ショウの夢 2
それから20分後ーー。
「あった!」
太郎のうれしそうな声が河川敷に響きわたった。
「あった! ありましたよ、ショウくん!」
顔をあげると、スマホを持った太郎がこちらに走ってきていた。
「ヤバい人に拾われて悪用されたら大変だからって、しりあいのカラスが巣で保管してくれていたらしんですよ。いやぁ、持つべき鳥は、ともだちですね」
ツッコミどころが多すぎるけど、笑顔の太郎を見ると、
(ま、見つかったんだから、いいか)
不思議とそんな気持ちになり、ほほがゆるんだ。
「そうだ、このあたりに料理がおいしいって評判のカフェがあるんです。スマホをさがしてくれたお礼に、なにかおごりますよ」
「いや、そんなことしなくていいですよ。困っている人を助けるのなんて、あたりまえのことじゃないですか」
「いやいや、あたりまえのことをあたりまえにできる人なんて、なかなかいませんよ。それに、なにかお礼をしないと、ぼくの気持ちがおさまりません」
太郎は、なにがなんでもショウにお礼がしたいらしい。
「あ、カフェがいやならコンビニはどうですか? お菓子でもジュースでも、ショウくんがほしいものを買わせてください」
まあ、それぐらいなら問題ないだろう。
ということで、ふたりはコンビニへ行くことにした。
ふたりで河川敷を歩いていると、向こうから野球のユニフォームを着た集団が走ってきた。のぞみ中学校の野球部だ。
野球部が近づいてくると、ふたりは道の端へよった。
「ファイッ、ファイッ、オー」
夢を消すためにも、できるだけ野球とは距離を置いていたい。
だからショウは野球部が通り過ぎるまで、ずっと目を伏せていた。
「青春だなぁ~」
野球部の背中を見ながら、太郎がつぶやいた。
「夢を追いかけて、夕日に向かって走る。何十年も前から見てきたけど、やっぱりいいものだなぁ~」
「何十年って……太郎さん、何歳なんですか?」
「280歳です」
「はあ?」
「あ、いまのはもちろん冗談ですよ。本気にしないでくださいね!」
太郎があわてて手を振った。
「でも、夢がすばらしいのは冗談じゃありませんよ。ショウくんもそう思いますよね」
「……そうですかね」
そこではじめてショウは野球部のほうを見た。
「いくら努力しても、夢を叶えられなかったら意味ないし、そのために費やした時間だってムダになる。なのに夢なんて持つ必要あるんですかね」
そうだ。夢は叶えられなかったら意味がない。
費やした時間。お金。そして情熱。
それらすべてがムダになってしまう。
カズヤさんがそうだったように……。
「夢を叶えるために、いくら本人ががんばっても、まわりのやつがジャマしてくるかもしれないし、挫折したら二度と立ち直れなくなるかもしれない。それなのに夢なんて持つ必要あるんですかね」
想いを口にするたびに、カズヤさんとの思い出が脳裡によみがえった。
中学1年生だったカズヤさんとはじめてキャッチボールをしたこと。
高校生になり、甲子園でかつやくするカズヤさんをテレビの前で応援したこと。
そして、歩く力をうしなったカズヤさんの叫びを病室の前で聞いたときのこと。
「あいつらがあんなきたないマネをしなかったら、カズヤさんは野球を辞めずにすんだんだ」
「ショウくん?」
「あいつらがカズヤさんから夢をうばったんだ」
胸が苦しい。頭が熱い。
自分のことじゃないのにくやしくて、目になみだが溢れてくる。
ダメだ。このままじゃ感情をすべて吐きだしてしまう。
「……おれ、もう行きますね」
手の甲でなみだを拭くと、ショウは足早に歩きだした。
「親にも早く帰ってこいっていわれてるし、おれ、もう帰りますね」
「え? でもコンビニで買い物を――」
「なら、おれになにか買うより、妹さんにスイーツでも買ってあげてください。じゃあ」
太郎をのこして、ショウはひとりで河川敷を歩きはじめた。
西にかたむく夕日が、空も川も、そしてビルまでもオレンジ色に染めあげている。
けど、そんな炎の王国のような景色を見ても、感じるのは切なさばかり。
それはもしかしたら、これから沈む太陽の「まだ、かがやいていたい」という願いが町をつつんでいるからなのかもしれない。
せまる夜の闇にあらがうように光を放つ太陽と、消そうとしても消えない野球選手になりたいという夢が重なって、ショウは自分自身に嫌気がさした。
(夢を叶えられるのは一握りのやつだけだ。だから夢なんて持つな)
ショウは夕日をにらみつけながら、
(叶わなかったら、すべてがムダになるものを持つ必要なんてない。夢なんて持っちゃいけないんだ!)
ねじ伏せるように、その言葉を心に刻みつけた。
なのに……。
夕日を見ていると、いつのまにかショウは夕方の河川敷をカズヤさんと一緒に走った日々を思いだしていた。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




