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限られたキラメキ (2)

 いよいよ学校の最大のイベントが近付いて来て、みんな浮き足立っている。その後には遅めの中間試験が待っているけど、そんなことはお構い無しだ。今だけはみんな、目の前のお祭りに集中している。

 そう、学園祭だ。

 十月の頭、土日の二日間にヒナとハルの通う高校では学園祭が実施される。翌日の体育の日は片付けの予備日だ。本当は三日間かけて騒いで、火曜日を片付け日にしてくれると生徒は幸せだったんだけど、学校側は許してくれなかった。ケチ。

 各クラスおよび部活動が大いに盛り上がっている。受験する前に、ヒナは見学がてら一度訪れたことがある。なかなか賑やかだった。高校の学園祭って、なんだか活気に溢れてて、その場の空気に触れてるだけで楽しくなって来るよね。ヒナはお祭り大好き。

 クラスの出し物については夏休み前から話し合いがもたれていたのだが、これがなかなか決まってない。やる気と気合だけはある。なんというか、現実が見えてない。

 劇がやりたい、というのが第一案だった。とにかく目立ちたい、派手にやりたい。しかし、クラスで体育館のステージ権を取るのは難しい。クジ引きの結果、見事に敗退。じゃあ教室で劇、となって更に揉め始める。

 そもそも劇となると、やることがいっぱいある。脚本、衣装、大道具小道具、配役、いくらでも出てくる割に、時間だけは物凄い勢いで流れていってしまう。夏休みだって何もしていない状況だ。まあ、これは無理だろうというのが大勢の意見だった。ヒナは派手にやりたいって気持ちは解るから、もったいないとは思っている。

 最終的にはパネル展示に落ち着くんじゃないの、ってハナシになってきた。うう、それはつまらんな。休憩コーナーでいいじゃん、みたいな意見まである。楽だけどさ、面白くないよ。高校一年の学園祭だよ?ヒナ的にはもっとこう、ぐわっと盛り上がっておきたいよ。青春のパッション。

 中にはクラスどころじゃない人もいる。委員会とか、部活で学園祭に参加する人だ。

 ハルの所属するハンドボール部は不参加。安定のやる気の無さ。いや、別に文句は無いです。学園祭に参加義務は無いからね。

 ヒナの所属する水泳部が、実は大変だ。水泳部は毎年学園祭の顔、正門ゲートのデコレーションを担当している。入り口がしょぼかったら、それだけでがっかりするもんね。大役だ。それを聞いて、ヒナは正直よっしゃ、と思った。そういうのって、参加している感が大きいじゃん。

 しかし、ヒナは途中入部だったし、大部分は二年生が担当するということだった。ちぇー。水泳部は人数多いからね。もちろんお手伝いには駆り出される。人手はいくらあって困ることは無い。雑用でもわくわくする。楽しみだ。

 もう少しすれば、放課後の部活動もほとんどお休みになる。学校全体が学園祭の仕様になる。とりあえず、それまでにはクラスの出し物を決めてしまわないといけない。生徒会や実行委員に怒られている状態だ。クラスの実行委員が頭を抱えていた。みんな好き勝手言うからね。しょうがないね。

 ヒナが何とか出来ればいいけど、あいにくとそんなアテは無い。やる気はあるのにもったいないなー、って思ってる。それだけ。

 ぼんやりしていたら、午前中の授業が終わってしまった。何にも頭に入っていない。しまった、学園祭終わったらすぐに中間試験なんだよな。後でサユリにノート写させてもらおう。その前にお昼だな。

 二学期に入って、気が付いたらお昼は教室でハルと一緒に食べていた。そう言うとラブラブっぽいけど、実際はちょっと違う。総勢八名の大所帯だ。

 ヒナのいる女子グループ、ヒナ、サユリ、チサト、サキの四人。ハルのいる男子グループ、ハル、じゃがいも1号、じゃがいも2号、さといもの四人。合わせて八人で机をくっつけて、仲良くお昼ご飯だ。名前?どうでもいいよ、ハル以外の男子なんて。

 どうしてそうなったのかは良く解らない。まあ、昼休みに学食組が教室からいなくなって、弁当組が残ったらこのグループだった、って感じかな。ヒナはハルと一緒だと嬉しいなって思ってたから、まあその辺察してくれた結果でもあるんだと思う。そういえばさといもはいつも調理パンとか菓子パンだ。すまん、実は学食に行きたいのかな。

 女子のレベルが高いから、そっち狙いってのもあるかもね。眼鏡ワンレン黒髪のサユリは大人美人って感じ。知ってるぞ、男子がハイヒールが似合いそうな女子ナンバーワンって言ってたの。踏まれてみたいかね?サユリはヒナと同じ水泳部で、部活の時は破壊力抜群の競泳水着だ。高校生とは思えん。けしからん。

 ふわふわロングのチサトはお人形みたいに可愛くて、すっかりアイドル状態。でも中身は意外としっかりさん。吹奏楽部でフルートを吹いている。軽い気持ちで近付くと怪我するかもね。チサトは密かに熱いハートを持っている。まあ、普段はぽやんとしてて見た目通りの感じでしかないんだけど。

 サキは我がクラスの誇る王子様。女子ですよ?でも王子様。スッキリとしたショートに、ネコみたいな目、スラリとした長身。立ってるだけでカッコいい。それでいて結構乙女。男女両方から人気とか、劇をやるなら間違いなく主役だね。

 そしてハル、は言うまでもないか。当たり前のようにヒナの隣に座ってくれる。いらっしゃいませ、彼氏様。学校ではあんまりいちゃいちゃしないようにしているけど、これくらいは良いよね。えへへ、ハルとお昼一緒に出来るようになって嬉しい。ヒナの作ったお弁当を目の前で食べてもらえるの、とっても幸せ。

 えーっと、残りの男子はいもです。いも。でんぷん。食物繊維も入ってるよー。

 ヒナがハルのお弁当を作ってることは、目ざといサユリによってあっという間に見破られてしまっていた。ヒナとハル、おかず同じだもんね。詰め方の工夫だけでは誤魔化しきれません。ちょっと前までは弁当箱の回収で四苦八苦してたんだけど、今はもう開き直って、お昼が終わったらその場でヒナがハルの弁当箱を預かってる。いもたちが最初驚いてた。なんだよう、いいじゃんかよう。これでも学校では控えてる方なんだぞう。

「今日の愛妻弁当はいかがかね」

 サユリ、うるさい。気にはなるけど訊かないで。

「ん、うまいよ。ヒナが作るようになってから、昼飯が楽しくなった」

 お茶噴きそうになった。ちょっとハル、そう言ってもらえるのはとっても嬉しいんだけど、みんなニヤニヤしてるんですが。うう、恥ずかしい。まだ慣れない。

「母さんが作るとなー、冷凍食品が多くてなー」

「あー、それなー」

 じゃがいも1号が同意する。ああ、確かにそのコロッケとか冷凍だね。最近の冷凍食品は、それでも結構おいしいと思うけどな。お母さんも大変なんだよ。作ってくれるだけありがたいと思いな。ほら、さといもなんか焼きそばパンだぞ。

「俺はもう最初からあきらめてる。金くれって言った方が早い」

 そういうことなのかさといも。複雑な事情とか無いのかさといも。お前にはがっかりだ、さといも。

「ヒナ、冷凍食品使ってないの?」

 サキが驚いたみたいに訊いてきた。うん、まあね。だってハルが食べるものだし。ちゃんとしたものを食べさせてあげたいじゃない?細かい物は冷凍の場合もあるけど、基本は全部手作りだよ?

 場がざわついた。なんだ、なんだなんだ?

「朝倉、お前曙川のこと大事にしろよ?」

「もうちょっとゆっくり味わって食え?な?」

「なんか急にその弁当が重く見えてきた。迂闊にちょっとくれとか言えないわ」

 今時ってそんなものなのかね。スーパーの冷凍食品コーナーとか、品揃え凄いもんな。

「え?でも毎日おかず違うよね?」

 チサトまでそんなことを言ってきた。よく見てるなぁ。恥ずかしいからあんまり解説したくない。えっとね、一ヶ月分の献立を作ってあるんだよ。ハルのお弁当用に。

 昔、気の迷いで栄養バランスとハルの好みのおかずでそういうのを考えてて、それを引っ張り出してきてちょっと手直ししたものだ。当時の一種のおままごと。暗い趣味みたいだからそれについては話さない。

 でも十分だった。またざわついた。もう、ヒナが重いっていうのはわかってるよぅ。

「ヒナ、立派だね」

 サユリさん、あんまり褒められてる気がしません。やり過ぎだってのは自覚してます。ヒナはハルのことになるとちょっとムキになっちゃうから。加減無しで走るとこうなってしまうのです。

「いいなぁ。朝倉いいなぁ。俺もそのくらい愛されたいなぁ」

 うるさいなぁ。じゃがいも1号にもそのうち良い人見つかるよ。根拠無いけど。

「朝倉は人生勝ち組だよなぁ。なんか急に飯が薄味になってきた」

 それは焼きそばパン作った人に失礼だろう。さといもは自分で弁当拒絶したんだからあんまり同情出来ないぞ。

「朝倉、お前曙川離すなよ、ホント。ここまでしてくれる子なんて普通いないぞ?」

 じゃがいも2号、そういうこと言わなくて良いから。ヒナは別にハルに恩を着せたい訳じゃないんだ。

 ヒナは、ハルのことが好きだから、ついついここまでやっちゃったってだけで、ええっと、ええっと。

「わかってるよ。ヒナには感謝してる。大事にもしてるつもりだ。ありがとう、ヒナ」

 ハルがヒナの頭に、ぽんっと掌を乗せた。

 ぼしゅっ。

 不意打ちしないでって言ってるのに。ハルのばか。完全にオーバーヒートしちゃった。ちっちゃく返事する。う、うん、どういたしまして。

 続けて、六人分のため息。

「なぁーんか飯食う前にもたれてきた」

「やべぇ、リア充マジやべぇ」

「あー、うめぇー、焼きそばパンうっめぇー!」

「なんだろう、カルメ焼きにシロップかけてかじったみたいだ」

「ふ、ふわぁ、ふわぁ」

「ははは、これって何かに軍事転用出来そうだね」

 もー、そっちが訊いてきたんでしょー!

 お昼ご飯は本当に賑やかだ。まあ、ヒナもいもたちは嫌いじゃないよ。ハルの友達だし。顔は覚えた。名前はまだ。それでも大きな進歩だ。

 食べ終わってからも、大体昼休みが終わるまでこのメンバーでおしゃべりしている。ハルとのことはちょくちょく冷やかされるけど、そのくらいならもう恥ずかしいだけで気にはならない。いもたちは割と紳士だ。ヒナとハルのことは、なんだかんだで認めてくれている。

「学園祭、クラスの出し物どうすっかなー」

 みんなお腹いっぱいになった後で、さといもがぼやいた。そうだね、ヒナも気になってるよ。いもたちもやる気だけはある。休憩コーナーはないわー、と三人口を揃えて言っていた。

「折角の高校生活だもんなぁ。何か派手なことしたいよなぁ」

 やる気だなぁ、じゃがいも1号。ハンドボール部の方は適当なのになぁ。ヒナをマネージャーにしようとしたこと、まだ覚えてるぞ。恨みは深いからな。

「今から劇は難しいよね。練習も準備も、圧倒的に時間が足りない」

 サユリが冷静に分析する。そうだよね。下手したらパネル展示のパネル製作ですら怪しい。結果として残されるのが、椅子を並べただけの休憩コーナー。ううう、それはわびし過ぎるよう。

 なんとかしたいから、ヒナも考えてみる。とは言っても、ヒナのアイデアなんてたかが知れてる。面白いことなんて何にも出てこない。

「例えば、アトラクション、とか?」

 思い付いたままに口を開いてみる。

「アトラクション?」

「うーん、よくテーマパークにあるみたいなヤツ」

 劇だと難しいから、派手なだけのアトラクションみたいなの。車がバーンと飛び出してくる、的な。ああ、教室じゃ無理だね。っていうか学校でやるのが無理だね。

「あと、なんだっけ、船のヤツ。ウォーターワールド、だっけ?」

「それはまた派手で良いけど」

 サキが笑う。あれはアトラクションかつ劇だよね。いいなぁ、ああいうのが出来れば最高。当然実現可能性なんて何も考えてない。衣装、セット、脚本、全部無理。でも、ヒナの想像する派手な劇ってそれだなぁ。

「そもそも水の上だよね、あれ」

 そうでした。船って時点でそうなるね。いやまあ、別にウォーターワールドをそのまんまやりたいんじゃないんだよ。あくまで一例として出しただけであって。あんな感じで出来ると凄いだろうなぁ、って。そりゃまあ、凄いわな。

「ん?水?」

 サユリが何か考え込んだ。ほへ?ヒナ何か言った?

「ヒナ、学園祭の間、確かプールは使われないんだ」

 ああそうなんだ。でも、それがどうかした?

「良いアイデアかもしれない。ちょっと実行委員と話してみよう」

 そう言って、サユリは持っているお茶のペットボトルをゆらゆらと揺らしてみせた。ええっとごめん、ヒナのアイデアみたいになってますけど、ヒナ本人が全く理解出来ていないのですが。


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