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②⑤ クロエside2

それからもミシュリーヌはクロエの壊れそうな心に優しく寄り添い続けてくれたのだ。

言葉通り、ミシュリーヌは行動で示した。

クロエの味方をしてくれていたのだ。


だけど次第にミシュリーヌが傷付き、罵声を浴びせられることが許せなくなる。


(ミシュリーヌお姉様に迷惑をかける奴らを捻り潰せるほどに強くならないといけない。わたくしはこのままじゃいけないわ)


それからクロエは体術を習ったり、初めて大嫌いな愛魔法というものに向き合うことを決めた。

魔法を使えなければ、ミシュリーヌを守れないからだ。

ミシュリーヌに害を加えようとする令嬢は潰さなければ気が済まない。

クロエ自身が強くなり、どんな脅威からとミシュリーヌを守らなければならないと決意できた。


何をするにもミシュリーヌファーストでいたことで、普通に令嬢とお茶会ができるほどになる。

誰もクロエを敵視しなくなったのだ。

たとえ自分の婚約者がクロエに心を傾けていると知っても、その怒りはクロエに向くことはなくなっていく。


それもすべてミシュリーヌのおかげなのだ。

最早、この気持ちは崇拝に近いかもしれない。

会話の内容もほとんどミシュリーヌのことだ。


ミシュリーヌが楽しく推し活ができるように、第二騎士団のファンの令嬢たちに声をかけた。

オシカツ商会を起動に乗るように、クロエも手伝っていた。

すべてはミシュリーヌの笑顔のため。


(ああ……ミシュリーヌお姉様のおかげでわたくしは愛を学びましたわ!)


ミシュリーヌが大好きだという推しのモアメッド・ディーラー。

彼女がモアメッドと結ばれたいと心から望むならば、クロエは禁忌すら犯すだろう。


ミシュリーヌが推し活を始めて、その愛らしい姿をずっと眺めていたい。

そのためだけに興味がない訓練場へと足を運ぶ。

推し活を楽しむミシュリーヌを見れるだけで、クロエはこれ以上ないほどに幸せだった。


ミシュリーヌと共に足繁く第二騎士団に通うクロエのせいで、第二騎士団の士気が上がったことなど関係ない。

ミシュリーヌが幸せかどうか。

それはクロエの人生にとって、もっとも大切なことだといえるだろう。


そんなミシュリーヌがついに婚約してしまった。

いつかこんな日がくるとは思っていた。

それは貴族としては変えられないことはわかっている。


だからこそミシュリーヌには誰よりも幸せな結婚をしてほしい、そう願っていた。

それなのに突然の婚約の打診はミシュリーヌ戸惑うばかり。

オレリアンは顔もよく、家柄も地位も申し分ない。

ミシュリーヌを守れるところも高く評価しよう。それにミシュリーヌを選んだこともだ。


けれど許せないのはオレリアンをミシュリーヌが好いていないということ。

そして……直接婚約を申し込まなかった不誠実さにクロエの怒りが爆発である。

ミシュリーヌの気を揉ませる奴は万死に値する。


何よりまずいのはクロエの言い回しが悪かったことや、オレリアンが婚約相手をクロエと間違えたという先入観で、大きな勘違いを生んでしまったということ。

恐らくミシュリーヌはクロエがオレリアンのことを好きだと思っているのではないだろうか。


(ミシュリーヌお姉様はまっすぐだからそう考えてもおかしくない……絶対、そうだわ。わたくしがレダー公爵を好きだと思っているのね)


そう気づいた瞬間、クロエは青ざめていく。

そう思ったのと同時に、ミシュリーヌの今までの言葉や態度がすべてが噛み合っているような気がした。


(わ、わたくしが死ぬほど愛しているのはミシュリーヌお姉様だけなのに……)


クロエからミシュリーヌという女神を突然掻っ攫っていったオレリアン。

そんな彼には怒りと苛立ちが募っていく。


(あの顔は間違いありませんわ。ミシュリーヌお姉様のことが好きなのよ……!)


彼とミシュリーヌが出会って話しているところをクロエは見たことがない。

なんせミシュリーヌが推し活を始めてからはクロエは必ずそばにいたからだ。 

推しを一生懸命応援するミシュリーヌから片時も目が離せない。

可愛くて可愛くて仕方がないのだ。


それなのにオレリアンは初めからミシュリーヌに優しい目を向けていた。

それにタイミング悪くミシュリーヌの前で体調を崩したせいで、ますますミシュリーヌに惚れ込んでいるではないか。


侍女に何度も止められていたクロエだが、部屋に二人きりでいさせることなど許せない。

嫉妬で頭が爆発してしまいそうになっていた。

今でもオレリアンを消し炭にしてやりたいと思う……絶対にできないが。


クロエは可愛らしく首を傾げるミシュリーヌを見た。


(はわわ……ミシュリーヌお姉様、天使すぎるわ)


クロエは美女などと言われるが、ミシュリーヌの方が数百倍可愛らしいではないか。

みんなの目は節穴なのだ。

今までは節穴のままでいいと思っていた。

クロエだけでそれがわかっていればいいと思っていたのに……。


けれど今はミシュリーヌの誤解を解くことが優先だろう。



「あの……ミシュリーヌお姉様」


「外は冷えるわ。屋敷の中に入りましょう」



クロエはミシュリーヌと共に屋敷の中に入る。

今からすぐに説明しようと口を開く。



「ミシュリーヌお姉様、勘違いしていたら嫌だから説明させてほしいの」


「勘違い……? 何のことかしら」


「レダー公爵のことですわ。わたくしはレダー公爵のことを……っ」


「クロエ、これ以上は何も言わなくても大丈夫よ」


「違うの! ミシュリーヌお姉様、聞いて……!」



そう言いかけた途端、ミシュリーヌはクロエの肩に手を置いた。

そしてわかっていると言いたげに頷いているではないか。

クロエは嫌な予感を覚えた。


これもミシュリーヌの可愛いところなのだが、思い込んだらまっすぐなのだ。

そして今、完全にクロエがオレリアンと結ばれたいと思っていると思い込んでいるのではないだろうか。


(わたくしのためにミシュリーヌお姉様が頑張ってくれるのは嬉しいけれどっ! 嬉しいけれど嫌よ!)


けれど今はミシュリーヌの可愛さに酔っている場合ではない。


それにクロエにはもう一つ気がかりなことがあった。

それはマリアン・ディリナのことだ。

彼女はオレリアンにかなり入れ込んでいて、自分が婚約者になると信じて疑わなかったようだ。

だが、婚約を申し込むならば早々に申し込んでいるだろう。

そうではないと思っているのは本人だけだ。

周囲は彼女の暴走行為をよく思ってはいないことは明白だった。


すぐにミシュリーヌに接触してきたこともその証拠だ。

ミシュリーヌは彼女にきちんと説明をして、わかってもらったつもりでいるかもしれないが、マリアンがそう簡単に引くとは思えない。


(わたくしがミシュリーヌお姉様を守るの。だけど、今は誤解を解くのが先よ……!)


その後、懸命に誤解なのだと説明するクロエだったが、ミシュリーヌに気を遣っていると思われてしまい、逆効果になってしまうことになるとは思いもしなかったのだった。





【 完 】



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