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②④ クロエside1

クロエはここで大きな違和感を覚えていた。


(なんだかミシュリーヌお姉様と会話が噛み合っていないような気がするわ)


会話が噛み合っているかと思いきや、何故かミシュリーヌの言っていることがズレているような気がしたからだ。


(ミシュリーヌお姉様、何を言っているのかしら。わたくしなら絶対にうまくいくって…………ま、まさか!)


今までも何度かクロエは疑問なことがあった。

けれどミシュリーヌには伝わっているだろうと思い込んでいたのだ。


(ミシュリーヌお姉様……絶対に勘違いしているわ)


思えば、始まりからそうだった。

オレリアンからの婚約の申し込みはミシュリーヌではなく、クロエだったのではないかと思っていたことが発端ではないだろうか。


令嬢たちのお茶会でも必ずといっていいほどに名前が上がるオレリアン・レダー。

クロエはお似合いだと言われていたが、まったく興味がなかった。

何故ならば、クロエには神よりも素晴らしい存在である〝ミシュリーヌ〟がいるからだ。



彼女より美しく綺麗な存在に会ったことはない。

幼い頃は意地悪ばかりしてきて、お世辞にも好きだとは言えなかった。

けれど『思い出した。このままじゃいけないわ』と青ざめていた時からミシュリーヌは変わった。


大きく変わったのは気持ち悪いくらいに周囲に優しくなったこと。

それと健康に異常に執着するようになったことだ。

誰かが体調を崩すのを極端に嫌い、症状が治るまで自分のことのように苦しそうにしていた。

世話を甲斐甲斐しくやいて、まるで侍女のように動き回っていたのだ。


クロエに突然優しくなったミシュリーヌを最初は警戒していた。

けれど風邪を拗らせて苦しんでいた時、ずっとそばにいて励ましてくれたのだ。

それからもクロエが令嬢に絡まれていれば、すぐに庇い立てにきた。 


愛魔法などと可愛らしい言葉でまとめてはいるが、クロエにとっては最悪の呪いだった。

愛など恐ろしくて欲がまとわりつくおぞましいものだ。


容姿も相俟って、クロエにまとわりつく欲望は心を疲弊させていく。

クロエに笑顔で近づいてくる奴らはみんな同じことを言う。

『あの人にわたしを好きにさせて!』

『ボクをみんなからモテるようにしてくれよ』

皆、魔法を使って、誰かの愛情を得ようとする浅ましい奴らばかり。

そもそも人の心を操ることは禁忌だ。

クロエはそういった魔法を使うことを禁じられていた。

当たり前の話だ。そんな魔法ばかり使っていたら国が傾いてしまう。


(気持ち悪い。愛魔法は呪いの魔法よ……人をおかしくさせる)


クロエは家族以外の人を信頼できなくなっていく。

成長すればさらに愛魔法がクロエを追い詰める。

これも魔法の影響なのか、人を惹きつけるこの容姿がクロエを地獄に突き落とす。

『魔法を使って婚約者を奪った!』

『愛魔法で自分が愛されれるように仕向けた』

誰よりもこの魔法を憎んでいるクロエが、そんな悍ましいことをするはずがない。


(大嫌い……こんな世界、消えてしまえばいい)


けれどあんなにクロエを毛嫌いしていたミシュリーヌによって、光が差し込むとは思いもしなかった。


『クロエはそんなことをする子じゃないわ! 自分が愛されないのをクロエのせいにしないでっ』


高熱を出してから別人のようになったミシュリーヌ。

記憶もあるし、見た目が変わったわけではない。

何かが大きく変化したのは確かだった。


ミシュリーヌは必ずクロエを庇う。

クロエはそんなミシュリーヌの姿に苛立って仕方なかった。

この魔法が花魔法を使うミシュリーヌに理解されることはないし、クロエは見えないところで恨みを買って誰かに嫌われ続けるのだから。


今日もパーティーでミシュリーヌはクロエを庇ったせいで、ジュースをかけられてしまった。

汚れたドレスを見つめながら、ヘラリと笑うミシュリーヌを見てクロエは苛立ちから叫ぶように言う。



『ミシュリーヌお姉様、もういいから無駄なことをしないでっ!』



クロエはミシュリーヌを見ていると苛々して仕方なかった。

こんなことをしても何も変わらない。

しかしミシュリーヌはキョトンとして首を傾げた。



『どうして? だってクロエは悪くないじゃない』


『言っても無駄なの。全部……全部っ、無駄なのよ!』



クロエはドレスの裾を握る。

自分が悪くないのに責められ続ける苦痛。

本当は悔しくて苦しくて仕方ない。けれどこれは誰にも理解されることはないのだ。


しかしミシュリーヌはハンカチでジュースを拭いてから「お母様に怒られちゃうわね」と平然と言っていた。

それからクロエの手を握る。少しベタついた手のひら。

クロエを見つめるブラウンの瞳は何かも見透かしているように見えた。



『クロエ、あなたは悪くない』


『──ッ!』


『あなたは堂々としていればいいの。わたしがクロエを守ってあげる。だから大丈夫』



ミシュリーヌがそう言って笑った瞬間、次々と涙が溢れ出た。

今まで我慢しといたものがすべて流れていくようだ。



『わたしだけはクロエの味方だからね』



ミシュリーヌはクロエの泣き顔を隠すように抱きしめてくれた。

その言葉がどれだけクロエを救ったのか、ミシュリーヌは知らないだろう。


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