第7話:婚約と未来
――――――――――一年後。
クレイオス殿下の御厚意で『聖女ヒミコの奉仕院』を建てていただきました。
毎日回復魔法による奉仕に精を出していたところ、コトール王都民の皆さんに慕っていただけるようになったのです。
私など卑しい聖女に過ぎませんのに。
ミヘバイル王国の方々は大変に優しいです。
その内にボランティアとして働いてくださる方が出始めました。
何と意識の高いことでございましょう。
国の援助で炊き出しを行えるようになり、孤児や貧民の面倒を見られるようになり、さらには教育を与えたり就職を支援したりする大きな組織になりました。
ミヘバイルは素晴らしい国ですね。
「聖女殿」
「ようこそおいでいただきました、クレイオス殿下」
「今日も精が出るな」
「いえいえ、私はやりたいことをやっているだけですので」
殿下には感謝しかありません。
「私の我が儘に付き合わせてしまって申し訳ありません。あの、お国の予算は大丈夫なのでしょうか?」
「いや、それは全く問題ない」
「何故でしょうか?」
「治安維持にかかる費用が減っているからな」
孤児や住所不定者を奉仕院で引き受けているので、治安が良くなったとのことです。
お役に立てていて嬉しいですね。
「貧民街を浄化してくれたろう?」
「私は卑しい聖女ですから、それくらいのことは喜んでさせていただきます」
貧民街には瘴気が充満していました。
これでは犯罪や病気の温床になっても仕方ありません。
私は『業深き者』ですから、浄化は得意です。
いずれ貧民街は再開発され、瘴気の溜まりにくい構造にするそうです。
私の意見も取り入れてくださるようです。
「孤児の教育や就職支援活動で、長期的に経済規模の拡大が見込まれているんだ。聖女殿がコトールに来てからいいことばかりだぞ?」
「それはそれは。過分な褒め言葉にございます」
「だからオレの妃となってくれ」
「ええっ! ま、またその件でございますか? 私は卑しい聖女でございますから、殿下の妻など恐れ多くてとても……」
何故か最近殿下が求婚してくるのです。
もったいないことではありますけれど、私は罪人でございます。
殿下に相応しかろうはずがありません。
大体貴族の方々が卑しい私を認めるはずなどないではありませんか。
「これを見てくれ」
「はい、何でありましょうか?」
「聖女と贖罪の里に関する調査報告書だ。ようやく上がってきた」
聖女と贖罪の里に関する調査報告書?
殿下は贖罪の里に興味がおありでしたかね?
「簡単に口頭で説明しよう。現在贖罪の里と呼ばれる集落は、昔は聖女の里と呼ばれていたんだ。当時はおそらく『聖女』という言葉あるいは存在に、否定的なニュアンスはなかったと思われる」
「……」
な、何だかクレイオス殿下が怒っていらっしゃいますか?
機嫌が悪そうに思えます。
どうしたのでしょう?
「わかるか聖女殿。贖罪の里の聖女が生まれながらに罪を持つから奉仕せねばならんなどと言うのはウソっぱちだ」
「ええっ? ウソなのですか?」
「ああ。罪人とされたのは約五〇〇年前、当時ガルヴァ王国と争っていた国に聖女の里が与したせいだ。里の女性が魔法を使えるようになるのは、血統と環境の両要素による。罪など全く関係がない」
全然知らないことでした。
クレイオス殿下がパサッと調査報告書を放ります。
「ガルヴァは敵となった聖女の里の民を憎んだ。しかし聖女の有用性もまた知っていた。それで聖女が回復魔法や治癒魔法による奉仕に協力すれば、それ以上の賠償を聖女の民の集落に求めないことを取り決めた」
クレイオス殿下のお顔が苦々しげになります。
「ガルヴァが悪辣なのはここからだ。聖女の不思議な力は罪を得ているからだとの噂を流し、建国神話をでっちあげて、贖罪の里の民を被差別階級に落とした。五〇〇年の時を経て、現在はそれがすっかり定着してしまっている」
「そ、そんなこととは……」
では私のやっていることは全てムダなのでしょうか?
いえ、贖罪の里に罪がないならば、そもそも奉仕が必要ないわけで。
あっ、では聖女の奉仕は搾取されている?
というわけでもないですね。
お恵みはいただいてますし。
ええと?
「ちょっとわからなくなってしまいました。私は何をすればいいのでしょうか?」
「聖女殿はオレの妃になってくれればいい」
「またそんなことを……」
「何か問題はあるか? 聖女殿が罪人などではないということは、今説明したろう?」
「……クレイオス殿下の仰る通りですね。でもお偉い方々の人間関係とか力関係とかがあるのではないでしょうか?」
上流の方々の世界のことは私、よくは存じませんけれども。
「全く問題はない。聖女殿は貴族の間でもすこぶる評判がいいからな」
「何故でしょう?」
「聖女殿の回復魔法は腰痛や肩こりによく効くことが知れ渡っているのだ」
「えっ?」
奉仕院にお貴族様がいらしていたのでしょうか?
失礼はなかったでしょうか?
「父上も納得させた」
「陛下もですか?」
「一人でフラフラ出歩くのは禁止という条件をつけられたが」
「ドラゴンがいる場所をフラフラ出歩くのは危ないですよ? どうしても調査が必要であるなら、私がお供いたします」
「それはオレの求婚を受けてくれるという意味だな?」
「えっ?」
「クレイオス殿下、聖女様、おめでとうございます!」
「えっ?」
「「「「「「「「うおおおおおおお!」」」」」」」」
「「「「「「「「パチパチパチパチ!」」」」」」」」
大歓迎のようです。
私がクレイオス殿下のような素敵な方の妃でいいんでしょうか?
夢のようです。
「で、ではよろしくお願いいたします」
「うむ、正式に婚約を取り交わそう。聖女殿は歳はいくつなのだ?」
「一五歳にございます」
「では、婚礼の儀は三年後だな」
だそうです。
「あの、殿下」
「何だ? ここから却下は許さんぞ?」
「いえ、そうではなくてですね。私は聖女のお仕事しかできませんが、よろしいのでしょうか?」
クレイオス殿下の妃としては不足なのでは?
「それでいい。聖女殿にしかできぬ仕事だからな」
わあ、自分の奉仕が認められたようで嬉しいです。
微笑むクレイオス殿下に抱きしめられます。
「「「「「「「「うおおおおおおお!」」」」」」」」
「「「「「「「「パチパチパチパチ!」」」」」」」」
「……殿下、恥ずかしいです」
「クレイオスと呼んでくれ、ヒミコ」
名前を呼ばれて顔が熱くなります。
「……クレイオス様」
「うむ、今後ともよろしく頼む。ヒミコ」
鳴りやまぬ祝福の中、私は確かな幸せを感じています。
許されることを求めるのではなく、クレイオス様とともに歩む未来。
里にいた頃は、奉仕以外の人生があるとは思いもしませんでした。
クレイオス様、私こそよろしくお願いいたします。
◇
――――――――――さらに半年後。
「あのう、クレイオス様。才能のある者には、魔法を教えてもようございますか?」
「魔法の才能のあるなしが見ただけでわかるのか。国力が上がるな。むろん構わんぞ」
「わあ、助かります。弟子に奉仕院を任せることができれば、私は瘴気にまみれ魔物の跋扈する地を沃野に変えたいと思います」
「おう、ヒミコは有能だな。それより他の聖女達をミヘバイルに呼び寄せてもいいか?」
ミヘバイルはいい国ですからね。
ガルヴァで奉仕するより聖女のためになると思います。
「はい。可能でありましたらよろしくお願いいたします」
「うむ、楽しみにしていろ」
クレイオス様はどうやって聖女を連れてくるつもりなのでしょうね?
明日投稿の次話が最終話になります。




