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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

弟みたいな僕

***BL***背の低い僕は、彼の横に立つと弟にしか見えない。高校生と大学生の二人の話。ハッピーエンドです。

 彼はとても綺麗だ。女性にも男性にもモテる彼は、僕の憧れだった。



**********



「あの、コレ、、、。来生きすぎさんに渡して欲しいんです!」

一瞬、僕にラブレターかと思った、、、。

来生きすぎさんですね!わかりました。あ、、、お返事は?」

「い、い、、いらないです。気持ちだけ伝えたいので!」

女の子は、そう言って、僕に手紙を預けると友達と一緒にお店を出た。

 仕事中に来生きすぎくんに手紙を渡すと嫌な顔をするので、ポケットに入れて置く。帰りに忘れずに渡さないと、、、。



 僕は夜の8時までバイトをして上がる。来生きすぎくんも8時まで、更衣室で着替えをしつつ、ポケットの中を確認する。それが僕の日課。


来生きすぎくん」

「、、、」

「今日預かったんだ、返事はいらないって、、、」

「あのさ、、、」

僕が来生きすぎくんの顔を見ると

「、、、何でも無い」

と、呟いた。


 ごめんね、来生きすぎくん。本当は僕だって断りたいんだ。でも、相手はお客さんだから断り方が難しくて、つい預かっちゃう。

 僕が小さいから、声を掛けやすいからだと思うけと、本当はすごく嫌なんだ。

 だって、僕だって来生きすぎくんの事好きだから、、、。



 来生きすぎくんといつも一緒に帰る。来生きすぎくんが一人で住んでるアパートは、僕のマンションより少し先にあるらしくて、いつもマンションの前まで送ってくれる。



「君、中学生?」

「いえ、高校生です」

「あ、一年生か。頑張ってね」 

本当はもうすぐ高ニなのに、背が低くて童顔だからか、いつも中学生に見られてしまう。来生くんと歩いていたら、弟と間違えられるし、、、。

 だから、来生くんも僕の事、何とも思って無いんだと思う。


 

すい、今日参加だろ?」

来生くんに聞かれた。先週、バイトを辞めた菜々ちゃんの送別会だった。

「うん、最後だから参加するよ」

「一緒に行こう」

と言われて、来生くんに着いて行く。今日は土曜日で昼から夕方までのバイトだった。送別会は5時半からで、僕達は着替えてお店に向かう。 

 菜々ちゃんは可愛い人で。長い髪が緩やかに巻かれて、フワッとしたスカートと、踵が細いヒールの靴が良く似合う人だった。


かなでくん!」

菜々ちゃんは来生くんの事を名前で呼ぶ。

「こっち、こっち!」

自分の隣の席を来生くん用に確保してあったのか、一つだけ空席があった。来生くんは呼ばれて、菜々ちゃんの隣に座った。

 僕は、一番端のいてる席に座る。所謂注文をする人の場所で、僕はずっとみんなの注文をして、届いた商品を受け取る係だった。

 来生くんは菜々ちゃんの隣に固定されていた。他の人は多少移動したりしてるのに、来生くんは移動が無かった。菜々ちゃんはご機嫌で、来生くんと話してばかりいた。

 本当にお似合いだな、、、。菜々ちゃんの細い手首や指が綺麗だった。整えられた爪に、優しいピンク色のネイルがしてあって、すごく可愛かった。

 送別会は2時間だった。幹事が支払いをしている間に、みんなお店を出て行く。お店の前で二次会の話しになったので、近くの人に

「僕、高校生だから帰りますね」

と断って帰る事にした。ご機嫌な菜々ちゃんの所に、最後の挨拶に行く。菜々ちゃんは来生くんと腕を組んでいた。

すい!俺も一緒に帰るよ!」

来生くんに呼び止められた。来生くんは菜々ちゃんに最後の挨拶か何かを話して、するりと腕を解くと僕の所へ来た。来生くんの肩口に見えた菜々ちゃんの顔がすごく不機嫌そうで怖かった。

「最後までいなくて良いの?」

と聞くと

「ちょっとね」

と誤魔化した。しばらく歩いて、みんなから離れると

「香水と柔軟剤の匂いで、気分が悪くて、、、」

僕にだけ、こっそり教えてくれた。

「菜々ちゃんも来生くんの事、好きみたいだね」

僕が言うと来生くんは、苦笑いをしながら

「でも、俺は苦手」

と言う。

「え?あんなに可愛いのに?」

「確かに可愛いとは思うけどね」

否定はしないんだ。

「俺、女女した感じの人苦手なんだ、、、」

「意外、菜々ちゃんと来生くん、二人で並んでるとすごくお似合いなのに」

来生くんがムッとした。

「今日だって、すいの横に座りたかったのに、ずっとあの席だった。すいの横が空いた時、移動したかったのに、菜々ちゃんに腕を掴まれて行けなかった」

「、、、」

すい、ずっと注文したり、飲み物配ったりして、ゆっくりして無かっただろ?、、、」

「うん、でも、仕方ないよ。一番端っこで、注文しやすいしさ、、、」

「向かいに座っていた辻さんは何もしてなかった、、、」

「僕が一番年下だし、、、」

「そんなの関係無いよ、、、」

「ありがと、次はもうちょっと上手にやるから」


 もうすぐ僕のマンションだ。

「来生くんは全然酔わないね」

「2時間だけだからね、酔っ払っちゃう前に終わっちゃった。二次会行ったら、わからないな」

「そっか、、、」

「、、、すい、菜々ちゃんの事好きなの?」

「え?なんで?」

「菜々ちゃんの事、可愛いって言ってたから、、、」

「菜々ちゃんは可愛いよ。でも、僕の好きな人は、、、。!」

危ない、危ない。危うく、来生くんの名前が出る所だった、、、。

すい、好きな人がいるの?」

「、、、うん」

「そっか、、、そうだよね」

来生くんは好きな人いるのかな、、、。聞きたいけど、知るのが怖かった。

「また、水曜日に」

「ありがとう。来生くんも気を付けてね」



*****



すい、俺の大学の文化祭興味ある?」

「うん、今年はオープンキャンパスに行かないとって考えてたから、行ってみたい」

「来月あるから、一緒に行こうよ」

「ホント?案内してくれる?」

「いいよ。日時連絡するから、連絡先交換しよう」

バイトの後、タイムカードを押してから連絡先を交換した。

「あんまり人が多いと大変だから、他の人には内緒な」

「うん、わかった!」

高校生のバイトは他にもいるから、誰か誘うとみんな来たがりそうだった。休みの日に来生くんと会えるなんて、それだけでも貴重な体験だから、僕は来生くんが言う通りみんなには内緒にした。

 夜、来生くんから文化祭の日程が来た。丁度バイトが休みの日だった。来生くん、僕のスケジュール見てから誘ってくれたのかな?


 大学の文化祭の日、来生くんは僕のマンションまで迎えに来てくれた。

 大学は、バイト先のある駅から電車で二駅先にある。だから、あのバイト先の大学生の内、何人かは来生くんと同じ大学だ。

 来生くんは、他県から受験して来たから、今は一人暮らしをしているらしい。

「一人暮らしって大変?」

「んー、まぁ、何とかなってるけど、病気になると困るから気を付けてるよ。病院とか探すの面倒だしね」

「ご飯とか、自分で作るの?」

「簡単なモノならね」

「一人暮らしか、、、」

憧れるけど、他県の大学に行ったら来生くんと会えなくなるのかな、、、。それはちょっと嫌だな。



 最寄り駅からバスに乗った。

「バスだと大学の前まで行けるから」

と言われて納得した。電車の駅からだと、ちょっと遠いらしく二つ先の駅からバスに乗るより、此処で乗った方が楽なんだそうだ。

 大学の構内を歩くと、来生くんの知り合いが何人も声を掛けて来る。来生くんは大学でも人気者なんだな。

「来生くん、弟さん?」

「可愛いー!」

「中学生?」

僕は、えへへと笑って誤魔化した。 

「バイト先の友達、高校生だよ」

女の子達が来生くんを囲む。女の子達は来生くんに一緒に回ろうとしきりに誘っていた。僕は、少し離れた場所で話しが終わるのを待っていた。

瀬河せがわくん」

「え?」

呼ばれて振り向くと菜々ちゃんがいた。なんで?

「菜々ちゃんもこの大学ですか?」

「ううん、違うよ。友達がいるから遊びに来たの。かなでくん、困ってるね」

菜々ちゃんは遠慮無く、来生くんに近寄った。

かなでくん、早く行こうよ!」

菜々ちゃんが来生くんの腕を組みながら言った。僕は静観するしか無かった。

 一瞬、女の子達が静かになった。菜々ちゃんは

「ほらっ!瀬河くんも待ってるよ!」

と言って、来生くんを女の子から引き剥がした。

 菜々ちゃんのお陰で来生くんは戻って来たけど、菜々ちゃんは来生くんと腕を組んだままだった。

「伊藤さんは、一人で来たの?」

来生くんが聞いた。

「友達がここの大学でね。さっきまで一緒だったの。でも、彼氏が来たから別れたんだ。かなでくんは?」

すいと二人で」

「一緒に回っても良いでしょ?」

「えっ、、、と」

「瀬河くん、アイス食べようよ!ご馳走するよ!」

菜々ちゃんは来生くんから離れると、僕の手を取ってソフトクリーム屋に走った。


*****


「瀬河くん、お願いがあるんだけど、、、」

「?、、、何ですか?」

かなでくんと二人きりになりたいんだ、協力してくれない?」

「あの、、、協力って?」

「用事が出来たから先に帰るとか、何とか、、、ねっ!」

僕は菜々ちゃんにアイスクリームをご馳走になってしまったから、断り辛かった。

「この間の送別会、かなでくん、一次会で帰っちゃったからさ、、、」

「わかりました、、、」

僕は、本当は嫌だったけど、今日は帰る事にした。


 菜々ちゃんは来生くんのアイスクリームも買って、来生くんの元に戻る。

 僕達は、ベンチに座ってアイスクリームを食べた。

「来生くん、僕、用事があったの忘れてて、、、今日はもう帰るね」

「え?」

「菜々ちゃんとゆっくり回って」

来生くんが、ポカンとした顔をしている。僕は

「ごめんね」

と言って、バス停に向かう。


 溜息が出た。来生くんと二人きりで、1日過ごせると思ったのにな、、、。バス停の場所は何と無く覚えていた。

 坂道にあるバス停。時刻表を見て、もう少し時間があるとわかるとバス停に設置されている椅子に腰掛けた。

 来る時はウキウキして楽しかったのに、、、。何だかつまんないな。

すい!」

顔を上げると来生くんが見えた。走って来る。

すい!待って!」

僕が立ち上がると、来生くんは僕に抱き付いた。

「はあぁぁぁ〜、間に合った!」

坂の向こうからバスが見えた。来生くんは息を切らせながら

「バス停、向こうだから、、、」 

「え?」

「これ、来た時降りた場所だろ?帰りはあっち」

車道を挟んで、少し向こうにもう一つバス停があった。反対側からもバスが来ていた。二人で急いで信号まで戻り、道路を渡る。バスは信号で止まり、僕達はバス停まで走った。

 急いで、交通系電子マネーを取り出して、目の前で止まったバスに乗る。二人で一番後ろの椅子に座り、やっと一息付いた。

「あっちのバスに乗ったら、凄い所まで連れて行かれちゃう所だったよ」

「ごめん、ありがとう。降りた駅だったから、安心してた」

来生くんが笑ってくれた。

「菜々ちゃん、、、。大丈夫だったの?」

「菜々ちゃんに、何か言われた?」

「二人きりになりたいから、協力してって、、、」

「そっか、、、」

「アイスご馳走になったから、断れなくて、、、」

「俺、アイスで売られたんだ、、、」

来生くんが僕の肩に寄り掛かった。シャンプーと来生くんの匂いがする。

「お腹減ったね」

来生くんに言われて思い出した。僕達はお昼ご飯を食べて無かった。



*****



 土曜日のバイトに入る前に、女の子に呼び止められた。

「あの、これ、、、」

「あ、来生くんにですか?」

「あ!違くて、、、瀬河くんに、、、」

「ん?来生くんじゃ無いの?」

「うん、瀬河くん」

「あ、ありがとう、、、でも、僕、、、」 

「好きな人、いるんでしょ?来生くんだよね」

僕はびっくりして、彼女の顔を見た。

「好きな人の好きな人は、わかるよ」

ニコッと笑う。でも、僕宛の手紙を持つ手が少し震えていた。

「ごめんね」

「気持ちを伝えたかっただけなの。自分の気持ちに区切りを付けたくて、、、。手紙、受け取ってくれる?」

「うん、、、ありがとう」

「来生くんとの事、応援してる」

彼女はそう言って、手を振りながら帰って行った。


 女の子ってすごいなって思った。僕はなかなか勇気が出ない。菜々ちゃんと言い、彼女と言い、ちゃんと行動に移している。

 でも、僕には自信が無いよ。来生くんの横にいても弟にしか見えないんだもん。



すい?どうした?」

「え?」

「元気無い」

「ちょっとね、考え事しちゃった」

「、、、たまには帰り、寄り道する?」 

「いいの?」

「一時間位なら大丈夫?」

「うん」

「じゃ、お茶しよう」

「やった!」

来生くんは、よく人の事を見てるな。それも、モテる秘訣かな?。僕は、早くバイトが終わらないかとソワソワしていた。



「元気出た?」

ファストフードのコーヒーを飲みながら、来生くんが聞いて来た。

「うん」

「帰りの約束した途端に表情が変わったから、大丈夫かな?とは思ってたんだけど、何考えてたの?」

「今日、始めて女の子から手紙を貰ったんだ」

「すごい!」

僕は照れ笑いが出た。

「勇気があるなって」

「好きな人いるもんね」

僕は頷いた。

「告白しないの?」

「僕、背が低いから、一緒に並ぶと弟に見えるらしくて」

「どんな人?」

「綺麗で、カッコ良くて、優しい、、、。人の事、ちゃんと見てる、、、。すごくモテる人」

「そっか、、、ライバル多そうだね」

僕は、苦笑いしながらポテトを食べた。来生くんの事なのに、わかってないな、、、。



 9時過ぎにファストフード店を出たら、バイト先の電気も消えていた。閉店が9時だから、バイトの人達もみんな帰った後だった。

「皆んなが帰った後のお店、初めて見た」

奥でまだ店長さんが作業しているのか、小さなライトが点いていた。

 二人で商店街を歩いて帰る。

 夜の9時を過ぎると、住宅街を歩く人も少なくて、夜なんだなって思う。少し淋しい街並み。

すい、、、」

公園の前で来生くんが、僕の名前を呼んだ。

「ちょっと、話しても良い?」

家には帰りが遅くなるって言ってあるから、もう少し位は平気だった。

「良いよ」

来生くんが公園に入って行く。入り口のちょっと先にベンチがあった。来生くんがベンチに座るから、僕も隣に座る。

「あのさ、、、」

「うん」

「、、、俺と、付き合わない?」

「え!。???」

「いや、好きな人がいるのは知ってるんだけど、、、俺、すいの事、好きなんだ、、、。だから」

「えぇ〜、、、」

「そんなに嫌?」

来生くんが悲しそうに笑う。

「僕の好きな人、来生くんなんだけど、、、」

来生くんが、僕の顔を覗き込む

「本当?」

「本当、、、」

何だか恥ずかしいな、、、。

「えっと、、、俺と付き合ってくれる?」

心臓がドキドキして来る。

「僕で良いの?」

すいが良い」

えへへ。と、照れ笑いしたら来生くんも笑ってくれた。



**********



 俺は、すいがバイトの面接に来た日を覚えている。ちっちゃくて、可愛いかった。すいは小さい事を気にしているけど、俺はすぐにすいの事が気になった。

 面接の帰りも、ちゃんと俺達に元気な挨拶をして帰った。店長が

「良い子だな」

と言ったのが印象的で、すぐに名前を覚えた。



**********



 バイト先で、来生くんに彼女が出来たと噂が上がった。


 来生くん宛の手紙を預かったバイトの人に

「すみません、付き合ってる子がいるから、次からは受け取らないで下さい」

と頭を下げたらしい。その時の手紙は受け取っていたけど、それを最後にした。

 僕も手紙を預かりそうになると

「店内の規約で、お客様から品物のお預かりは出来ないので」

と言う様にした。店長さんが考えてくれて、断り辛いバイトの為にルールを決めてくれたんだ。


 

「来生くんの彼女ってどんな人かな?」

誰かが話していた。

「菜々ちゃんだよ」

え?

「私、菜々ちゃんに「来生くん彼女がいるらしいよ」って言ったら、「ごめんね、それ、私なんだ」って言ってた。みんなには内緒だからって、、、あ、ごめん。秘密にして?」

二人は更に小さい声で何やら話していた。僕は、商品を運ばないといけなくて、それ以上聞けなかった。



 菜々ちゃんが彼女って、どう言う事だろう、、、。付き合ってるのは僕じゃないのかな?

すい?」

「あ!」

「何かあった?」 

僕は、聞いてはいけない様な気がして聞けなかった。

菜々ちゃんと付き合ってるの?


 気になったままの僕は、集中力が無かったみたいで、バイト中、失敗ばかりだった。来生くんも気付いていたらしく、心配してくれた。



*****



 いつも通り来生くんに送って貰った後、家に入ってから買い忘れた物を思い出した。

 帰り道で寄ろうと思っていたのに、すっかり忘れていた。今、追いかけたら来生くんに会えるかも!急いで家を出ると、来生くんは丁度角を曲がる所だった。

 僕は走って追いかけたけど、角を曲がっても来生くんはいなかった。ちょっと先の曲がり角を覗くと来生くんが歩いている。でも、その道を真っ直ぐ行くと駅に戻る道だ。

 どうして?

 僕の家より先に住んでるから、毎日送ってくれていたのに、、、。何で、駅の方に戻るんだろう、、、。

 僕はそのまま来生くんの後を歩いて、コンビニに行った。

 来生くんは、やっぱり駅まで戻っているみたいだった。僕はコンビニで消しゴムを買って、家に帰った。



 菜々ちゃんと付き合ってる。



 バイトの女の子が話していた。みんなにも内緒だって言っていた。来生くん、本当に菜々ちゃんと付き合ってるのかな、、、。これから菜々ちゃんに会うのかも、、、。

 そう考えたら、一気に不安な気持ちになった。



*****



 定期テスト前になり、僕はバイトが二週間お休みだった。その間は、来生くんが朝、メッセージをくれる。午後は来生くんもバイトがあるし、お互い勉強に集中する為にやり取りはしなかった。

 来生くんに会え無いのはやっぱり淋しかった。


 テストが終わり、久しぶりにバイトに行くと何だか来生くんの様子が変だった。この二週間で何かあったのかな?


 仕事中も全然僕を見てくれない。ちょっと視線が合ってもすぐ逸らされた。

 本当に菜々ちゃんと付き合ってるのかも、、、。だから、僕とは目を合わせられないとか。僕に告白した後付き合う事になって、僕の事、後悔してるのかな、、、。

あっつ!」

食洗機の熱い食器を素手で触ってしまった。洗い終わったら蓋を開けて、食器が冷めてから取り出すのに、ボンヤリしていた。

 いつもなら来生くんが心配して来てくれるのに、今日は来てくれない。気付いてもいないみたいだ。

 冷たい水で手を冷やす。しばらく流したままの水を眺めながら、そろそろ良いだろうと蛇口を捻る。僕は一つ溜息をいて、食洗機の中の食器を片付けた。


 更衣室でも来生くんは話し掛けて来ない。何でだろう、、、。

「お先に失礼します」

もう一人のバイトの人がロッカーから出て行く。

 先に着替え終わった来生くんが、僕を待ってくれた。貴重品ボックスから財布とスマホを取り出し来生くんとお店を出る。

 来生くんは何かを考えてるみたいだった。

「ちょっと、寄って行かない?」

あの公園の前だった。

「良いよ、、、」

僕は緊張して、それしか言えなかった。今日初めて、来生くんと話しをした。

 来生くんが告白してくれたベンチで

「あの噂聞いた?」

「噂?」

「俺と菜々ちゃんが付き合ってるって噂」

詳しくは「知らない」

僕は、小耳に挟んだだけだ。

すいが休んでる間に、菜々ちゃんと付き合ってる事になってた」

「どうして?」

「わからないけど、、、多分、俺が付き合ってる人がいるから、手紙を受け取らないって言った事で、みんなが菜々ちゃんと付き合ってるって勘違いしているみたい」

「そっか、、、」

「付き合って無いからね、、、」

「うん、、、。あのね、二週間前に、バイト先の女の子が来生くんと菜々ちゃんが付き合ってるって言ってた、、、」

「、、、」

「えっと、、、僕、噂に進展してるのは知らなくて、その時は確か、菜々ちゃんが自分で来生くんと付き合ってるって言った話だった。でも、内緒にしてるって」

来生くんはムッとした。怒ってるみたいだ。

「、、、その話しを聞いた日だったと思うけど、僕、来生くんに送って貰った後、買い忘れた物が有って、すぐ家を出たんだ。来生くんと一緒にコンビニに行けるかと思って。来生くんを見つけたんだけど、来生くん駅の方に行くから、菜々ちゃんと会う約束でもしてるのかと思った、、、」

「あ、、、」

「?」

「俺のアパート、、、本当は駅前なんだ、、、」

「えっ!?何で?。僕の家よりもっと先だって、、、」

すいと少しでも長くいたかったから。夜道も心配だし、、、」

「本当に?」

「今度、来る?」

「行きたいっ!来生くんの部屋、見てみたい!」

「じゃ、掃除しておくから、今度おいで」

来生くんが僕の手を握った。突然でびっくりしたけど、嬉しかった。

 僕達は、ベンチで手を繋ぎながら

「菜々ちゃんには困ったな、、、」

と悩んでいた。

「前から、距離が近いなって思ってたんだ。やんわりその気は無いって意思表示してたんだけど、やっぱり伝わって無かったか、、、」

「告白とかもあったの?」

「無いよ」

「告白されたらどうするの?」

「どうもしない。ちゃんと断るよ。すいがいるから」

良かった、少し安心した。

 来生くんは僕を家まで送ってくれた。いつもは、僕の家の前をそのまま真っ直ぐ行くのに、今日は駅の方に戻って行った。

「ねぇ!今度の土曜日、バイトの後遊びにおいで!」

来生くんはちょっと離れた位置から誘ってくれた。僕は、うんうんと頷きながら手を振った。



*****



 土曜日の夕方、珍しく菜々ちゃんが来た。お客さんとして、、、。

「いらっしゃいませ」

と僕がコップに入った水をテーブルに置くと、菜々ちゃんは

「ねぇ、ねぇ」

と手招きした。

かなでくんに担当して貰って」

「え?、、、でも」

「お願い!」

配膳は手の空いた人がやるから、席によって担当する人がいる、とかは無い。

「お決まりになりましたら、ボタンでお知らせ下さい」

僕が言うと

「お願いね」

と、微笑まれた。

 僕は、来生くんに菜々ちゃんが指名していると伝えた。来生くんは見えない様に、本っっっ当に嫌な顔をした。珍しいな。

 菜々ちゃんの席から呼び出しが有り、来生くんが行く。僕はどうしても気になって、チラチラ様子を見てしまう。

 長いな、、、。注文を取るだけであんなに時間は掛からない。何を話してるんだろう。

 来生くんは戻るなり、ちょっと機嫌が悪かった。他のお客さんもいるので、フロアにいる時はニコニコしているけど、僕の側に来る度に、そっと僕の身体を触って行く。カウンターの中で、すれ違った時は溜息までいていた。

 菜々ちゃんは、最初にカフェ・オ・レを頼んだ。それを半分位飲むと、ハーフサイズのケーキを頼む。ケーキを食べ終わるとまた飲み物を頼んだ。

 何かを頼む度に来生くんが行く。

 そんな二人を見て、誰かが

「やっぱりあの二人は付き合ってるんだね」

と小さく言った。そっか、菜々ちゃんは来生くんと付き合ってるって、みんなに認識して貰う為に来たんだ、、、。僕はすごく嫌な気分になった。



 5時前に菜々ちゃんはお店を出た。僕達は二人で顔を見合わせて、ホッとした。

 更衣室で着替えて、帰る準備をする。来生くんが、今日は泊まっても良いと言うから、荷物が少し多めだった。二人で

「お先に失礼します」

と挨拶をしてお店を出る。

かなでくん!」

菜々ちゃんが待っていた。

僕達は二人で顔を見合わせた。なんで?

「これから映画行かない?」

「いや、用事あるから、、、」

「えー、折角菜々が来たんだから、映画行こうよ」

ギョッとした。

「あのさ、俺と付き合ってるって、バイトの人に言ったんだって?」

来生くんの声が怒っている。

「そうだったかな?」

菜々ちゃんは可愛く誤魔化した。

「俺、伊藤さんの事、何とも思って無いから、変な噂立てるの止めて欲しい」

かなでくん、彼女いないでしょ?それなら良いじゃない」

「良くない。今、すいと付き合ってるから困る」

急に僕の名前が出て来てドキリとした。

「瀬河くん?」

「、、、」

「瀬河くんなんて、弟みたいな物じゃない。並んでても、兄弟にしか見えないよ?!」

「そんなの関係ないだろ?」

「菜々の方が可愛いっ!」

すいの方が可愛い」

僕がハラハラしていると、来生くんが手を握ってくれた。

「瀬河くんと一緒に歩いてても、付き合ってる様に見えないじゃないっ!恋人同士にならないよっ!」

来生くんはいきなり僕にキスをした。えーっ!商店街の真ん中なんだけど!僕は真っ赤になって、来生くんに抱き締められた。

かなでくんっ?」

菜々ちゃんもびっくりしている。

「菜々を傷つけない為に、瀬河くんと付き合ってるフリしてるんだよね?」

「もう一回キスしても良いけど?」

僕は、来生くんの胸の中でギュッと服を掴む。来生くんは大丈夫だよ、、、と言う様に抱き締めた腕に力を込めた。

「嘘だよね?本気じゃ無いよね!かなでくんには菜々の方がお似合いだよ?。周りのみんなもそう思ってるよ?」

「でも、俺は思って無い」

「そんな、、、」

「これから、すいと一緒に過ごすんだ。一晩泊まりで。明日も1日、ずっとずっと。だからもう行くね」

と言って、菜々ちゃんの横を通り過ぎた。

 僕は顔が真っ赤なままだし、心臓はバクバクしてるし、足はガクガクするし、来生くんに支えられて商店街を抜けた。

 駅を越えた頃には落ち着いて来て、普通に歩ける様になった。

「ごめん、、、」

来生くんが謝った。

「あんな商店街の真ん中で、みっとも無い所を見せちゃった、、、」

謝ったのは、キスした事じゃ無かった。

「平気だよ」

「恋人同士に見えないって言われて腹が立って、、、」

「僕が小さいからだね、、、」

「俺はすいが良いんだからね?」

来生くんのアパートに着いた。駅を越えたら直ぐだった。

「狭くてごめんね」

掃除がしてあって、綺麗な部屋だった。


「買い出しはしてあるんだ、晩御飯、何が良い?」

「え?来生くんが作るの?」

「炒飯とか、レトルトとかだけど」

来生くんが笑う。

「僕なんてカップ麺しか出来ないよ」

二人で何を、食べようか相談した。菜々ちゃんの事が有って疲れたから、お米を炊いてレトルトのカレーを食べる事にした。

 お米が出来る間にシャワーを浴びて着替える。先にシャワーを借りて出てくると、来生くんは炊飯器の高速ボタンを押してシャワーを浴びに行った。

 来生くんがシャワーから出て来ると、丁度お米が炊けてカレーを食べる。


二人で食器を片付けて、来生くんは缶酎ハイ、僕はジュースを持ってテーブルに戻る。一人暮らしの小さなテーブルが玩具おもちゃみたいで可愛かった。

「、、、菜々ちゃん、また来るかな、、、」

来生くんはちょっと考えて

「もう、勘弁して欲しい」

と言った。

「ちょっと怖かったな、、、」

「、、、多分、大丈夫だと思うけど、何かあったら教えてね」

「僕は大丈夫だよ。来生くんこそ、気を付けてね」

すい。そろそろ、かなでって呼んでよ。伊藤さんにかなでくんって呼ばれる度に、すいが来生くんで、何で伊藤さんが名前で呼ぶんだって思ってるんだ」

かなでくん、、、?」

「それじゃあ、伊藤さんと一緒でしょ?」

かなで、、、」

「ふふ、嬉しい」

来生くん、、、かなでが嬉しいと僕も嬉しいな。

 缶酎ハイを飲むかなでは何だか仕草も大人っぽい。僕はついついかなでの顔を見てしまう。

 綺麗で、カッコ良い僕の恋人。

 と、考えたら一気に顔が赤くなった!恋人!

 自分でもイキナリでびっくりした。お酒を飲んでる訳でも無いのに!

すい?どうしたの?」

かなでの右手が伸びて来る。僕の頬を掌で包んだ。

「いや、あの、かなでの事綺麗だな、カッコ良いなって思ってたら」

掌をスリスリしている。

「抱き締めても良い?」

僕は更に赤くなる。

「良いよ」

返事をすると、そっと抱き締めてくれた。

「俺ね。この顔嫌い。中学生まで女の子に間違えられる事もあったし、嫌な事もあったから」

「こんなに、綺麗でカッコ良いのに?」

僕は身体を離して、かなでの顔を見る。かなでは僕の腰を抱きながら、ちょっと困った様に微笑んだ。

 僕は両手でかなでの顔をそっと触る。

「みんな俺の顔が好きだから、好きになったり手紙をくれるんだよね、、、。俺の中身とかはあんまり見て貰えない。伊藤さんだって、きっとそうだよ。俺の外見しか見てない」

かなで、そんな事無いよ。最初は確かに「綺麗な人だな、カッコ良い人だな」って思うかも知れないけど、綺麗なかなでを目で追う内に、優しいかなでとか、仕事をしているかなでの事も知るんだよ。少なくとも、お店に来て手紙をくれた子達はちゃんとかなでのそう言う所にも気付いてた筈だよ」

「そっかな、、、」

「そうだよ。僕はそうだった、、、。最初は綺麗でカッコ良い人だなって思ってた。一緒に仕事をする内に、どんどん好きになったよ。優しい所も、礼儀正しい所も、仕事をちゃんとする所、よく人を見ている所、たまにムッとする所も全部全部含めてかなでの事が好きだよ」

「たまに、ムッとする所、、、ふふ。すいの好きな所は、小さくて可愛くて、抱き締めたくなる所。それから、誰にも分け隔てなく接して優しいし、ちょっと控えめ過ぎるけど、相手の事を考えて行動してくれる。すいの事、誰にも取られたく無いな、、、」



*****



 週明けの水曜日、バイトに行くとかなではもう仕事に就いていた。

 僕はかなでの名前を何て呼ぼうか迷ってしまった。バイト先の皆んなは、まだ、僕達が付き合ってる事を知らない。

「おはようございます!」

と挨拶をして入って行くと、バイト仲間が皆んなニヨニヨしている。何だろう?ヤケに生暖かい視線が多い、、、。店長さんまでが、ニヨニヨしている。

 タイムカードを押して、着替えてカウンター内に入るとかなでが、そっと近寄って来た。

すい、皆んなに俺達の事バレてる、、、」

小声で言われた。皆んながニヨニヨ、ニヨニヨしている。

「商店街のアレ、皆んな見てた、、、」

「アレ?」

「伊藤さんとのアレ」

「そ、、、そうなんだ」

僕はどんな顔をしたら良いか、わからなかった。

「後、もう一つのアレも、、、」

「もう一つのアレ?」

「俺がすいにキスしたのも見られた、、、」

店長がスーッと近付いて来て

「おめでとう。今度お祝いしようね」

と、ウキウキで言った。

 僕の顔は絶っっっ対に真っ赤になっている。

「恥ずかしー!」


沢山の作品の中から選んで頂いて嬉しいです。二人がこれからもっと幸せになりますように!

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