四話、今日、自殺休みます
某月某日、とても穏やかな日曜日だった。
わたしの日課は朝起きて、お兄ちゃんが生きてるか確認すること。そして、寝る時にお兄ちゃんが死のうとしてないか確認すること。
そのために、わたしはお兄ちゃんの部屋で、お兄ちゃんと同じベッドで寝ている。
これをクラスのお友だちに言ったらバカにされちゃうかも。でも、仕方がない。わたしには友だちにはないような大事な宿命があるんだもの。
いつものように、朝起きて横に寝るお兄ちゃんを確認するとお兄ちゃんはゲームをやっていた。わたしはそれをずっと後ろから見ていた。
もしかしたら、それにお兄ちゃんの死にたがりの理由があるのかもしれないと思ったのだ。
けど、見たところ普通のミステリーもので苦手なわたしにはさっぱり。ちんぷんかんぷんだった。
「お兄ちゃんは、これの何が楽しいの?」
「生きることの何百倍も楽しい」
「ゼロ百倍だったら、全く楽しくないことになるよ」
「……ゼロ百倍なんてない。それはゼロ倍ってことになるだろ」
「やっぱり、お兄ちゃんは頭良いね。わたしには分からないや」
お兄ちゃんは静かに首を振った。暗い雰囲気を察知して、すぐさま話題を変えた。
「ねぇ、お兄ちゃん。ずっと横になってて、眠くならないの? わたし、眠くなってきたよ」
「美奈さんが、ゲームに楽しさを見出だしてないからだろ」
お兄ちゃんは最近、わたしにさんを付けて呼ぶ。お兄ちゃんもさんを付けて呼んで欲しいのかな? と、思って孝輔さんと呼んだら、違うと言われた。珍しく顔を赤くしてむっとした表情で。それ以上は聞かなかった。
だから、さんを付けて呼ぶ理由は今だ分かってない。
「確かに。そうだった。ミステリーとか謎解きとか、わたし全く面白いと思えないもん」
「昔からな」
「それだったら、もっとお姫様が出ているのが良い。白雪姫とか、シンデレラとか、お姫様がキラキラ輝いてるのが大好き」
「さすが小三女子児童」
「むっ、バカにしたね」
今日は、外も穏やかなお陰かお兄ちゃんも比較的穏やかだった。まるで前に戻ったみたい。幸せだった。
死のうともしないし、わたしを無視しようともしない。今日みたいな日が続いたら、と密かに願った。