1話
わたしは人生で他人にこれほどまでじーっと見られたことはない。
ちなみに見つめられてるのではなく、見られてるのだ。
それはもう、じーーーっと。
もちろん、監視されるようなことはしていない。
わたしはただ図書館で本を読んでいるだけ。
・・・。
もしかしてこの本を読みたいのかな。
順番待ち?早く読めよっていうアピール?
どちらにしろそろそろ視線に耐え難くなってきたから、お姉さん言っちゃうよ。
「これ、読む?」
目の前で両肘をついてこっちを見ているなんとも可愛らしいお顔の青年は、一瞬だけ目を大きく見開きにっこり笑った。
「いや、ウチに腐るほどあるから大丈夫」
え、なに自慢?
好きな本を全部買えるくらい僕のおうちはお金持ちだって?
好きな本を全部買っても入るくらい僕のおうちは大きいんだって?
最近の高校生はずいぶん態度が大きいこと。
「ああそう。じゃあなにか用事?そんなに見られてたら読みづらいよ」
「おねーさんその本好き?」
「え?まぁ、うん。ミステリー小説は大好きだし、この藤井柊が書いた作品はだいたい読んだよ」
(なんなんだろうこの子)
「へえーそうなんだー。今ね、新作書いてるんだけど、読みたい?」
こてっと首を傾げて尋ねる姿は、不覚にも可愛らしいと思ってしまった。
でも分類するなら絶対に小悪魔だ。
にっこり笑っているけどなにか考えてるような、企んでいるようなそんな笑顔だ。
わたしには見えるぞ、彼に生えている悪魔の羽根とツノが。
この青年は一体なにを考えてるんだろう。
「新作って?なんで君がそんなこと知ってるの?」
著者の親戚かなにかだろうか。
そんな見ず知らずの人に見せていいものではないのは確かだ。
だいたいなんのメリットがあって発売前の新作を読ませるんだ。
絶対嘘だなこれ!
大人をからかうのもいい加減にして。
心の中で散々悪態をついたわたしだったが、彼の次の一言でその思考は完全に停止することになる。
「それ(本)書いたの、俺だから」
まるで"そのご飯作ったの俺だから☆"と言ってるようにしか聞こえなかった。




