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04 ゆーくんには渡さない

 

「あのう、中村くん。あちらのドアの隙間に張り付いているのはお友達?」

「は? お前、そんなとこで何してんの?」


  私も少し前に気がついた、ドアにべっとりくっついた人。中村くんに声をかけられておずおずと入ってきたその人は、学年で1番モテると噂の高橋くんだった。


「圭太くん、ひどいよ! オレ、超入りづらかったからタイミング伺ってたのに〜! 絶対オレの事忘れてたでしょ」

「うん、忘れてたわ」

「やっぱり! 圭太くんのばーかばーか」

「わかったからカレーパン」

「横暴だぁ! ねぇ、吉木さんもそう思うでしょ?」


  くるりとこちらに振り返った高橋くんにどきっとした。トキメキ的な意味ではなくて。


「えーっと。高橋くん、私の名前知ってたんだ」

「そりゃあ知ってるよぉ。吉木さん目立つもの」


  ふふっと笑って言われたのはもう何回も聞いた言葉。

  『目立つ』他にも、派手だとかギャルだとかもよく言われる。

  私は、地毛の色が明るくて、彫りの深いキツそうな顔をしているだけで、ギャルじゃないのに! 何回も言われたから、もはや諦めているけど。

  表情は変えずに少しだけ落ち込んだ私の耳に、中村くんのボソッとしたつぶやきが届いた。


「まじか。見た事なかった。可愛いのに」


  その中村くんの声には、私を励まそうとする響きが全くなかった。ただ思ってた事が口から出ちゃった、そんなささやかな感じがあった。

  でもそれって、お世辞じゃなく私を可愛いと思ってくれたって事で……そこまで考えて、またしても私の顔は真っ赤になってしまった。


  そのまま、高橋くんも混ざってお弁当を食べる。中村くんから事情を聞き出した高橋くんは、私のお弁当箱に詰め込まれた白滝カルボナーラを見て爆笑した。


「2週間も白滝〜!? あはっ災難だったねぇ、吉木さん」

「本当に辛かった……中村くんが居なかったらどうしていたか分からないくらい」

「ふうん。それでか〜」


  私と中村くんを交互に見ながらにやにやと笑った高橋くんは、おもむろにスマホを取り出してみせた。


「それで圭太くんは吉木さんにあ〜んして食べさせてあげてたの? オレ、思わず撮っちゃったぁ」

「は!?」

「えっ」


  高橋くんの差し出した画面には、バッチリと私が食べさせてもらっている写真が。


「そんな前から居たのかよ! 声かければいいだろ」

「え〜? だって圭太くん、オレの事いつ思い出してくれるかなぁって待ってたんだもん」

「ゆーくん、本気でうざい」

「ひどい!」


  拗ねている高橋くんと面倒くさそうに眉を寄せた中村くんが小突きあっている。なんていうか、仲が良いんだなぁ。いや、それより……


「た、高橋くん。消してください」

「なんで〜? 見られたらやばい人とか居るの? 彼氏とか、好きな人とか」

「いや、居ないけど……」


  しまった、嘘でも居るって言えばよかった!

  答えた途端、高橋くんが楽しそうににっこり笑ったところを見てしまった。なんとなく嫌な予感がする。


「ふうん。そっかぁ〜……じゃあ、オレと連絡先交換して? そしたら消してあげる」

「は!?」

「えっ」

「ね? 吉木さん。いいでしょ?」


  首を傾げてこちらを伺い見る高橋くんはあざとい。

  うう、イケメンは何をしても許されるっていうのか。こうやって女子の連絡先をサラッと手に入れているのか。

  どうしようもない敗北感によろめきながら、のそのそとポケットに手を入れた。そのままスマホを出そうとして、横からグッと腕を掴まれた。


「え、中村くん?」

「だめ。出さないで」


  ええー。いやでも、そうしないとあの写真が高橋くんのスマホに残されたままですが……困惑しきった私をちらっと見た中村くんは、高橋くんをキッと見上げた。


「ゆーくん、うざい。超うっざい」

「なあに、圭太くん。妬いてるの〜?」

「フェンスの向こうへ飛んでいってしまえ」


  わざわざ中村くんに見せつけるように連絡先交換をしようとした高橋くん。

  そんな高橋くんを睨みながら、私の腕を掴んで連絡先交換をさせない中村くん。

  な、仲良しなんだね……としか言えない。


「あのう、私はどうすれば」

「オレと連絡先交換しよ、吉木さん」

「だめだ、するな。つーか吉木、こいつの存在自体忘れろ」

「え、えぇ?」


  存在自体忘れろってそんな無茶な。

  これはヤキモチ? 高橋くんは渡さないぞ的な? いや、私の頭は暑さでやられているに違いない。いやいや、でも、やっぱり……?


「俺の高橋は渡さない的な……?」


  思わず口に出してしまった瞬間、2人がぐりんっと振り返った。


「ちげーよ! 吉木の馬鹿! 馬鹿すぎる!」

「あははははっ! そっちのヤキモチ!? 吉木さん、ウケる〜」

「え、私、何か間違えたの!?」

「どう考えても間違いだろ!」


  お腹を抱えて爆笑している高橋くんと、ぎゃあぎゃあ怒る中村くんの間で、私は途方に暮れていた。2人の考えている事が分からない……訝しげな顔をしたのが悪かったのだろうか。中村くんは私にムカついてます! って顔を隠しもせずに叫んだ。


「吉木をゆーくんには渡さないって言ってんの!」



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