第1夜 俺が姫を助ける理由。
俺は、いつも“あの子”のことを思い出す。
俺が知っている彼女は、いつも哀しそうな顔をしていた。
でも、俺が話しかけると彼女はいつもあの愛らしい笑顔をして名前を呼んでくれる。
「ねえ、ユウ」
「たとえ幾億の時間が過ぎたとしてもどうか私のことを忘れないで」
彼女は別れ際そう俺に言った。
まだ俺が10歳になったばかりのころ、親が仕事で家を空ける回数が多くて
寂しい思いをしていた時、俺は彼女に出会った。
俺と彼女が初めて会ったのは古い時計台の中にある1室だった。
「初めまして、僕の名前はユウっていうんだ」
「君の名前は?」
俺はそう彼女に話しかけると悲しそうな顔でこう言った。
「私に名前なんてものは存在しないわ」
そう答える彼女がなんだか放っておけなくてその日から俺は毎日彼女の部屋まで通った。
「やあ、また来たよ」
俺が彼女に話しかけても言葉が返ってくることはなかったけど、それでも俺は彼女の顔から笑顔を見たくて
雪が降る日も雨の日も飽きずに通い詰めた。
そんなある日のことだった。
「確か貴方の名前はユウっていうんだったわね」
「そうだよ えっと…」
「君のことはどうやって呼べばいいのかな?」
「好きに呼べばいいわ」
そう彼女が言うので、俺は彼女にピッタリな名前をいくつも考えた。
彼女の容姿を花にたとえると、ユリのように白い肌にそれと同じように白いドレスを身にまとっている。
髪はというと、金色に輝いていて瞳はルビーを思い起こすぐらいに紅い瞳をしている。
そして、時間はすっかり夕日が出るほどになっていた。
まるで、それは彼女の瞳のような真っ赤な世界が俺に広がっていたことを今でも覚えている。
「君の名前は、リリアだ」
「その美しい容姿にピッタリだろ?」
「どう気に入った?」
俺がそう彼女に言うと、彼女の顔はすっかり俺が見たかった笑顔になっていた。
「リリアかあ!うん、気に入ったわ」
「ありがとう!ユウ」
彼女が俺に初めて笑顔を見せてくれた時からずっと俺たちは一緒だった。
毎日、いろんな場所へ彼女を連れだした。
だって、彼女はあの時計台の中から1度も外へは出たことがないと言っていたから
「楽しいね リリア」
「うん、ありがとう ユウ」
でも、そんな幸せな日常は長くは続かなかった。
彼女が外へ出たことが大人にばれてしまったのだ。
彼女を追ってきた人たちの手には銃があった。
「おい小僧、彼女をさっさとこっちへ引き渡してもらおうか」
「嫌だ!彼女の笑顔を守るんだ」
そう言いながら、追手は俺の方へと銃口を向ける。
「言うことを聞かないんなら、今すぐ死ね!小僧」
「やめてっ!!!」
彼女は今にも泣きだしそうな顔で俺を追手から守ろうと彼らを睨みだす。
そうして、彼女はこう続ける。
「やめて、私があそこに戻ればいいだけでしょ!」
「だから、どうか彼は殺さないで」
彼女の説得で追手どもは理解したのか手から銃を放した。
そして、彼女は別れ際こう言った。
「ねえ、ユウ」
「たとえ幾億の時間が過ぎたとしてもどうか私のことを忘れないで」
彼女は、それだけ言い残し追手につれだれて去っていた。
俺はどうしても彼女を救わなければならない。