第4話:お肉を調達
大分西に来たからか、人に会わなくなりました。
心なしか道も荒れてきた気がしますね。
あ、看板? 立札? があります。
何と書いてあるのでしょう?
『これより西、魔物注意。入るべからず』
わあ、ありがたいですね。
ようやく飛行魔法の出番です。
もう飛んでいっても、ガルヴァ王国の人に見つかることはないでしょう。
見つかっても逃げ切れそうです。
「でも……」
もう少し歩みを進めます。
どんな魔物がいるのでしょうね?
いえ、怖いとかではなく。
その、敵を知り味方を知れば何とやらと言うではありませんか。
『ぐう』
……ええ、お腹が減ってしまったのです。
最後の集落を過ぎてから結構時間経ってますし、お弁当もとっくに食べてしまいましたし。
食べられる草はあるのですけど、やっぱりお腹に溜まるのは……。
ガサッ。
はい、魔物が近付いてきていたのはもちろんわかっていましたとも。
名前はよく知りませんけれど、何とかベアーというおいしいクマの魔物です。
やりました!
お肉を授けてくださった神様に祈りを捧げます。
「がおおおおおおお!」
「ぺい!」
風魔法で首を刎ね飛ばします。
私がいることを知って寄ってきて、躊躇なくいきなり襲ってきましたね。
ということは人間の味を知っている個体かも知れません。
駆除しておいて正解でしょう。
クマの魔物はこの辺りの森では最強かもしれませんが、私に向かってくるのは賢くありませんよ。
何と言っても私は卑しい聖女、かつ『業深き者』なのですから。
もっとも去ろうとしたって御飯を逃すつもりはありませんでしたけれど。
魔法でクマを解体してお肉と野草を煮て食べていますと、オオカミの群れが現れました。
クマを倒して食べている私を強者と見て、襲ってくる気はないようです。
おずおずと話しかけてきました。
「わう」
「あなた達は賢いですね。私は必要な部分をいただきましたから。もうそのクマはいりません。あなた達にあげましょう」
「わう!」
うふふ、可愛いですね。
お腹が減っていたのかもしれません。
喜んでクマの亡骸を持っていきましたよ。
オオカミはあまりおいしくありませんので、襲ってくるおバカさんでなければ戦闘になりません。
私も一応何食分かのお肉は確保しましたので、それ以上は必要ないですし。
さて行きますか。
あれ? オオカミのボスが戻ってきましたよ。
「どうしたのですか?」
「わう」
「えっ? これをくださる? あっ!」
確かコンパスと呼ばれるものです。
持っていると方角に迷わないとか。
方向音痴の私にとってはありがたいですねえ。
「わうわう」
「そうですか、人間の荷物の中にあったものですか。これを手に入れたのはとても嬉しいです」
「わう」
「いえいえ。では私は行きますね。さようなら」
飛行魔法を起動して、道なりに西へ!
◇
「ふわああああ?」
街道沿いに西へ飛んできましたけれど、かなり思っていた状況と違っています。
完全に街道がズタズタになってしまっていますよ?
谷です、谷。
こんなの歩いては越えられません。
街道の途中で会った旦那様に教えていただいた、街道が寸断されているという情報が正しかったですね。
ガルヴァとミヘバイルはほとんど交流がない、行くなら海路というのもわかる気がします。
というかこんなところはなかなか探検隊でも来られないのではないですかね?
かなり強い魔物の気配がプンプンしますし。
でもどなたかが調査しておくべきなのでは?
どうやら卑しき聖女で『業深き者』である私の出番のようです。
下に降りてみましょう。
あれ、人影があるようですね?
子供でしょうか?
「こんにちは。卑しき聖女でございます」
「キュイキュイ!」
人ではなくてゴブリンでございました。
ゴブリンは人型ではありますが、魔物とされています。
邪気持ちだからです。
ただ魔物だからと言って敵とは限らないのですよね。
賢いオオカミさん達のような子もいますし。
このゴブリンは脅えています。
心持ち表情が幼いような気がしますので、多分子供だと思うのですよ。
可愛そうに。
怖がらなくてもいいですよ。
手持ちの食料は充実していますし、あなたはあまりおいしそうではありませんので、狩って食べようとは思いません。
「キュイ……」
「足をケガしているのですね。治して差し上げましょう」
治療費はいただけそうにありませんけれど。
これも奉仕の内でしょうしね。
「ヒール!」
回復魔法を当てます。
魔力光に驚いていますね。
ゴブリンの社会に魔法はないでしょうから。
「いかがでしょう? もう大丈夫かと思いますが」
「キュイキュイ!」
喜んで跳ね回っています。
ゴブリンと言えども可愛らしいですね。
私も嬉しいです。
「そうだ、あなたお腹が減ってはいませんか?」
「キュイ!」
空腹ですよね。
そうだと思いました。
だって私も空腹ですもの。
枯草枯れ枝を集め、火魔法で燃やし、鉄板を熱します。
「キュイ?」
「鉄板をどこから出したかですか? 収納魔法というものがあるのですよ。大きな荷物はしまっておくのが旅の心得です」
「キュイキュイ!」
すごいすごいと褒めてくださいますけれど、これは当然なのですよ。
何故なら私は『業深き者』ですから、少々複雑だろうが魔力をたくさん使用しようが、魔法ならば使えます。
過去の『業深き者』の先輩が書き残してくださった、魔法の指南書に従ってどんどん習得しましたからね。
「風魔法で薄切りにしたお肉を焼いて塩を振ってと。さあ、召し上がってくださいな」
「キュイキュイ!」
うふふ、大喜びですね。
よかったです。
……私一人ですと鉄板は必要なかったりします。
浮遊魔法で浮かせたお肉を炙り焼きして食べますので。
お行儀が悪いですよね。
ちょっと反省です。
ただこのゴブリンの子は心配です。
ゴブリンって群れで暮らす社会性のある魔物のはずなのですよ。
子供がケガをして動けなくなっているのに、助けが来ないってどういうことなのでしょう?
群れからはぐれてしまったのでしょうか?
「キュイキュイ!」
「えっ? 群れに案内してくださるのですか?」
杞憂でした。
単にこの子は遠くまで遊びに出るいたずら小僧だったようです。
「キュイキュイ!」
「魔物が出るから危ないって言われる? 当たり前ではないですか。一人で群れの外に出てはいけませんよ」
「キュイキュイ!」
「えっ? 魔物の嫌う草がある?」
ゴブリンの子が得意そうに見せてくれた腰蓑のようなものは、魔物の嫌う草で集めて作ってあるようです。
へえ、ゴブリンの知恵も大したものではないですか。
私も勉強になりました。
「これは私達にとっても有用な草かもしれませんね」
「キュイキュイ!」
「ゴブリンはこの草を栽培しているのですか? すごいですね」
ゴブリンは単体では弱い魔物と聞いていますけれど、色々工夫して暮らしているのですね。
大したものです。
「キュイキュイ!」
「お礼として種をくださるのですか? ありがとうございます、大変嬉しいです」
その後ゴブリンの集落に案内してもらい、大歓待を受けました。
私ももてなしを受けてばかりでは申し訳ありませんので、周辺でおいしそうな草食魔獣を何体か仕留め、お肉にして宴会に花を添えさせていただきました。
楽しかったですねえ。
私がオオカミやゴブリンと意思疎通できるのはどうしてかですか?
何故でしょうね?
そこを疑問に思ったことはありませんでした。
心を透明にして根性を発揮すれば、大体話は通じると思いますよ。
相手に知性があるならばですが。
魔物除けの草の種をもらって、さらに西のミヘバイル王国を目指します。




