①③ オレリアンside2
『候補はマリアン嬢か? それともお前に釣り合う唯一の令嬢といわれているクロエ嬢か?』
『…………』
オレリアンはどちらの令嬢にも何も思ってはいなかった。
むしろマリアンに関しては、あまり評判がよくないことは知っていた。
公開練習の後に必ず親しげに話しかけてはくるが、積極的な態度や甘ったるい香り、媚びるような声はどうも好きにはなれない。
クロエも確かに容姿は整っているとは思うが、何かモヤモヤした感情が湧き上がる。
(これは……同族嫌悪だろうか)
なぜかクロエには近づいてはいけないという感覚がある。
するとアントニオは久しぶりに飲んだ酒に飲まれてしまい、顔が真っ赤になっていた。
いつのまにか彼の隣には空いているワインボトルが二本もある。
それでも並々と注がれるワイン。
三本目のワインも半分なくなり、さすがに飲み過ぎだと止めようとするものの、あっさりと遮られてしまう。
『飲み過ぎですよ……!』
『これをあと半分空けたら終わりにするさ』
その言葉を聞いて、彼が止まる気がないのだと悟る。
アントニオのためだと、オレリアンはワインボトルを奪い、自分のグラスに注いで次々とワインを飲んでいく。
『おー! オレリアン、いい飲みっぷりだな』
『これで飲むものはなくなりますよ。いい加減にしてください』
『ははっ、そうだな! もっと飲め飲めっ』
はっきりと覚えているのはここまでだった。
一時間後にはすっかり酔いが回り……。
『おれりあん、気になる令嬢に婚約を申し込むぞぉ! こぉーいうのは勢いなんだよ、いきおいっ』
『わかっれますよ! 申し込めばいいんですよね。わーってまふ』
そのまま執事に婚約の申し込みをするから書類を用意するように指示を出す。
周りに『酔いが覚めてからにした方が……』と、制止するが、二人の勢いは止まらずに婚約を申し込んだようだ。
それからはアントニオと何を話したか覚えていない。
その時のことはぼんやりと覚えるが、オレリアンは痛む頭を押さえながら呆然としていた。
次の日、アントニオとオレリアンが目を覚ました時には、シューマノン子爵邸に手紙を届けた早馬が帰ってきていた後だった。
アントニオが『やはりクロエ嬢か!』と、笑っていたがオレリアンが婚約を申し込んだ相手がミシュリーヌ・シューマノンだったことを聞く。
アントニオはミシュリーヌがわからないのか首を捻っていた。
執事から昨日の失態を聞いたオレリアンは絶望していた。
何の連絡もなく、まともに会話すらすることなく『婚約してくれ』と圧をかけるなど失礼にもほどがある。
(なんてことをしてしまったんだ……急いで謝罪の手紙とあとは……あとは何をすればいい?)
オレリアンは混乱と二日酔いで痛む頭を押さえながら、自分のやるべきことを考えていた。
アントニオはやっと起きてきたかと思うと、途中からまったく記憶がないらしい。
事情を話そうとするが、アントニオとオレリアンの元に早馬が届く。
その内容は王妃の父親、隣国の前国王の訃報だった。
弔問へ向かうため急遽隣国へと向かわなければならない。
アントニオかオレリアンのどちらかと第一騎士団の数人についてきてほしいとのことだった。
この場合、今後の予定を考えると第一騎士団の団長であるアントニオではなく、オレリアンが行くべきなのはわかっていた。
すぐに準備を整えなければならない。そして弁解が何一つできないままだった。
恐らくシューマノン子爵は理由もわからないままだろう。
まるでこの婚約を了承する以外、道はないと圧力をかけているようではないか。
(申し訳ないことをしてしまった。ミシュリーヌ嬢にもシューマノン子爵にも……)
この時、オレリアンはミシュリーヌたちが婚約する相手を間違えたのではないかと思い込んでいることなどまったく思いもしなかった。
(ミシュリーヌ嬢は……俺のことをどう思っているのだろうか)
オレリアンはミシュリーヌのことを思い浮かべてほんのりと頬を染めながら口元を押さえた。
(もしこの件ミシュリーヌ嬢に嫌われてしまったら……)
今までミシュリーヌとほとんど関わっていないオレリアンだったが、彼女のことは一方的に知っていた。
まだミシュリーヌが幼い頃、五年ほど前だろうか。
第二騎士団の公開練習に必ずイエローかオレンジのドレスを着ていた。
見たことのないピンク色の髪はこの国でも珍しい魔法を持っている証だろう。
周りの令嬢たちに比べてまだまだ幼いことも目を引く要因だった。
いつもよくわからない持ち物を持って現れるミシュリーヌを気づいたら目で追っていた。
次第に彼女の妹、同じくらいの青年と人数が増えていく。
最初は何を持っているかわからなかった。他の令嬢も怪訝な顔をして、ミシュリーヌを見ていた。
次に彼女を見かけた時も同じだった。
キラキラと太陽に照らされた花のように輝いていて、何かを楽しんでいるミシュリーヌを自然と目で追ってしまうようになる。
自分に持っていないものを持っているからかもしれない。
時が経つにつれて、ミシュリーヌのような格好や持ち物をした令嬢たちが増えていく。
次第にミシュリーヌを中心に笑顔が広がっていった。
第二騎士団の公開練習はとても楽しげで、騎士たちも生き生きしているように見えた。
シューマノン子爵の長女で花の魔法を使うと知って彼女らしいと、思わず笑みが漏れたのを今でもよく覚えている。
それから何年経っても自然とミシュリーヌを目で追うようになった。
気になるというよりは、彼女のことがもっと知りたいと思ったのかもしれない。
誰よりも第二騎士団の練習に早く現れては一番遅くに帰っていく。
何をしているのか気になり、オレリアンは残ることにした。
ミシュリーヌはなんとゴミを集め、掃除を始めたのだ。




