四話、爆死
普段と変わらない休日。目を覚ませばお兄ちゃんの背中があって、またゲームしてるの? って咎める。……かと、思いきや。
「……起きたか」
「う、え? ……おはよ」
目を開けると、お兄ちゃんと目が合った。
うっわー、寝起き一番でお兄ちゃんの顔を見れるなんて幸せすぎる。眼福すぎる。寝顔を眺めたい願望はあったけど、寝起き一番お兄ちゃんも悪くないというか良い。ご褒美。
ヨダレ垂れてないかな。寝顔不細工じゃなかったかな。引かなかったかな。ああ、顔をかき乱したい衝動に刈られる……。
感情の発散先が分からない。お兄ちゃんの死にたがりと似ているのかも。
「どしたの、お兄ちゃんがゲームしてないなんて。今日はゲームお休みなの?」
「いや。美奈さんと、ゲームしようと思って」
「起きるの、待ってたの?」
「……まあ、そう」
か! わ! い! い!
日頃頑張ってお兄ちゃんに奉仕している成果が現れたのか。それにしても遅すぎ……じゃなくて、女として意識される様にコツコツ頑張ってきた甲斐があった。
もう、これはゴールイン目前だ。間違いない。
「何のゲームをするの?」
「ボンバーマン」
「爆弾を投げて、ばーんってなったり、させたりするヤツ?」
「まあ、そんな感じ」
お兄ちゃんは、起き上がるとテレビを付けた。手慣れている様子で、ファミコンとテレビを接続している。
「凄いなぁ」
「凄くない。はい、美奈さんのコントローラー」
「あー。懐かしい。小さい頃はお兄ちゃんが独占してて羨ましいなーって見てたんだよ」
「美奈さんはゲーム好きなの?」
「んー。難しくないヤツなら」
黒い画面に、二頭身の人間が現れた。合わせて懐かしい音楽が軽快に流れている。startと、文字が流れると見覚えのあるステージに切り替わった。
「む。もう、キャラクターがいる」
「開始してるからね」
「ぎゃー。変な火の玉にぶつかったら死んだー」
「……一回でも敵に触れたら死ぬから」
「わー。死んだ筈の私が生き返ってるー。はっ、死者蘇生術を使ったんだ!」
「……五回敵に触れたら、もう蘇生されないよ」
「うー。お兄ちゃーん……私のキャラクターが画面から消えたー」
「…………うーん」
何度ボタンを押しても私のキャラは出てこない。もしかしたら、変なボタンを押して透明になったのかもしれない。
お兄ちゃんは低く唸りながら巧みに操作する。お兄ちゃんのキャラは生き生きと爆弾を投げては走り回っている。私のグズなキャラとは違う。
画面にWINと表示された所で、お兄ちゃんはコントローラーを下ろした。
「もしかして、操作知らなかった?」
「昔からお兄ちゃんがゲームしてる所を見てるからやり方は分かるよ。でも、操作した事はない」
「そっか。やった事あるのは?」
「どうぶつの○と、ソリッドラン○ーと、ときメ○」
「育成ゲームとシュミレーションゲームか」
「雑草を抜くのと、女の子の手を繋いで欲しい瞬間を見抜くのはお兄ちゃんには負けないよ!」
「……ふはっ。自慢されても」
お兄ちゃんは無邪気に笑うと、バカだな。と呟いた。
「バカだから、お兄ちゃんに勝つまで戦ってやる。途中でへばっちゃダメだからね」
「……参ったな」
言葉とは裏腹に、お兄ちゃんは楽しそうに笑ってた。
今日はお兄ちゃんよりも私の方が死んでいた。もしかしたら、死にたがりの素質があるのかもしれない。




