逆チョコ
赤い包装紙に包まれた四角い箱。
箱の中には丸いトリュフチョコが入っている。
僕の思いを馳せている彼女の大好物だ。
バレンタインと言えば、女の子が男の子にチョコをあげる日として日本のお菓子メーカーが宣伝したのが始まりだとか。
そのバレンタインという日を利用して、恋い焦がれている男の子に告白できる日でもある。
そしてそのお返しをする日としてホワイトデーという日が設定されている。
だがしかし!!
男の子側はどうなのだ!
バレンタインで告白できるわけでもなければ、ホワイトデーはお返しの日だから告白も出来ない。
男の子が告白できる日というのはいつなのだ!
男の子は不公平だ!男女平等とやらはどこにいったんだ!
まぁ機会が無くても告白ぐらいしろよ、と思われても仕方ないぐらい、僕が女々しいから悪いんだけどさ。
まぁバレンタインに逆チョコ渡して告白しようって考え方がすでに女々しいんだけどさ!
それもこれも僕の思い人である彼女が男勝りなせいもあると思うんだ。
周りの人からは姉御って呼ばれてるのにも原因があると思う。
でもこうやって説明したところで、僕が女々しいのには変わりない。
身長だって低いし、顔も女の子寄りだし、椅子に座って気づいたら内股になってるし。
もう女として生活したほうがいいのではないかというぐらい女々しい。
もはや『女々しい』というよりも『女に近い』のほうが正しいかもしれない。
そんな僕は男勝りな彼女に逆チョコを渡すという、前代未聞な経験をしようとしている。
もしもここで成功したら、代々語り継がれていくことになるのだろうか。
『お父さんな。昔、逆チョコで彼女に告白したんだぞ』
『えー。逆チョコとかお父さんキモーイ!』
はっ! まだ見ぬ娘にまで馬鹿にされた!
もう失敗なのかなぁ・・・
ってゆーか彼女がなかなか来ないし!
「遅いなぁ・・・」
「誰か待ってんのか?」
「きゃあっ!」
背後から突然聞こえた声に驚いて変な声を出してしまった。
あ。一句できた。
『我ながら なんと女々しい 叫び声』
よけいなお世話だよ!
「わ、悪い。そんなに驚くと思ってなくて・・・」
「いや、こっちこそ・・・っていつから居たのっ!?」
振り向くとそこには僕の思い人の彼女が立っていた。
彼女は背が高いから必然的に僕が見上げる形になる。
とっさに手を後ろに回して、手に持っていた赤い箱を隠す。
「こ、こんなところでどうしたの?」
「いや、お前の姿が見えたからよ。お前こそこんなところで何やってるんだ?」
「それは・・・その・・・」
いざ渡すとなると急に恥ずかしくなってモジモジしてしまい、なかなか彼女の顔を見れない。
後ろ手に持った赤い箱を前に持ってくるだけでいいのに、たったそれだけの動作ができない。
「ん? なんだ? なんか持ってるのか?」
「ギクッ!」
「口で言うなよ。相変わらずよくわかんねー奴だな。もしかして・・・チョコか?」
ズバリ当てられたのに驚いて、からだが跳ね上がるかと思った。
目だけで彼女の顔を見ると、彼女の驚いた顔が見えた。
「・・・マジでか・・・お、お前もついにもらえるようになったんだな!」
「へ?」
「いやぁお前も一応男だもんなー。そりゃチョコとかもらっちゃうよなー」
「いや、その・・・」
彼女は勘違いしたらしく、僕が持っているチョコは『誰かにもらったチョコ』だと思っているようだ。
彼女は頭をポリポリとかいて照れくさそうに目を泳がせている。
早く訂正しなくては!
そう頭で考えるよりも早くからだは先に行動をしていた。
後ろに隠していたチョコをからだの前に持ってきて彼女に突き出す。
「これ! 君に!」
「いや、それお前がもらったチョコだろ? いくらあたしでもそこまでがめつい性格じゃ」
「君に渡すために作ったんだ! 良かったら受け取ってください!」
腰を90度の角度まで綺麗に曲げて、完全に下を向いた状態で彼女にチョコを差し出した。
「お、お前があたしにチョコぉ? あ、あれだろ! 義理チョコだよな! だよなー! アハハハ」
「本命ですっ!」
「ぶはっ!」
なぜか全身全霊を賭けて伝えたのに吹き出されてしまった。
そのリアクションに少しムッときた僕は、顔を上げて彼女を見た。
するとそこにはいままで見たことがないくらい顔を真っ赤にして、手の甲で口を隠している彼女の姿があった。
「・・・マジで言ってんのか? 冗談なら怒るぞ?」
「冗談で言えるわけ無いじゃん。本気だよ」
「ほら、あたしってデカイじゃん」
「そこは別に気にしない・・・かな」
「それにこんな性格だし」
「そこも含めて本命です」
「それにお前小さいし」
「関係無いじゃん!」
「しかも女みたいだし」
「それも関係ないよね!?」
「・・・マジであたしなのか? 人違いじゃねぇのか?」
「どうやったら君と他の人を間違えるんだよ」
どんどん赤くなっていく彼女。
意外と女の子らしいところがあるのかもしれない。
「今あたしらしくないって思っただろ」
「うっ・・・思ってないよ」
「やっぱり思ってたんじゃねぇか! 仕方ねぇだろ! 今日チョコあげて告白しようと思ってた相手がチョコ持ってたら、先に告白されたんじゃねぇかって思うだろ! そしたらなんだ。あたしに渡すチョコだとか言って告白してくるし・・・ズルイんだよ! バカッ!」
僕は呆然としていた。
もしかして何もしなくてもうまくいってた?
そう考えた瞬間力が抜けて地面に座りこんでしまった。
「お、おい。大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫・・・ってことは君もチョコ持ってるの?」
そういうと恥ずかしそうにカバンから青い包装紙にくるまれた箱を取り出して、片手で渡してきた。
「ほらよ。本命チョコだ。大事に食べろよ」
「本命・・・ありがとっ!」
「うっ! ・・・ホント女みたいなやつだな!」
彼女の言っていることはわからないが、好きな子から本命チョコをもらうことが出来てとても嬉しい!
このまま天まで登っていけそうだ!
「だからその、なんだ、あたしと付き合ってくれないか?」
目線を右下に向けながら彼女は言った。
僕は返事をした。
「こちらこそよろしくお願いします」
おしまい。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
バレンタインデーということで、短編を書いてみました。
色々とありますが、少しでもニヤニヤしていただければ幸いです。