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しかし前世の記憶を取り戻したミシュリーヌは違った。

健康な体で生活できることが嬉しくて嬉しくてたまらなかったため、しばらくは屋敷にいる人たちから『別人だ』『おかしくなった』と言われていた。

それほどに世界への感謝が止まらなかったのだ。


神に感謝するようにミシュリーヌは周囲に優しさを振る舞っていた。

そうしなければ気が済まない。

この世界で健康な体をくれた神様に恩を返すためにも役に立とうと決めた。


今思えば、相当不気味だったに違いない。

『今までのミシュリーヌお嬢様はどこに?』

『まるで別人が乗り移ったみたい』

そう言われたが事実である。

それに今まで過ごしていた記憶はきちんと残っているため、正確には別人でもないし、記憶を思い出しただけでこうなるとは思いもしなかった。

それほどまでに前世の記憶と未練が強烈だったのだらう。


クロエが気に入らない時に八つ当たりしていた侍女たちにはきちんも謝罪して、わだかまりを解消。

地味な嫌がらせもわがままも全部やめて、今では第二騎士団の推し活仲間である。

料理人、庭師、友人の令嬢など、今までぎくしゃくしかけていた人々とミシュリーヌはどんどん和解していく。


そしてクロエが令嬢の交友関係を手助けしていくうちに、彼女の警戒心が剥き出しだった態度がどんどんと軟化していくのがわかった。


(こんな可愛らしい妹がずっと欲しかったのよね)


兄や姉がいたが、妹や弟はいたことがなかった。

そのまま絶世の美女だったクロエを可愛がり続けること十年。


どこをどう間違ったのか、ミシュリーヌの存在はクロエの中ですっかり大きくなってしまったようだ。

神格化してしまい、今度はクロエが別人のようにおかしくなったといわれてしまう。


(クロエの方が女神のように美しくて可愛らしいのに……)


と、ミシュリーヌはいつも思っていたのだがクロエにとっては逆のようだ。

クロエが懐いてくれるのが可愛らしくて、何も言うことはなかったのだが、両親は一向に姉離れしないクロエを心配しているようだ。

常にミシュリーヌの話をして、ミシュリーヌのそばにいるのだからそう思うのも無理はない。

だけどクロエの可愛さには敵わずに、ミシュリーヌはクロエを甘やかしてしまう。


(クロエも年頃だもの。レダー公爵のことが気になっていたけど、口に出せなかったのかもしれないわ……!)


それに王家を守るエリート集団、第一騎士団の副団長であるレダー公爵と、特に何の取り柄もないミシュリーヌとが釣り合うはずもない。

恐らくクロエはミシュリーヌに気を遣ってくれているのだろうと思った。



『レダー公爵がうらやましいです。わたくしが殿方だったら、ミシュリーヌお嬢様と結婚して幸せにしましたのに……』


『『『…………』』』



クロエの愛が重すぎる。

真面目な顔でいうものだから冗談かどうかすらわからない。



『それにこの婚約は間違いかもしれないから……!』


『間違えなんてありえませんわ!』



実はミシュリーヌは間違いであってほしいと心から思っていた。

レダー公爵の婚約者は正直、荷が重い。

だが、クロエなら納得するだろう。


(なんとかお父様に誤解を解いてもらわないと……!)


ミシュリーヌが考えを巡らせていると、クロエがハッとしたように口元を押さえた。



『クロエ、どうしたの?』


『一つ、心配事があるのです……』



暗い表情のクロエにミシュリーヌと両親は首を傾げた。

彼女の唇が何かを言いたげに開いたり閉じたりを繰り返す。



『……ミシュリーヌ?』


『ミシュリーヌお姉様は第二騎士団で推し活をしていらっしゃるから、ご存知ないかもしれませんが、第一騎士団のレダー公爵を推している令嬢たちは過激な方がいらっしゃって……』


『そうよね…』



クロエのそばにいるため、その大変さは理解している。

レダー公爵はクロエが令息にモテているのと同じように令嬢たちの熱視線は凄まじいものだろう。



『ミシュリーヌお姉様に被害がいかないか、わたくしは心配で仕方ありませんわ』



ミシュリーヌが瞳を潤ませてこちらを見つめるだけで、同性だとしても胸が高鳴るではないか。



『確かにそうよね。クロエならば引いてくれるかもしれないけど、どうしてわたしが婚約者なのかと疑問が出るわよね』


『ミシュリーヌお姉様に何かあれば、わたくし……わたくしは正気ではいられませんわ』



血走った目を見開くクロエは美しいのだが、なんとも恐ろしい。

必死に彼女を落ち着かせていたミシュリーヌだったが……。



『こんなことならば、わたくしが婚約者になった方が……』


『……!』



ポツリと呟いた言葉は途中までしか聞こえなかったが、しっかりとミシュリーヌへと届いていた。

やはり公爵に嫁げるというのは令嬢にとってはとても名誉なことだろう。


(わたしなんかより、クロエの方がレダー公爵だってお喜びになるだろうし……)


ミシュリーヌは父親の方を見た。



『お父様、レダー公爵に確認しましょう!』


『ミシュリーヌお姉様……?』


『まだ間に合うかもしれないもの』



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