第2話:『業深き者』
聖女とは何か、ですか?
定義や決め事があるのかもしれませんけれど、厳密なことを私は知りません。
ガルヴァ王国で一般的に聖女と言いますと、贖罪の里に生まれる女性のことを指します。
生まれつき眉間の少し上に赤い印があり、回復や治癒などの魔法を使用できます。
聖女が魔法を使えるのは、かつて神様に逆らった呪いと言われています。
何と贖罪の里の民は過去、神様に盾突いて暴れ回ったことがあるということなのですよ。
現在では考えられない、恐れ多いことですね。
反逆した歴史など許しがたいということで、当時の記録などは一切残っていないのですけれど。
贖罪の里はガルヴァ王国でも南の端っこに位置しています。
贖罪の里が神様に反逆したことで、ガルヴァ王国民も大変な迷惑を被ったそうで。
つまり聖女は生まれながらにして罪人なのですね。
これが人々に忌避される理由です。
贖罪の里を離れて他人に治癒魔法を使うなどしていると、いずれ魔法は使えなくなります。
要するにその聖女の分担した罪がなくなるということですね。
それで罪が許されるのです。
額の赤い印は消えますので、普通の罪なき人と見分けもつかなくなります。
贖罪の里の聖女には、大きく二つの選択肢があります。
罪を抱えたまま里で生きていくか、里を出て罪を贖うか。
里に残るのは楽な生き方です。
罪人として他者の蔑む視線に晒されなくてすみますから。
でも女が全員回復魔法治癒魔法の使い手である里は死亡率が少なく、すぐ人が増えてしまうのです。
里を出る聖女は多く、私もまたその一人なのでした。
特に私は『業深き者』ですので、たくさん魔法を使って奉仕せねばなりません。
里に残る選択はありませんでした。
里を出た聖女は、ガルヴァ王国の首都ザラキを目指します。
何故と言われても、そういう習慣ですから。
人が多いですのでたくさん奉仕できますし、また先輩聖女が多いですのでアドバイスをもらいやすいですしね。
私も例に違わず、王都ザラキに行きました。
「おう、そこの可愛い子ちゃん」
「私のことでございましょうか」
「おお、こりゃあすげえ上玉……ん? あんた聖女か?」
「はい、卑しい聖女でございます」
ザラキに到着するとすぐ、殿方数人に声をかけられました。
何と言いますか、ワイルドな感じの方々でしたね。
贖罪の里にはいないタイプでした。
王都ザラキでは多いのでしょうか?
「メチャクチャ美人な姉ちゃんだな」
「おう、驚いたぜ」
「ありがとうございます」
見ず知らずの卑しい聖女なのに褒めてくださるなんて、いい方達だなあと思ったのです。
最初は。
「姉ちゃん、ちょっとオレ達に付き合わねえかい?」
「おう、美人に酌してもらえると、酒が美味いんだぜ」
「申し訳ありません。私はザラキに着いたばかりでして。聖女の治療院に行かねばならないのです」
「聖女の治療院か」
「あんた、場所知ってるのかい?」
「いえ、存じませんので、どなたかに伺おうと思っていました」
「結構わかりづらいところにあるんだぜ」
「そうなのですか?」
私は方向音痴なので、到着するまでに時間がかかりますかねえ?
方向音痴も我が身に科せられた罰なのでしょうか?
つくづく呪わしいです。
たくさん奉仕いたしましょうと、心に決めました。
「心配することはねえ。オレ達が案内してやろうじゃねえか」
「本当ですか!」
「おうともよ。奇麗な姉ちゃんのためだからな」
「ありがとうございます」
王都の方はとても親切だなあと思いました。
その方々について行きますと……。
「随分入り込んだところですのね。確かにわかりにくいです。助かります」
「ハハッ、姉ちゃんまだオレ達が治療院に行くと思っているのかよ」
「はい? どういうことでしょう?」
「オレ達の都合を優先したってことだな。オレ達に付き合えって言ったろう?」
皆がニヤニヤしていました。
こんなこと言っては何ですが、あんなゲスな顔は見たことがありませんでした。
ハンサムな顔に直して差し上げた方がよろしいのでしょうか?
でも私の手持ちの術では不可能です。
残念ですねえ。
「申し訳ありません。私は治療院に行かねばなりませんので、失礼させていただきます」
「おっと、姉ちゃん不用意じゃねえかい?」
「そうとも。オレ達から逃げ切れるわけはないだろうが」
「ははあ」
囲まれてしまいました。
わたしを逃がさない意図があるのでしょうか?
確かに普通の聖女なら逃げられなかったかもしれませんが。
私は『業深き者』ですから、全然問題はありません。
一応この方々が何をしたいのか、確認しておくべきですね。
「あのう、こんなことを質問して、大変申し訳ないのですが」
「ん? 何だ、美人の姉ちゃん」
「これはかどわかしの類なのでしょうか?」
「ハハッ、今更その質問かよ。笑っちまうぜ」
「決まってるだろ。存分に可愛がってやるぜ!」
「ははあ」
この方達は悪漢だったようです。
ザラキにはよろしくない者もいると話には聞いていましたが、いきなり当たってしまうとは。
ツイてないですね。
いえいえ、世間知らずの私に貴重な勉強の機会を与えてもらったと思うべきでしょう。
「姉ちゃん、ボーッとしてるんじゃねえよ!」
掴みかかってきた方の腕を取って捻り上げます。
「あいててててて!」
「やるじゃねえか」
「それで勝ったと思うなよ!」
勝ったとは思っていないですけれど、私は身体強化魔法が得意ですよ?
魔法を使えない普通の方に後れを取るわけはないのですが。
腕を取って絞めていた方を振り回して攻撃です。
「ぎゃっ!」
「な、何しやがるっ!」
怯んでいますね?
私の言うことを聞いてもらうにはどうしたらいいですかねえ?
そうです。
「バインド!」
動けなくする魔法で悪漢五人を全て倒します。
「申し訳ありませんが、私は卑しい聖女ですので治療院に行かねばならないのです」
「「「「「……」」」」」
表情も動きませんのでどう思っているか、実際のところはわかりません。
でもちゃんと聞く姿勢になっている気がします。
「私以外の聖女も奉仕のお仕事がございます。ですからあなた様方のみのお相手をすることはできないのです。勘弁してはもらえませんでしょうか?」
「「「「「……」」」」」
肯定やら否定やらサッパリわかりませんね。
麻痺を解きましょう。
「キュア!」
「あ……動ける」
「あの、卑しい聖女のお仕事についてなのですけれども……」
「ば、化け物!」
逃げ散ってしまいました。
美人と褒めてくださっていたのに、最後は化け物ですか。
ガッカリです。
あの方達の聖女の扱いについてはどう変わるでしょうね?
お仕事を理解してくださるといいのですが。
さて、私は治療院を探さねばなりませんね。
◇
――――――――――治療院にて。
「かかかっ。そうかいそうかい。いきなりチンピラに絡まれたかい」
王都在住の元聖女タルモさんが大笑いです。
タルモさんは立派に罪を償い、今は里から出てきた聖女を取りまとめて世話してくださる偉大な先輩なのです。
「そうなのです。ビックリしてしまいました」
「普通聖女はちょっかい出されないものなんだが。質の悪いのに当たっちまったね。まあザラキは人口が多いから、いろんなのがいるわいな」
「『バインド』で転がしてよくよく言い聞かせておきました」
「『バインド』? あんた麻痺捕縛の魔法も使えるのかい?」
タルモさんの疑問ももっともなのです。
普通の聖女は回復魔法と治癒魔法、あとはせいぜい浄化、身体強化魔法くらいしか使えませんから。
「ヒミコ、あんたは『業深き者』なのかい?」
「はい」




