぞ~』
「……はぁ、なんだよ」
巧は先ほどの少女を拾った場所に立っていた。己の内側に棲んでいる男の声を一度は無視するが、流石に煩いので反応した。かなり億劫そうだが。
『何でリサに嘘ついた?六本指と殺り合うつもりなんだろ?』
「ああでも言っておかないと無駄な心配を理咲さんにかけるだろ?それにあながち嘘でもないよ」
戦いなんてクソ食らえ、そう思っているのは紛れもなく事実だ。そして、それは
「その点についてはお前も俺とそう変わらないと思うけど?な、ディーン」
『俺はお前と違って冷酷だけどね……それより』
「ああ」
後ろを振り向く。そこには鴉のような嘴のように黒々とした鐔の長い帽子。それと同色のコート。何よりも異様なのは。六本の指と二十センチはあるであろう爪。
「やア、久しブリ、ヴィバルト」
「悪いな。今は香宮の方だ」
「あア。あの負ケ犬ノ方のガキか。それトモ僕ヲ殺し損ねたバカな子ドモかな?」
ケラケラと嫌な笑い声を上げる。それに対する一人は六本指の戯れ言を無視しながら両腕の服の裾を上げ軽く構える。
「『ーー腐壊しろ』」
二人の声が重なり、体の中にある深淵の扉の鍵が解かれる。完全には開けない。開ける理由がない。
深淵の極点から逆流してくる流れ込む力をディーンの腐壊の瘴気へと変換し両腕に纏う。周囲の清廉な空気が腐りゆく。無機物や有機物、そんな些細な差を見境なく腐り散らす魔の腕。
徒人ならば、見ただけで瞳の奥底の脳髄まで腐らせる、その緋紫の両腕を前にして六本指は不愉快な笑みを深くする。
「ククク、クハハハハ………アッハハハハハハハハハハァァッッ!!」
狂ったように笑い声を上げ己の深淵へと繋がる扉を開ける言葉を放つ。
『極点へと繋がれ』
それは鍵。契約された存在の深淵へと繋がるための言葉。
『アイツ正気か?こんな所で繋がったら山の幾らかが溶けるぞ』
「バカか、ディーン。アレに正気を尋ねる方がイカれてるだろ。そもそも狂気しか残っていないような屑野郎だろうが」
にべもなく切り捨てて、完全に繋がる前に潰そうと腐壊の腕を繰り出した。だが、
『祈れ 祈れ 祈祷しろ。我等が煉獄へ死を注げ』
それより早く、六本指は深淵へと繋がる。
『愛しき闇よ我が内へ―
―狂おしき深淵よ我が前へ』
「さっさと潰したかったんだが、無理そうだな」
巧は面倒そうにため息を吐き深淵から流れる力を更に強くした。それに続くように六本指も呪詛を唱える。
『我等の血こそが隷等の、隷等の血こそが我等の血肉となり犯し産み落とす毒となれ』
紡がれるのは陵辱の呪詛。猛毒の怨嗟。六本指に犯され、毒され、蝕まれた者の魔の嘆き。
『汝等、今我が死に溶解ゆけ』
六本指の紡ぐ深淵へと繋がる祈りは完成する。
『孕み出せーー遊勠毒獸』
とける。トケる。溶ける。解ける。溶解る。腐壊と拮抗するように巧の放つ瘴気を溶解していく。
「君らは繋ガラナイのかい?」
「ハッ、バカかよ。お前みたいなザコに深淵を使うわけが無いだろ」
「フハハ……あまりナメるなよ、ガキども」
ここに腐壊と溶解はぶつかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ディーン・ヴィバルトは香宮巧の中である男のこえを聞いた。
『久しぶりですな、首斬り殿』
「……ラストゥスか。封印が弱くなったのか?」
『あぁ。と言ってもこんな風に君らへ干渉出来る程弱くなるのは時々だがね』
難儀なものだよ、そう言ってテオフラストゥス・フォン・ホーエンハイム__パラケルススは苦く微笑んだ。
「ラストゥス、頼みがある」
『引き受けよう。どんな内容かね?』
「……少しは内容を聞いてから、引き受けようとは思わないのか」
『それは下らんとしか言い様がないな、我が親友よ。貴方の頼みならば、ましてやその頼みが契約者絡みならば断る理由がないだろう。我々は共犯者なのだから』
そう悪魔のように目の前の錬金術師は笑った。その笑みに恐怖を感じたが、そんなディーンに介さずにディーンへ自分への依頼を促した。
『では、聞こうか首斬り殿。言葉として貴方の願いを私に聞かせてくれ。あまり干渉出来る時間も長くは無いらしいのでな』
「…………流石に恐いな、そんな風に笑うお前に頼み事をするなんて」
そんな軽口を叩きつつも断頭の咎者は彼の錬金術師に一つ頼み事をした。それは、
『なるほど、随分と無茶を頼むものだな。しかし、心配は要らない。私の為にも貴方の願いを叶えなければ成らないらしい。次に君らへ干渉する時に必ずその願いを叶えてみせよう』
「頼む。これぐらいしか俺には出来ないんだ」
フッと笑い、錬金術師は姿を消した。そして、それと同時にディーンは己の宿主へと語りかける。
「リン」
その声は巧には届かない。だが、それでも構わなかった。これは独り言に近い声なのだから。
「死ぬなよ」