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わたしのお兄ちゃんは死にたがり  作者: 太郎
私のお兄ちゃんは死にたがり
8/15

二話、孤独死

「ただいまー」


 お帰り、と返事がないのはいつもの事。ヒールの脱ぎ捨て、扉を開けると居間にはお兄ちゃんが倒れていた。

 うーむ、既視感。

 小学生の時からずっと死にたがりを続けてるから、もうネタが尽きてきたんだと思う。同じ道具は使わないというポリシーを強く持っているから。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


「……うん」


「良かった。今日はどうして倒れてたの?」


 お兄ちゃんは私の顔をじーっと見ると、そっぽを向いた。


「孤独死」


「コドクシって、あの孤独死?」


「恐らく」


 孤独死? ってあれ、その、何だっけ。

 こんな時には万能辞書を取り出して、お兄ちゃんにバレないようにこっそり調べ始めた。


「だれにもみとられずに、死亡すること。特に、一人暮らしの高齢者が自室内で死亡し、死後しばらくしてから遺体が発見されるような場合についていう」


「急にどうした」


「……むむっ。これじゃあ、お兄ちゃんは孤独死出来ないよ。お兄ちゃんには私がいるじゃない」


「そうか」


 私にはお兄ちゃん死にたがりセンサーが付いている……というのは嘘だけど、お兄ちゃんが死にたがるのは勘で分かる。だてに妹やってない。

 そうかそうか、とお兄ちゃんは嬉しそうに呟く。その横顔を見ると、改めて好きだなぁと感じるのだ。


「お兄ちゃんは私が孤独死したら嫌?」


「み、美奈さんが孤独死するはずないだろ。僕はずっと家にいるから、美奈さんを一人きりで死なせやしない」


「ん。同じだね。じゃあ、もし私がここを出るって事になったら? 一人暮らしするって事になったら?」


「…………」


 お兄ちゃんは大きく息を吐くと口と鼻を手で押さえた。まさか、これはお初のパターン……窒息死?


「お兄ちゃん、やだっ。手を離してよ」


「……」


「お兄ちゃんが死んだら、それこそ私……孤独死しちゃうんだから。良いの?」


「駄目だ」


「はー。良かった」


 ちょっとした意地悪だった。いつも死にたがりに巻き込まれて困ってるんだから、今度はお兄ちゃんを困らせてやりたい。

 私がここを出ていく。それが嫌だったのか、怖かったのかは分からない。お兄ちゃんすら分からないだろう。

 いくつになってもお兄ちゃんは無邪気で純粋で、子供みたい。自分の感情を知らないからコントロール出来ずに自殺行為に走ってしまう。

 それがお兄ちゃんの可愛い所だ。

 母性本能がくすぐられて、思わず抱き締めたくなる衝動に刈られる。もしやったら、お兄ちゃんは本当に自殺しちゃうかも。

 この感情はなんなんだーって。そうなったら、洒落にならない。だからお兄ちゃんにも知って貰わないと、この感情を。

 私がお兄ちゃんを想うこの感情を。


「お兄ちゃん。お茶飲む?」


「飲む」


「はい。今ので唇の色が悪くなってるからぬるめにしてみたんだ。生態的効果は分からないけどね」


「美奈さんが入れてくれたってだけで、僕には良薬……だ」


 ごにょごにょと語尾を弱めるとお兄ちゃん。照れちゃって可愛いなぁ、もう。

 いつかお兄ちゃんに思い切り飛び付ける日が来ますように。なんて、叶わないかもしれないから、この平穏が続けば良い。

 ずっとずっと、お兄ちゃんと二人きりで暮らすの。誰にも邪魔されない私達だけの愛の巣で、永遠に。

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