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わたしのお兄ちゃんは死にたがり  作者: 太郎
僕は死にたがり
13/15

一話、不眠

 某月某日、天気を確認するも外は暗い。時計を確認すると三時。皆が寝静まる夜だが僕はどうも寝付けずにいた。


 横を見れば妹がいる。僕のために順調に道を踏み外してくれた可愛い妹が口角から涎を垂らしながら寝ている。

 可愛い、いくらでも見れる。

 僕が夜中に起きてしまうのは妹の観察をゆっくりじっくり行うためというのも一里あるが、最近どうも悪夢ばかり見てしまうのが大半を占める。

 不安からなのか、夢のような現実への警告なのか。

 息が詰まる様な思いで目覚めて発作的に死にたくなって横に妹がいることで何とかこの世に留まれる。妹がいなければ生きていけない。

 

 初めて死のうとしたのはいつだったか。ああ、父親が居なくなった日だったなそういえば。

 僕らを置いて家を後にした現実に耐え切れなくなった母親が僕に当たり散らして怖くなった。幸せだったあの時間がなくなったことに耐えきれずこの世を去ろうとした。

 運が良いのか悪いのか妹に発見されて事なきことを得た。妹にとってはこんな生産性のない兄が存命している事が運の尽きか。

 何度妹に救われて、何度生きる意味を見いだされ、何度励まされたのか数えられない程。

 その内自殺が楽しくなってきた。別に死ぬ訳ではない。死ぬ直前のドパミンどぱどぱ状態で歪んだ視界に映り込む妹、アレは女神だ。

 是非世界中に発信したい所だが、女神の救いの手が僕以外に降りてしまうのは避けたいので結局は飲み込んでしまう。


 閑話休題。


 何が不安なのかはボンヤリ見当がついてきた。死にたい僕を助ける妹、という構図がぴったりハマった現状は変えられない。変えてしまったら崩れるだろう。

 そうしたら? 安定した職もない僕はあっさり切り捨てられる。

 妹も成熟した年齢になって色恋を掛けられるだろう、そして相手に言われるんだ。その兄おかしいよ? って。

 

「えぅ、あっ」


 涙が落ちてくる。想像しただけで呼吸が止まりそうだ。自堕落な生活をして甘えに甘えて、現実を受け止めなかった僕が悪い。

 まさか此処まで妹が僕を養い続けてくれるとは思わなかった。彼氏を作って僕を忘れて仕舞えばそのまま消えてしまおうと思っていたのに。

 妹が悪い。僕をダメにする。ダメ人間な僕を肯定する。妹のせいで胃が荒れ狂い見えぬ相手にヤキモキしてしまう。

 つらいつらいつらい、こんなつらい想いをするなら生きていたくない。なのに妹が生かすのだ。妹のせいで。妹によって、生かされている。苦しい苦しい死にたい。

 舌を出し力一杯に歯で押しつぶす。痛い。舌も、胸も。胃も。ぶちっ。音がした。視界がボヤける。頬が冷たい。頭が熱い。


「ごへ、んね」


 深い溜息をついた。うっすら外が明るみ始め、妹の髪に光を走らせる。美しい。僕は愚かだ。妹は悪くないのに。妹のせいにして。

 死にきれなかった。結局僕は妹が見てる前でしか死なない臆病者だった。どうしようもできないね。


「んあ。はやい、ねえ、おにぃちゃ」

「早起きはった」


 妹がにこおと頬を緩ませて目を開けた。動きの悪い舌を無理矢理働かせる。世間の人よりも活動していない分予備力はあるはず。

 妹のゆるゆるな表情に釣られて脱力しそうな口輪筋を奮い立たせて「早起きはっは」と言い直した。無能か僕の舌は。


「うはは、寝ぼけてるの? めずらしい」


 妹の笑顔を出せたと思えば少しは評価しても良いかもしれないが。

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