02 中村圭太は出会ってしまった
「圭太くんっ。売店行きましょお〜」
「ゆーくん、うざい」
「もう、可愛いんだから〜」
退屈な古典の授業が終わるなり肩を組んで絡んでくるゆーくんこと高橋祐を引っぺがし、ついでに蹴りを入れた。
「イタッ! 圭太くんのツンデレ! ばーかばーか」
「ゆーくん、まじうざい」
2年連続で同じクラスになった高橋祐は、いかにもモテそうな甘い顔立ちとチャラチャラした言動はうざいが、意外と良い奴なのだ。
だからなんとなく仲良くなってしまった。
しかし何度注意しても圭太の事を可愛いと言ってくるのには辟易する。
「てめぇ175あるからって調子に乗るなよ」
「え〜? 別に、調子に乗る程の身長じゃないでしょ? 圭太くんとも10センチしか変わらないしぃ」
「くそが。俺の身長を言うな」
女子とほとんど変わらない身長と、可愛らしいと言われる顔立ちはコンプレックスでしかない。
弱っちいと思われるのも悔しいから、小4から空手を習っていて、道場の中でもかなりの強さだ。筋肉もしっかりついているのに、未だに圭太の周りからの評価は『可愛い男の子』である。おかげで少々口が悪く育ってしまった。
「ゆーくん。俺、先に行くから。ついでにカレーパン買ってきて」
「やだ! 一緒に買いに行こ〜」
「くそうぜえ。早く行け。じゃないとお前が来る前に弁当食うぞ」
「ちぇ。分かったよぉ。先に食べないでよ、ぜーったい! 約束!」
「さみしがりの女子かよ」
食べ盛りの男だ。持たされたお弁当だけでは当然足りないので、いつも売店でパンを買って追加で食べていた。
ぶうぶう文句を言うゆーくんを無視して廊下で別れる。
見た目は可愛い男の子、でも中身はだいぶ口の悪い男の子な圭太はゆっくりと屋上へ向かい歩き始めたのであった。
階段を上りきり、ドアに手をかけて。
一歩踏み入れた先には広がる青空と。
「にーーくーーー!」
可愛くない叫びを全力で放つ、ギャルっぽい女子がいた。
そうして中村圭太は、吉木あずりに出会ってしまった。