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第3話 元公爵令嬢、辺境再生(と結婚)はじめました

 翌日の執務室。

 わたくしの手元には、レオンハルトから提示された「誓約書」が広げられていた。

 その内容は、驚くほどに緻密で論理的だった。


 第一条、目的。

 両名は互いの安寧と、ノルドクレイ領の永続的な繁栄を、共同の最優先目標と定める。


 第二条、責務。

 エリアーナは領地の発展を、レオンハルトはその守護を、それぞれの第一の責務とし、互いの領分を尊重し、協力するものとする。


 第三条、相互扶助。

 いずれか一方が心身に苦痛を負った場合、もう一方は、これを自らの責務として、最大限の支援を行うことを誓う。


 その下にも、ずらりと条項が並ぶ。その数、全百八条。


 馬鹿げている。

 馬鹿げているが、完璧だ。

 これは世界で最も誠実で、最もロマンチックな、結婚契約書だった。


 顔が熱い。

 心臓がうるさい。

 この契約を受け入れることのリスクとリターンを、冷静に分析しなければ。

 リスク。わたくしの平穏なワーカホリック生活が、この男によって乱される可能性。

 リターン。……計り知れない。

 顔が熱い。


 コン、コン、と扉がノックされる。

 入ってきたのは、レオンハルトだった。その手には朝露に濡れた一輪の野の花。


「誓約の追加条項だ」


 彼はその花を不器用な手つきで、わたくしの机に置いた。


「……毎日、君に花を贈る。これも俺の責務だ」


 もう限界だ。

 わたくしの思考回路は完全に焼き切れた。


「……その条項、魅力的ですね。相互扶助の精神も悪くない。リスク管理も万全のようですし……」


 顔を上げられない。きっと今、わたくしは人生で一番、締まりのない顔をしている。


「……この契約、謹んでお受けいたします」




 翌朝。ノルドクレイの一番小高い丘の上。

 眼下には活気に満ちた領地の姿が広がっている。畑は整然と区画され、新しい家々の屋根からは、白い煙が立ち上っている。


 わたくしの隣には、レオンハルトが立っている。

 彼の視線は、わたくしと同じように、発展を続ける領地へと向けられていた。


「見てください。わたくしの最高の『推し』です」


 わたくしが誇らしげに言うと、彼は、ふっと、穏やかに微笑んだ。


「ああ。だが、俺にとっての『推し』は君だ」


 その言葉にまたしても心臓が跳ねる。

 もう、この非効率なバグを分析するのはやめた。

 感情のまま、この男と共に、この愛すべき事業を育てていこう。


 元公爵令嬢。わたくしは辺境の地で最高のパートナーと共に、新たな人生という名の、壮大なプロジェクトを今、本格的に始動させた。


ここまで読んでいただいてありがとうございます。

不器用と不器用の恋路がうまくいきますように。


よかったらブックマークしていただいたり、↓の★マークポチポチいただいたりすると、作者が側転して喜びます。よろしくお願いします。

( ˘ω˘ )


後味のわるーい、シャーリーざまぁホラーエンド短編もご用意しておりますので、よろしければどうぞー

(^ω^三^ω^)

7/29/11:00に投稿(短編ホラー)

男爵令嬢、シャーリーは笑わない

https://ncode.syosetu.com/n9754kt/

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新作はじめました! 違うテイストで面白いのでよろしくお願いします‹‹\(´ω`)/››‹‹\(´)/››‹‹\(´ω`)/››
魂が響かない令嬢は、精霊の血を引く公爵様の『錨』となる ~偽りの婚約から始まる、たまゆらに縛られない本当の愛~
― 新着の感想 ―
これが正しい契約結婚ですね。 そもそも「契約」とは互いを尊重し、 自らの責務を明確化することで 齟齬のない関係性を構築すること。 それは好意を否定するものではありません。 害意を向けられ続けた人に贈…
とても面白くて一気に拝読させて頂きました 読みごたえ最高です、レオエリの格好良くて尚且つ可愛い2人好きです…(*◜◡◝)素敵なお話ありがとうございます
エリアーナは一種のツンデレ? 2人が無事に結ばれて安心しました。 それにしても父親は図々しいですね。最後にしゃしゃり出てきたと思ったらちゃっかり自分の株を上げて。エリアーナが結果を出さなければ謝罪も…
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