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限られたキラメキ (3)

 ペットボトルボート。サユリがヒナと、クラスの学園祭実行委員ユマに説明した。ユマはそばかすにポニーテールの、まるで何処かの名作劇場みたいな感じの子。見た目通り、元気印ってイメージだけど、最近はちょっとどんよりとしている。ところで、ヒナは発案者ってことにされたんだけど、実質サユリの発案なんじゃないですかね。

 ペットボトル製のボートについては、インターネットで調べると沢山出てきた。ペットボトルを組み合わせて船を作って水に浮かべる。そこそこのサイズで人が乗れるくらいに出来るそうだ。それはなかなか面白い。

「これを、プールに浮かべてみようと思うの」

 学園祭の間、部活動は大会などの特別な場合を除いてお休みになっている。水泳部も例外ではなく、学園祭の間はプール自体が閉鎖される。学園祭でプールを使いたいなどと言う変わった団体は存在しなかったからだ。今までは。

 劇だとやっぱり準備に時間がかかる。今からでは物理的に不可能なので、これは諦めてもらうしかない。その代わり、ペットボトルボートを制作して、プールに浮かべるというのはどうだろうか。水に濡れるし、誰でも乗せるというわけにはいかないが、進水デモンストレーションくらいなら出来るかもしれない。

 ユマは良さそうだと言ってくれた。何しろ今まで全くアイデアが無くって切羽詰っていたのだ。まさしく渡りに船という感じだろう。まあ、余程突拍子もないことでもなければ受け入れてくれたんじゃないかとは思うけどね。

 担任のメガネ先生は、生徒がやりたいならいいんじゃない、とだけ言ってくれた。メガネ先生はちょっとやる気のない中年男性。物凄く大きい眼鏡をしているので、他の部分が全然印象に残らない。だって、ホントに大きいんだよ?顔の半分くらいがレンズだ。後はええっと、英語の先生、だったっけ?

 そこまではとんとん、と決まったので、後はホームルーム。みんなが劇に対して異常なこだわりを持っていたらそれでアウト。ハルといもたちが、根回しじゃないけどクラスメイトたちに話はしておいてくれたみたい。役に立つな、いも。いい加減名前を覚えてあげた方が良いか。じゃがいも1号が宮下君。じゃがいも2号が和田君。さといもが高橋君。さて、何分もつかな。

 もう準備期間が少ない、ということはみんな解ってくれている。そりゃあねぇ、もう高校生なんだから、時間の見積もりくらいは出来るでしょう。そろそろ諦めようか、というところに救世主登場な訳です。うん、そりゃ期待もされるわ。

「では発案者の曙川さん、説明をお願いします」

 ファッ?

 謀ったな、サユリ。

 くっそお、やたら発案者としてヒナの名前を出して、あちこち引っ張り回したのはそういうことか。仕方なく前に出てみんなの方を向く。サユリ、覚えてろよ。メガネがキラキラしてやがる。ハルが心配そうにヒナのことを見ている。だ、大丈夫、ヒナだってやる時はやるんだよ。

「えーっと、発案者の曙川です。もう劇は難しいと思ったので、それ以外で、その、いっぱい目立って、作る方も見てる方も楽しいって思えることがやりたいって、そう考えました」

 ほう、って声が上がった。うう、恥ずかしい。でも頑張る。ヒナは、ハルと楽しい学園祭の思い出が作りたい。高校最初の学園祭、みんなだって楽しい方が良いでしょう?

 サユリと一緒に話したことを思い出しながら、しどろもどろに説明する。ペットボトルを使うことで、材料はリサイクル品が中心になってエコロジーさをアピール出来る。準備期間が短くても、出来るところまでで船の大きさを決めてしまえば良い。普段使わないプールの使用許可さえもらえれば、場所に関しては何処とも競合しない。他の活動で時間が取られる人であっても、空きペットボトルを提供するだけでクラスに貢献出来る。

「みんなで、楽しい学園祭にしたいんです。休憩コーナーとか寂しいこと言わないで、協力してください。お願いします」

 最後にぺこん、と頭を下げた。しばらく沈黙。クラス中がしーんとしている。うう、これはどういう静けさ?おっかなくって顔があげられない。

 ちょっとずつ話し声が聞こえてくる。いいんじゃね。ペットボトル出すだけで協力出来るのは良いね。後はプールの使用許可だな。設計を考えないとな、今から調べてみよう。

 恐る恐るサユリの方を見てみると、親指を立てていた。ハルも笑顔だ。あ、あはは、やったか、やりましたか。

「ではペットボトルボートの企画を実行委員会と生徒会に提出します。プールの使用許可が降りるまでは仮決定になりますが、特に反対意見は無いということでよろしいですか?問題が無い場合は拍手でお応えください」

 ユマの問いかけに、クラス中に拍手の音が鳴り響いた。賛成多数で可決。なんだかどっと疲れた。こうやって人前で話すのって、ヒナは全然慣れてないから。もうグラグラしながら席に戻る。いや、これでヒナの役割は終わりだよね。よくやった、ヒナ。

 って、すっかり安心しきってた。

 プールの使用許可は割とあっさり降りた。事故に注意って何回も言われたけどね。まあ、高校生なのでお酒を飲む訳でもないし、きちんと節度を持って行動する限りにおいては平気でしょう。もっと色々揉めるかとも思っていたのでむしろ拍子抜けだ。澄ました顔してるサユリ辺りが、何か裏で手を回してたんじゃないの?

 プールの使用は基本的に水泳部に一任されている。なので、学校側の許可と共に水泳部にも許可を得る必要がある。こちらはある程度勝手が判っている。クラスの水泳部代表としてサユリとヒナが、水泳部の部長と話をすることになった。水泳部部長は二年生女子、メイコさん。ガッチリとした肩幅、短く切り揃えられた髪、まごうことなきガチ勢代表だ。

 メイコさんは練習には物凄く厳しい。でも、話してみると優しくて思いやりのある人だ。女子部員はみんな親しみを込めてメイコさんと呼んでいる。男子部員からも水泳部のおふくろさんとして慕われている。ヒナみたいなエンジョイ勢が適当にぷかぷかとプールに浮かんでいられるのも、メイコさんのお陰だ。きちんとした住み分け、けじめがあれば大抵のことは認めてくれる。その代わり、ルールを破るとメチャクチャ怒られる。

 ペットボトルボートの企画の話を聞くと、メイコさんは難しい顔をした。こっちは手間がかかるかな。不安そうなヒナの様子を察したのか、メイコさんは優しく微笑んでくれた。

「ああ、ごめんごめん、別に反対とかじゃないんだ。学園祭中はどうせウチもプールは使えないし、そのことについては問題無いんだけどね」

 だけど、何かがあるということか。水泳部の部長が良いと言っているのに、ダメになる要因ってなんだろう。ヒナの顔がハテナマークになる。

「ゴリラの噂、ですか?」

 サユリ、今何て言った?

 ゴリラ?なんでゴリラ?ヒナはもう頭のカタチがハテナマークになりそうだ。ナンデスカー?

「そうか、ヒナは知らないか」

 知らないよ、そんな素っ頓狂な話。

 サユリが説明してくれた。水泳部に代々伝わっている話で、一種の学校の怪談だ。学校のプールでふざけていたり、許可なく立ち入って泳いだりしていると、どこからともなくゴリラが現れて罰を与えるらしい。

 なんだろう、それ、ツッコみどころ多くないかな。とりあえずなんでゴリラなのかがさっぱり判らない。あまりにも突拍子が無さすぎて信憑性もクソも無い。ストーリー評価は1点止まり。いや、本気で信じてます?ゴリラですよ?

「まあゴリラはともかく、だね」

 ですよね。メイコさんのこと、ちょっとおちゃめ過ぎだと思っちゃいましたよ。この部活大丈夫なのかと心配になってくるところでした。そういうちょっと頭がおかしいのは、ヒナだけで十分だ。

「でも、実際に許可を得ないでプールを使った者が、良く解らない事故に遭ったことは事実らしい」

 はぁ。まあ、それだけならなんとか。しかし、無許可って時点であんまり同情出来ない話かな。ただ、そこにゴリラを盛っちゃだめだろう。なんでゴリラ。大事なことなのでもう一回。なんでゴリラ。

「今回だと無許可って訳でもないしな、ただ、初めてのケースだから何とも言えなくって」

 メイコさん、真面目に信じてるんですね。ヒナの怪訝そうな表情に、メイコさんも困ったように話してくれた。水泳部では代々、このゴリラの噂はしっかりと語り継がれているのだそうだ。プールではふざけない、無許可では使用させない。言ってることはまともだから、それはそれで良いのかもしれない。でもオチがなぁ。

「とりあえず、プールの管理は水泳部だからさ。そこの筋は通しておきたい。鍵とかの管理を任せちゃいたいんだけど」

 なんか嫌な予感がする。サユリとメイコさんの目線が、ばっちりヒナの方を向いていた。マジか。これも罠か。トラップ発動。

 結局、クラスのメンバーがプールで作業をする際、水泳部員としてヒナが責任者として事故防止と戸締りの管理を行うことになってしまった。正門ゲートの方のお手伝いは免除。ええー、ヒナ、そっちもやりたかったよ。しょぼぼん。

 にしてもゴリラ。どっから出てきたんだ。絶滅危惧種のくせに。意味がわからない。

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