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だが、ミシュリーヌはこの世界でも運命の出会いをしてしまう。

それが今のミシュリーヌの推し。

第二騎士団の副団長、モアメッド・ディーである。

彼に婚約者ができて、幸せになるまで見守りたい。

ミシュリーヌはそう願って推し活を続けていたのだ。


シュマーノン子爵家にはエーワンがいるため、シューマノン子爵家を継ぐ必要はない。

王太子の婚約者候補で求婚が山のようにきているクロエは別で、推し活ばかりしていて令息との噂がまったくないミシュリーヌを両親は心配していたように思う。

それに何度か顔合わせをしたこともあるが、推し活のことを言うと顔を曇らせてしまう。


ミシュリーヌが『好きなことは?』『趣味は?』と聞かれて、必ず推し活の話をするのだが、返ってくる言葉はみんな同じだ。

『それならば彼と結婚すればいいじゃないか』

『他の令息に気持ちがあるなら顔合わせをするべきじゃない』

推し活に対する熱意と愛は強いのだが、それは恋人に対するものとは違う。

そのことを説明するのは難しく、推し活に理解を示す令息が少ないのも事実だ。

昔から騎士団のファンはたくさんいるのだが、ミシュリーヌのように過度な応援は見たことはないのだろう。


(推しは推せる時に推さないと……!)


そんな名言が頭に浮かぶ。

ミシュリーヌに推し活をやめるという選択肢はなかった。

両親はミシュリーヌが無事に嫁げるのかいつも心配していたし、モアメッドとの婚約を勧めてきたこともあったが、ミシュリーヌにとってどこまでいってもモアメッドは推しなのだ。


いつかは婚約者もできて、推し活に終止符を打つ日がくることはわかっていた。

それは貴族に生まれてきた以上、仕方ないことはわかっていた。

まさか『間違えた婚約』になってしまうとは思いもよらなかった。

まだ推し活をやめなければいけないという心の準備はできていなかったのだが、それ以前の問題だろう。


間違いだと言われたミシュリーヌはどう反応するのが正解なのだろうか。

ミシュリーヌは公爵邸の装飾が施されたソファに座りながら考えていた。


(どうしましょう……とは言っても、もう書類上は婚約者なのよね)


ミシュリーヌが困惑しているとオレリアンは淡々と口を開く。

憂いている顔も彫刻のように美しいのだが、あまり健康そうには見えないのが気がかりだった。



「シューマノン子爵にも君にも本当に申し訳ないことをしたと思っている」


「……え?」



オレリアンの目の下のくまに気を取られていると、何故だかオレリアンは謝罪をしているではないか。

ラベンダー色の瞳には驚くミシュリーヌの顔が映っている。



「一年後に婚約を解消してくれればいい。後の縁談や君の人生は保証しよう」


「……」



ミシュリーヌが知らない間にどんどんと話が進んでいくではないか。

オレリアンは平然とそう言った。


(なるほど、間違えたから解消するということね)


普通の令嬢ならば、彼の失礼な態度と発言に殴り飛ばしているのではないのだろか。

ミシュリーヌとは婚約し続けることすらつらいと言われているようにも聞こえるのだが、それはただの憶測でしかないため口をつむぐ。

不誠実なのだが、責任をとってくれるあたり誠実なのか。

ミシュリーヌにはわからなくなってきてしまった。


(そもそも間違えたって済む話じゃないんじゃ……この際、そんなことを仕方ないんだけど)


だが、はからずともオレリアンのこの提案はミシュリーヌにとっては朗報だった。

それに一度、婚約して解消されたら両親も無理に結婚させようとは思わないだろう。

ミシュリーヌは訳あり令嬢になるわけだ。

なのにオレリアンはミシュリーヌの後々の世話までしてくれるという。


(つ、つまり好き放題していいということ?)


そうなれば暫く一人で生きていくのも悪くない。

今は恋愛をするのではなく、世界を自由に見て回るのも悪くないだろう。


ミシュリーヌは一年間、レダー公爵の婚約者でいなければならない。

その間、推し活をやめるのは耐えられそうにない。


(レダー公爵も何か事情があるのね。だったらわたしもわがままを言っても許されるはず……!)


覚悟を決めたミシュリーヌは大きく頷いた。



「わかりました。ですがわたくしからも条件を一つ、よろしいでしょうか?」


「……聞こう」



今の状態ならばオレリアンは間違いなく、ミシュリーヌの条件を了承してくれるはずだと思ったが大正解だ。

ミシュリーヌはニヤリと唇を歪めた。



「わたくしの推し活を邪魔しないこと……それだけは絶対に守ってくださいませ」


「オシカツ……?」



オレリアンの眉がピクリと上がる。

今日、彼の表情が初めて動いた瞬間だった。



「今、わたしは推し活に命をかけたいのです!」


「…………?」



オレリアンは推し活が何かわかっていないようだ。

それも当たり前だろう。

元々、こちらに推し活という言葉はないためミシュリーヌが広めたようなものだ。

ミシュリーヌは推し活とは何か説明していくが、オレリアンの眉間に皺が寄るばかり。

そのためわかりやすく伝えるために言葉を噛み砕いていく。



「わたしには好きな人がいます。その方を全力で応援する活動がしたいのです……!」


「……!」



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