07 迷う女の子 迷わない男の子
「圭太くん、ごはぁん」
「ゆーくん、うざぁい」
「もう、ツンデレなんだから〜」
「だまれ」
今日も今日とてゆーくんはうざい。
一緒に昼を食べながら、ぺちゃくちゃ喋るのを適当に頷いて聞き流した。
「ねー、聞いてないでしょ」
「うん」
「圭太くんのばーか! 吉木さんに連絡先聞いちゃうぞ」
「やめろ」
「ていうか真面目に聞いていい? 好きなの?」
「好きだけど」
「本気で言ってる?」
「うん、本気で」
「ひえ〜、一目惚れってやつ?」
「一目惚れ? いや、違う」
「うーん、じゃあ、餌付けしてる最中に好きになっちゃったの〜?」
「餌付けって言うな。まあ、そんな感じ」
「ふうん。手伝ってあげようか?」
にやにや笑うこいつに任せたら、きっと上手くいくものもだめになる。
「いい。邪魔するなよ」
「邪魔なんてしないよぉ。オレが吉木さんの友達になって、好みのタイプ聞いてあげる」
「ゆーくん、超うざい」
「え〜?」
こいつ、絶対に余計な事するわ。
「もういい。お前に引っ掻き回される前に告るから」
「えぇ!? それはやめた方が……だって、先週知り合ったばっかじゃん!」
「でも俺は昼休みだけで十分好きになったし。ゆーくんが絡んであずりがお前に惚れても困るし。ていうか俺、隠せないわ。遊んだ時も好きだってポロっと言いかけた」
「えっとー……オレは吉木さんに近づかないようにするから」
「いや、そんな気ぃ使わなくていいよ。自分が早くスッキリしたいだけだし」
「圭太くん、勇気あるなぁ……ま、フラれたらラーメンおごってあげる〜」
「おう。ありがと」
なんだかんだ言ってゆーくんは良い奴だから憎みきれない。
あずりを遊びに誘おうとスマホを取り出しかけて、やめた。パフェを食べに行ってから、学校で1度も会えていない。顔が見たくなった。
「A組行ってくる」
「ちょ、ちょっと待って。オレも行く!」
食べるのが遅いゆーくんがしつこく引っ張って邪魔してきたので、頭を掴んで捨てた。
「圭太くん、ひどいよぉ〜」
「はいはい」
A組を覗くと、教室の真ん中で弁当を広げる女子のグループにあずりが居た。
呼ぼうとした瞬間に、パッと顔を上げたあずりと目が合ったので手招きする。
ドアの近くに居た女子の、中村くん可愛い、という声が聞こえて頰が引きつった。
その間ずっとあずりは俺を見たり俯いたり髪を指にくるりと巻きつけたりして、一向に近寄ってこない。あいつ、何してんの。
「あずり」
呼びかけた声は自分でも驚くほど甘くて、あれ? これ告白してるようなもんじゃねーのって思った。だいたい、俺は女子を下の名前で呼ぶ事ないし。
あずりは呼ばれた途端にびくっと肩を揺らして固まってしまった。なんでこっち来ないかなあ。
もう一回呼ぼうとして、予鈴がなってしまったので諦めた。絶対、帰りに捕まえよう。
放課後、またしてもくっついて邪魔してくるゆーくんの顔を思いっきり掴んで捨て、A組へと向かった。
ざっと見回しても、あずりは居ない。くそ、ゆーくんのせいで逃がした。
「あー、中村くんだぁ。もしかしてあずりに用?」
昼にあずりの隣に座っていた女子が話しかけてきたので頷いた。
「なんか終わった途端に急いで教室出て行っちゃったの」
「あー……ありがと」
走れば追いつくかも。急いで下に降りようとして、思い直して方向を変える。
向かう先は屋上。
なぜか、あずりはそこにいる気がした。
2段飛ばしで階段を上りきり、ドアに手をかけて。
一歩踏み入れようとして、ドアの向こうから叫び声が届いた。先週も聞いたのに、早くも懐かしく感じる。
「名前で呼ぶなー! 惚れてまうやろー!」
あずりのキレ方は本当に可愛くないな。
そう思いつつも、自然と顔が緩んでしまう。
きっと、このドアを開けた先には。
可愛くない叫びを全力で放つ、見た目はギャルっぽくて、中身は初心だけどちょっと馬鹿っぽい、可愛い女の子が居るのだろう。
そうして中村圭太は、吉木あずりに出会うために一歩踏み出した。