05 急転直下の2人
「ふうん? 圭太くん、そうなんだ〜。オレの吉木は渡さないってことかぁ」
「は!? そんな事言ってないだろ!」
「いやあ、思いっきり言ってたよぉ。ね? 吉木さん」
「うっ……そう聞こえた、かな?」
「え!?」
「えっ」
「じゃあオレは先に戻ろうかな〜。じゃあね、吉木さん」
「えぇ!?」
「えぇっ」
「バイバイ〜」
まるで嵐みたいな高橋くんは、にこやかに手を振りながら本当に帰ってしまった。なんという……! 私達にどうしろと……!
「ええと、中村くん」
「な、なんだよ!」
「唐揚げとシューマイのお礼はどうしよう?」
「いや、別に礼とかいらない」
「いやいや! そんなわけには!」
「じゃあ、連絡先教えて」
「あ、うん」
連絡先を交換して、私達も屋上を出た。
お互いに無言なのは、きっとまだよく状況が分かっていないからだと思う。
えーっと、私が中村くんにお肉をもらって、中村くんと高橋くんは仲良しで、高橋くんのスマホにはあの写真が残っていて、私と中村くんは連絡先を交換して……?
それで、私を高橋くんに渡さないってどういう意味? え? 初対面だよね?
気がつくとA組の教室はすぐそこだった。
「な、中村くん! お肉本当にありがとう」
「あ? あー、A組か。じゃあまたな」
やる気なさそうに手をひらっとさせた中村くんを見送って、教室に入る。
茜が不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「あずりー、中村くんと知り合いだったっけ?」
「え、いや、今日たまたま。あれ? 中村くんの事知ってるの?」
私は今日初めて見たと思うんだけど。
「えー? 中村くんって結構有名だよぉ。可愛い顔してるし、あの高橋くんの親友らしいしっ」
「可愛い……?」
可愛い、かな。いや、確かに顔は可愛い系か。でも中村くんより高橋くんの方が可愛い、というかあざとい……? ような。
中村くんは男らしいと思うんだけど。意外と口も悪かったし。
お昼に何があったの? と質問攻めをしてくる茜をかわしながら、新しく登録された連絡先を眺めた。さっき何があったのかなんて、私が聞きたいくらいだ。
ていうかいくらイライラしてたからって、1年ぶりのお肉だからって、なに中村くんに食べさせてもらってるの、私!
『可愛いのに』
『ゆーくんには渡さない』
突然頭に響いた声にどきっとする。
心臓がバクバク鳴っている事に気がついた。
いやいや、勘違いでしょ。だって、初対面だし。中村くんはあの高橋くんの親友らしいから、きっと女の子の扱いも上手なんだ。そう、別に私の事を好きなわけじゃない。
私だって、どきっとしただけで、中村くんの事を好きなわけじゃない。
『だめ。出さないで』
『存在自体忘れろ』
違う、違う。あれはヤキモチなんかじゃない! 高橋くんとじゃれていただけだ。勘違いしちゃだめ。
「あずりー、聞いてるの?」
「うん、勘違い。絶対、勘違いです」
「はぁ?」
勘違い、だけど。
茜みたいに中村くんの事を『可愛い』なんて思えない。もう私の中では『かっこいい男の子』になってしまったから。