一話、首つり自殺
某月某日、今日は雨が降っていた。
傘をばしゃばしゃ降って、雨を落としてから首からぶら下げてある鍵で扉を開けた。
「ただいまー」
わたしの家は、とても狭くて小さい。だから、わたしよりも先に帰ってきてるはずのお兄ちゃんにも聞こえてるはずなのに、お兄ちゃんからのお帰りの言葉がない。
何故だろう? と不思議に思うことはなく、お兄ちゃんが大事に至っていないか確認するためにランドセルをぶん投げて居間に入った。
すると、一番に入ってきたのは、コート掛けに紐を括り付けて、自殺しようとしているお兄ちゃんの姿。
また、か。
「お兄ちゃん、そんな所で首吊ったらお母さんがビックリしちゃうよ」
わたしの言葉に、お兄ちゃんはわたしの動揺とか焦りとか気にせずに平然とした口調で首元を括っていた縄を下ろした。
「ああ、そっか」
何もないはずの天井を見つめて、お兄ちゃんは頷いた。「また死ねなかった」と、怖いことを言いながら居間へ戻った。
彼は、わたしの四つ上のお兄ちゃん。今年、中学生になって、制服も変わって、雰囲気も変わったと思ったら性格まで変わっちゃった。
前は優しくわたしと遊んでくれたのに、わたしが一瞬でも目を離したらお母さんの目の前であっても食卓であったとしても、自殺しようとする。
難しい言葉は分からないんだけど、お兄ちゃんは首つりとか、りすとかっと、薬物自殺……色々試している。その度にわたしは邪魔する。
だって、邪魔しなかったらお兄ちゃんは死んじゃうもの。
勉強、勉強と五月蝿いお母さんはお兄ちゃんが死にたがりなことすら知らない。だから、止めれるのはわたしだけ。
止めて、前の優しい暖かいお兄ちゃんに戻ってもらうの。そして、前みたいに外でスモウしたり、プロレスごっこして遊びたい。
その為なら、わたし、なんだってするから。どんな時でもずっと、お兄ちゃんを見張る位の簡単なこともやるし、お兄ちゃんの嫌いなピーマンだって食べる。だから、お兄ちゃん。死なないで。




