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あなたの運命、書き換えます! ~ただし好感度は下がります~  作者: トムさん


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17/21

第16章:祭りの熱狂、運命が起こした本当の事故

札幌銀河流舞さっぽろぎんがらんぶフェスティバル』、本祭の日。

大通公園は、地鳴りのような演舞の音と、叩きつけるような鳴子のリズム、そして数万人の観客が発する途方もない熱気に支配されていた。


私は、その熱狂の渦から少し離れた、特設ステージが見渡せるビルの屋上から、全てを見ていた。

灰になった心で、ただ、最後の観客として。


『対象、天野大和および橘詩織。メインステージ前に到着』

アルの報告に、私は双眼鏡を覗いた。

人混みの中、詩織に手を引かれるようにして、大和がいた。その表情は硬く、心から楽しんでいるようには見えない。私の言葉が、小さな棘のように心の隅に刺さっているのが、痛いほどにわかった。

それでも、彼は来た。私の言葉に「逆張り」して、詩織との未来を選んだのだ。


これで、終わり。

私の負けだ。


そう思った、その時だった。

ステージの演舞が最高潮に達し、頭上のドローンが巨大な不死鳥を描き出した、まさにその瞬間。


金属が引き千切れるような、耳障りな悲鳴のような音が、爆音の音楽を突き破って響き渡った。

次の瞬間、ステージの照明やスピーカーを吊り下げていた、巨大な鉄骨のトラスの一部が、ゆっくりと、しかし確実に、観客席に向かって傾ぎ始めたのだ。


「……え?」


人々の歓声が、一瞬にして恐怖の絶叫に変わる。

誰もが、何が起きたのか理解できずに、空を見上げていた。


『警告!ステージ機材の構造的欠陥による、大規模な崩落事故が発生!』

アルの絶叫に近い警告が、脳内に叩きつけられる。

歴史データには、こんな事故、どこにもなかった。これは、運命の修正力?いや、違う。もっと混沌とした、純粋な悪意の塊のような、予測不能な「運命の暴走」。


双眼鏡のレンズが、震える手で一点を捉える。

崩れ落ちてくる鉄骨の、その真下。

あまりの出来事に、腰を抜かしたように動けなくなっている詩織と、彼女を庇うように立ち尽くしている、大和の姿があった。


――逃げて。


声にならない叫び。

でも、もう間に合わない。


思考より先に、体が動いていた。

私は屋上のフェンスを乗り越え、非常階段を、一段飛ばしで駆け下りる。理屈じゃない。確率でもない。

ただ、愛した人が、今、死んでしまう。


『マスター、危険です!マスター!』

アルの制止の声も、もう聞こえない。


人混みを、獣のような叫びを上げながら、かき分ける。

「どいて!どいてください!」


スローモーションのように、巨大な鉄骨が迫ってくるのが見えた。

あと、数メートル。

届かない。


「大和っ!!」


未来で、何度も呼んだ、その名前を。

今、初めて、この世界の彼に向かって叫んだ。


私の声に、彼がはっとしたように、こちらを向く。

その、驚きに見開かれた瞳。

それが、私が見た、彼の最後の顔だった。


私は、最後の力を振り絞って、地面を蹴った。

そして、彼の体を、全力で突き飛ばした。


――ドンッ。


背中に、鈍い、信じられないほどの衝撃。

一瞬、視界が真っ赤に染まり、そして、何も見えなくなった。

祭りの熱狂も、人々の悲鳴も、鳴子の音も、すべてが遠くに聞こえる。


薄れゆく意識の中で、最後に聞こえたのは、彼の声だった。

私が突き飛ばしたせいで、数メートル転がった彼が、血の気の引いた顔で、私に向かって何かを叫んでいる。


「……お前っ……!」


その声は、驚きと、混乱と、そして、今まで聞いたことのない、深い、深い絶望の色をしていた。


ごめんね、大和。

やっぱり私、あなたの前から、消えるべきじゃなかったみたい。


そこで、私の意識は、完全に闇に呑まれた。



突き飛ばされ、何が起きたのか、大和には理解できなかった。

ただ、さっきまで自分がいた場所に、巨大な鉄骨と、血を流して倒れている、あの女の姿があった。

自分をストーキングし、つきまとい、訳のわからないことばかり言っていた、あの女が。

今、自分の身代わりになって、そこに倒れている。


なぜ。

どうして。


「う……あ……」


言葉にならない声が、喉から漏れる。

頭が、理解を拒絶する。


「あああああああああああああああああっ!!」


意味の分からない、魂からの絶叫が、祭りの喧騒を切り裂いて、響き渡った。

お前は、一体、誰なんだ。

その問いは、もう誰にも届かなかった。

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