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<連載版>私は卑しい聖女ですので、お隣の国で奉仕活動いたします  作者: 満原こもじ


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最終話:後日談

 最初はミヘバイル王国の海外政策かと思われた。

 ガルヴァ王国の属領である贖罪の里の南方の未所属地域に、ミヘバイルは植民地リベルポートを建設したのだ。


『南洋貿易の中継基地である。魔物多き地であるため、面積を広げる気はない。また貴国に対して含みはない』


 という説明がミヘバイルからガルヴァへ、多くの貢物とともに届けられた。


「ミヘバイルもなかなか殊勝ではないか。植民都市建設にわざわざ連絡を寄越すとはな。いかに我が国に近い場所とはいえ、未所属地域であるのに」 

「我がガルヴァとも修好を考えているということなのでしょう」


 リベルポートが建設された場所は天然の良港になっており、魔物さえどうにかできれば南洋貿易に絶好の位置だった。

 ガルヴァの王家も高官も、特にミヘバイルの説明に疑問を感じなかったのだ。

 魔物を駆逐してまで植民都市を建設しようとするのは、第一王子クレイオスの考えだという。

 王子が自分の力を誇示するために意欲的な政策を敢行しようとするのはよくあることだったから。


 唯一ガルヴァが瞠目したことと言えば……。


「ふうむ、実に速やかに魔物を駆逐したものだな?」

「クレイオス王子が武勇に優れているということは知りませんでしたな。もっとも魔物を倒して悦に入ってる程度のものですぞ。取るに足りません」

「ハハッ、そうだな。やつらが魔物を退治してくれるなら、我らにとっても重畳ではないか」


 ガルヴァ王国は見逃がしていた。

 リベルポート周辺の魔物退治を主導したのはクレイオスであったが、実際に現地で指揮したのは聖女ヒミコであったことを。

 それは植民都市建設の場所を確保するだけの目的ではなかった。

 魔物狩りを行う専門の人員を育ててリベルポートに配置し、魔物の脅威を払拭するとともに、魔物素材を流通に乗せる目論見があったのだ。


 もう一つガルヴァが見逃していたことがある。

 リベルポートが建設された主要目的に、贖罪の里の聖女達の受け入れがあったこと。

 クレイオス第一王子妃となったヒミコの説得により、聖女達はリベルポートやミヘバイル本国で働く者が多くなった。

 常に尊敬され、感謝されるため、ガルヴァ王国で働こうとする者はいなくなった。

 聖女がいなくなり安価な治療院が閉院したことは、ガルヴァの王都ザラキでちょっとした話題になったが……。


「贖罪の里で聖女が生まれなくなったんだよ。罪が許されたのかもしれないねえ。でも元聖女はザラキにもたくさんいるからね」


 という治療院長タルモの言葉に、そういうこともあるかと皆が納得したのだった。

 実際はタルモがすっとぼけているだけだったのだが。

 ザラキ在住の元聖女達のネットワークはスパイ網として機能するのだが、ガルヴァ首脳は後々まで気付かなかった。


 問題が表面化したのは、王都ザラキから聖女が消えて数年経過した時だった。

 ザラキはガルヴァの都として相応しい位置と平野の面積を持っていたが、惜しむらくは瘴気を集めやすい土地だった。

 五〇〇年前にガルヴァ王が贖罪の里を滅ぼさず聖女を活用しようとしたのは何故か?

 聖女達が奉仕で力を失うのは何故か?

 その知識が失われてしまっていたのだ。


 聖女達は存在するだけで瘴気を浄化する力があった。

 古代のガルヴァ王は聖女を利用してザラキを浄化することを考えついた。

 かつて聖女の里と呼ばれた集落の民を罪に落とし、贖罪の里の卑しき聖女としてザラキに集める巧妙なシステムを作り出したのだ。

 そのシステムは崩壊した。


 ザラキは疫病、ゴーストの増殖、治安の悪化、天候不順で混乱した。

 さらに王族が次々と死ぬ事態になると恐慌状態に陥った。

 ガルヴァで内乱が勃発する。


 後に統一ミヘバイル王となったクレイオスは語った。


「ザラキとは『皆殺し』を意味する古語が転じた名称なんだ。それだけ危険な場所だったことが、昔は知られていた。しかし聖女を利用して瘴気を解決する方法に頼り過ぎて、その危険さが忘れられてしまったのだろうな。もっとも瘴気さえなければ、ザラキがガルヴァ統治の上で地理的に最適だということは異論がない」


 ガルヴァに内乱が勃発する直前、ミヘバイルは本国から海岸沿いにリベルポートまで街道を通した。

 つまり凶悪な魔物の生息するルホークリス大山脈を迂回するルートだ。

 これによりミヘバイルは本国から安全に兵をリベルポートを送ることができるようになったが、ガルヴァが気付くことはなかった。


 ガルヴァに内乱が起きると、ミヘバイルはまず聖女の里(贖罪の里)を併合する。

 この頃既に聖女の里とリベルポートとの間の取り引きはかなり盛んになっていたので、この措置はミヘバイルと聖女の里の双方に歓迎された。

 ちなみに聖女ヒミコがゴブリンから手に入れた魔物除けの草は大量に栽培され、ガルヴァ南部からリベルポートに至る地域の安全確保に大きく寄与した。


 聖女の里の景気がさらによくなると、ガルヴァ南部の領主貴族はミヘバイルにすり寄ってくる。

 幼い王子や王家直系から遠い者を立てて争う大貴族達に付き合えなくなったのだ。

 ガルヴァは滅びる。

 名前くらいは残るかもしれないが、それはかつてのガルヴァとは別物だ。

 自家を守るために国力のあるミヘバイルを頼るべき。


 クレイオスは鷹揚に許した。


「構わんぞ。我がミヘバイルの法に従ってもらうが、旧領と爵位はそのまま安堵する。内乱の影響とミヘバイルに従う準備もあるだろうから、三年間は税を免除しようではないか」


 破格の待遇だった。

 領主貴族は我も我もとミヘバイルに帰属した。

 相争うガルヴァ大貴族達が気付いた時には大勢が決まっていた。

 疲れ切ったガルヴァ大貴族達は、ミヘバイル軍とミヘバイルに従った貴族の軍に各個撃破されて滅びた。

 統一ミヘバイルが誕生する。


「ヒミコほどのバカげた能力ではなくとも、聖女の力が失われるのはもったいない。ザラキの浄化にはガルヴァとは異なる手法が必要だ。現在の魔道技術ならば可能であろう」


 クレイオスは旧都ザラキの復活に拘った。

 というかザラキ周辺が瘴気に侵されると、旧ガルヴァ地域の統治が難しくなってしまうのだ。

 苦節一〇年を経て新浄化魔道装置が完成した。

 その頃にはルホークリス大山脈北側を迂回する街道も開通していた。


「大山脈を直接経由する街道がもう一度繋がるといいですのにねえ」

「現在の魔素噴出状況ではムリだ。ただ魔境ルホークリス大山脈の凶悪な魔物を倒せる人材を育成することは重要だな。安全保障上でも魔物素材供給の面でも」

「ドラゴンのステーキはおいしかったですものね」


 聖女王妃ヒミコはその人気と『業深き者』としての実力で、不安定になりがちな統一初期を支えた。

 しかし、『私は卑しい聖女でございますので』という口グセは死ぬまで抜けなかったという。

 ヒミコは絶大な実力を持ちながら常に腰が低く、誰からも愛された。


 最もヒミコを愛した男は言った。


「オレがヒミコに出会ったのは偶然だった。偶然だったというのは神に失礼かもしれんな。運命だったに言い換えようか。彼女に命を救われた。そしてオレはヒミコのコンパスになると決めたんだ」


 この言葉を聞いたヒミコは笑った。

 『コンパス』の意味を真に理解した者はヒミコ以外にいなかったろう。

 ヒミコは言った。


「クレイオス様はお優しいんですよ。とっても」


 クレイオスの辣腕ぶりを知っている者は、妃には甘いのだなと人間味を感じるとともに、二人の仲睦まじさを統一ミヘバイルのために祈った。

 いつまでもお幸せに、と。

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