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ドリームマッチ計画 3

 ほかのシャサールの報告通り、ユウマがいたのはチカたちの通う、のぞみ第2小学校だった。

 あばれていたのは以前(まえ)に取り逃がしたバッターユウマ。

 宝石でできたバットを振りまわして、校舎の窓ガラスを割っていた。


 マナが少なくなり、日本が休眠状態に入ったのは1年ほど前。

 おそらくバッターユウマはべつの町で生まれ、その後、自分を生みだしたショウを追って、この町にやってきたのだろう。

「昭和の不良じゃないんだから、そんなことやめなさい!」

 いそいで〈フラスコ〉を張ると、アルルは光をまとった日傘でバッターユウマに斬りかかった。

 ガギィ!

 日傘とバットがぶつかり、はげしい音が響きわたる。

 そのとき、バッターユウマの背中に一匹のちいさなトカゲが張りついた。

 だが、戦いに夢中になっているユウマは気づかない。

 トカゲに気づいたのはアルルだけだった。

「負けられないのよ。あなたを生みだした子のためにも」

 ショウはいま、忍者すがたのカズヤさんと本気の勝負をしているはずだ。

 ショウが勝つのか? それともカズヤさんが勝つのか?

 それは夢を見せているアルルもわからない。

 けど、ひとつだけたしかなことがある。

 それはショウが野球を愛しているということだ。

『黄金の意志団』が調べてくれたショウの資料には、野球とカズヤさんに関することばかり書かれていた。

 それだけショウはカズヤさんにあこがれ、そして野球に打ちこんできたのだ。

 ズズッ……。

 バッターユウマのパワーに押されて、アルルはあとずさりした。

 あわててふんばったが、一度押されたからだは、もう止まらない。

 そのままアルルは背中から校舎の壁に激突。コンクリートの壁にヒビが入り、白い粉が暗闇に舞った。

「う……」

 アルルがヒザからその場に崩れた。

 ダメだ、立ちあがらないとやられる。

 けどダメージでからだに力が入らない。

 バッターユウマがバットを振りあげた。

 そしてアルルめがけて――

「エンリル、いまよ!」

 その瞬間、バッターユウマの背中が銀色にかがやいた。

「ウオォォォ!」

 銀色の光がゴリラのかたちになった。

 銀色のゴリラはバッターユウマを持ちあげると、すごい力で地面に叩きつけた。

 その一撃で勝負はついた。

「作戦成功ね」

 アルルがよろよろと立ちあがった。

 バッターユウマは大の字に横たわったまま、ぴくりとも動かない。

 エンリルはすぐに人間のすがたにもどり、アルルをささえた。

「だいじょうぶ?」

「ええ、なんとか」

「ムリさせてごめん」

「あやまらないで。わたしだって、いい作戦だと思ったんだから」

 アルルとユウマが戦っているあいだに、トカゲに変身したエンリルが相手の背中に張りつき、すきをついて一瞬で勝負を決める。ユウマを逃がさないための作戦だった。

「こいつだけは、ぼくの手でたおしたかったんだ」

 エンリルがいった。

 さっきまでバッターユウマだった泥のかたまりがシューシューと音を立てて、蒸発している。

 宝石のバットは、すでにまっしろな砂に変わっていた。

「カズヤさんがいっていたんだ。いまでもショウくんのことを本当の弟のように思っているって」

 エンリルはこの数日間、毎日カズヤさんに会うために、400キロメートルもはなれたK県に飛んでいたのだ。

「直接的な血のつながりはなくても、人は絆のつながりできょうだいになれる。だからこそ、おなじ兄として、ぼくの手でショウくんの夢を狩ってあげたかったんだ」

 バッターユウマが消滅したのを見届けると、アルルは〈フラスコ〉を解いた。

 校舎の窓ガラスは何枚か割れているけど〈フラスコ〉の中でこわれた壁はキズひとつついていない。これなら不良連中のイタズラとして処理してもらえるだろう。

「カズヤにはユウマのこと教えたの?」

「いや、ただショウくんがもう一度夢を持つために手を貸してほしいって、たのんだだけだよ。それでも異動は(まぬが)れないだろうけどね」

「仕方ないわ。スペシャルとはいえ、チカにユウマのことを話したし、そのうえショウとカズヤを夢の世界で会わせたんですもの」

「一時的とはいえ、錬金術でカズヤさんの脚を動かせるようにしたしね。兄妹そろって、規則違反のオンパレードだ。これでべつの町に飛ばされないほうがおかしいよ」

「規則違反による異動なんて何回もしてるもの。もう慣れっこよ」

「さすが、ぼくの妹――っていっても、きみはあんまりうれしくないよね」

 エンリルが自分を責めるように悲しく笑った。

「おなじフィギュアを何個も買ったり、お気にいりのドレスにケチャップをつけたり、大相撲の録画をうっかり消したり……はは、いつもきみには迷惑ばかりかけているね」

「そうね」

 アルルは落とした日傘を拾った。

「けど、かんちがいしないで。たとえ何度迷惑をかけられても、わたしはあなたの妹としてつくられたことを恨んだりしないわ」

「アルル……」

「だれかの夢を救うためなら、紙切れみたいに規則を破ることができる。そんなあなたをわたしは誇りに思うわ。だから――」

 アルルは目を細めると、エンリルに笑いかけた。

「そんなに自分を責めないで。お兄様」

「お兄様…………ああ!」

 その瞬間、地上に満月があるのかと思うほど、エンリルの顔が明るくなった。

「お兄様。ああ、なんてすばらしい言葉の響きなんだ」

 エンリルは両手を合わせると、うっとりとした表情でからだをクネクネさせはじめた。

 ちょっと、いや、かなりキモチワルイ動きをするエンリルを見て、アルルは彼のことをお兄様といった自分を蹴ってやりたくなった。

「すばらしすぎて毎日聞きたいぐらいだよ。というわけで、アルル、これからぼくのことを呼ぶときは――」

「エンリル、ショウの夢にもどるわよ」

 日傘でエンリルのすねを小突くと、アルルは足早に歩きだした。

「いいこと。ドリームマッチ計画がおわるまで、わたしに話しかけないで」

「はい……」

「そうすれば、また200年後にお兄様って呼んであげるわ」


 ★  ★  ★  ★  ★

 

「カズヤさん! カズヤさんなんでしょ!」

 1球目のすぐあとにショウは大声でピッチャーにたずねた。

「これは夢だ。だから本当は歩けないカズヤさんも、もう一度マウンドに立つことができる。あなたはカズヤさんなんですよね!?」

 相手の忍者ピッチャーは、なにもいわない。

 ただじっときんの奥からのぞく目でショウを見つめているだけだ。

 しばらく沈黙の時間が続いた。

「わかりました」

 一度、大きく深呼吸。

 そしてショウはバットをかまえた。

「あなたがだれだろうと関係ない。いまのおれはリキシーズの選手だ。かならず、あなたの球を打ってチームを勝たせてみせる」

 そしてたかのように力強い目で、ピッチャーを見すえた。

「こい! 真剣勝負だ!」


(つづく)




更新は毎日おこなう予定です。

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