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わたしのお兄ちゃんは死にたがり  作者: 太郎
僕は死にたがり
14/15

二話、決断

 某月某日、昨日は雨が降っていた。今日はどうだろうか。


「お兄ちゃん、今週は帰りいつもよりも遅くなるからね。ちょっと大きな仕事任されて今のうちに詰めておきたいんだ」

「そっ、か」


 妹が帰るのが遅くなるとその分だけ僕が一人で過ごす時間が長くなると言うことだ。一人は嫌いだ。あることないこと想像してしまう。

 一人時間を有効的に使いたい。妹に依存してばかりではいつか妹に捨てられる。立ち直れない。死んでしまう。いや、死にたがりの僕としては本望なのか。

 死ぬなら妹の胸の中で死にたい所存。

 味噌汁をすすりながら呟く。舌の痛みでつい吐き捨てるようになってしまった。意図はない。


「程々に」

「ありがと」


 妹がにへーっと笑う。表情豊かだ。その表情筋を見習いたい所だ。DNAを共有しているから僕にも真似できるかも。なんて頬をつねった。

 在宅勤務になれば良いのに。家で仕事をすれば余計な虫がつく心配もない。僕の側にいて、とかつて妹に告げたことがあったが覚えているだろうか。

 永遠に側に寄り添うと誓う結婚をしても多数が破滅を迎える。結婚の意味は何か。結婚がゴールと言うがゴールの先が幸せだけではないと誰が考えただろう。

 毎日味噌汁を作ってくれと言う文句が結婚を示すものなのを知ってか知らずか、毎日食卓には味噌汁が並ぶ。

 僕らのいく先には結婚の文字はない。結婚が必ずしも正解ではないとしたら、僕らの関係性を誰が非難できよう。

 

「難しい顔してる、何考えてるの? 今日の晩ご飯? お兄ちゃんの好きなカレーにしようか?」

「カレー、いいな」

「でしょー。美奈お手製熟成トロトロカレーを楽しみに今日もおうち守っててね」

「っ、ああ」


 自宅警備員もといニートの僕に妹は役割を与えてくれる。全力で守るよ、妹との穏やかライフを維持するためならいくらでも。

 僕らの危機は山田と僕の希死念慮と納税と、ご近所付き合いその他諸々。希死念慮以外は僕の細分ではどうすることも出来ないのでただ平穏であるように祈るだけだ。

 何もしないのは気がひけるのでモソモソと食器を運んで台所へ行くと妹が両手を上げて大喜び。そんな大層な。


「お兄ちゃんが食器を下げて!まさか!洗ってくれるの!?神だよ!神のなせる技!」


 それは馬鹿にしていないか?

 と、首を傾げる。駄目人間の僕でも食器洗いくらいは出来る。疲れるから何もしないだけで。いや、働いて養ってもらってる身分で疲れるというのは心苦しいのだが。

 家にいて、息をして、生きているだけで疲労困憊なのだから社会に出てまともに仕事している妹の方がよっぽど神に見える。

 そもそも妹の美しさは神に値するものであって。

 かと言って妹にばかり迷惑をかけているのは重々承知の上で、変わりたいと思っている。いつからか周りの目が怖くて人付き合いが苦手になった。

 外に出るのも最低限。関わるのは妹だけ。僕の世界は妹で埋め尽くされて。それは心地よくで、ぬくぬくと甘えてきた。

 変わらなくては。

 

「美奈さん、帰ってきたら話したいことがあるんだ」

「今聞くよ?まだ仕事行くまで時間あるし」

「いやまだ、待って、そのあの」

「んー?」


 今すぐに言える程覚悟は決まっていない。語尾を濁して俯くと顔の下に回り込んで見上げる妹。えっ何この可愛い生き物。

 何を言おうとしたのか全て吹き飛んでしまう破壊力。


「帰ってきたら、で、よろしく」

「そっかー。楽しみにしてる!仕事頑張って早く終わらせるね」

 

 握り拳を作って見せる妹に頷きで返した。

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