表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/56

第53講 歴女と王子と走る鉄道と『ジョージ・スチーブンソン』

 リカード貿易大臣が、分厚い帳簿を抱えて青い顔をしていた。


「供給が追いつきません……。農作物も鉱石も布も、地方から王都への輸送が遅れに遅れています」


 僕――ケイ王子が首をひねる。


「じゃあさ、馬車を五台ぐらい“まとめて”馬一頭で引けばいいじゃん!」


「殿下……馬が倒れます」


「なんで!? 僕、ニンジンいっぱいあげるって!」


「それは“待遇改善”ではなく“無茶振り”です!!」


 私はため息をつきながら黒板を引き寄せた。


「……荷車を繋ぐ……力で引く……うん、出たな。

 王子、今日は“世界の物流を変えた人”の話だ」


「物流変える? そんなヤベーやついるの?」


 *


 王宮内教室。

 私は黒板に名前を書いた。

『ジョージ・スチーブンソン ――鉄道を生んだ技師』


「スチーブンソンはね、イギリスの炭坑で生まれた。

家は貧しくて、読み書きができなかった。でも、彼には一つ才能があった」


「何? 頭が良かったとか?」

「違う。“壊れた機械は直せる”才能だ」


「へえ……技術屋か」


「彼は炭坑のポンプや機械の修理をしながら、“どうして動くのか”を自分で学び続けた。

夜は灯りをつけて勉強。字も後から覚えた」


「大人になってから文字覚えたのかよ!?」


「そう。実際この時代の識字率は低いから仕方ない。彼は“知識は手に入れればいい”って考えた。

だから貧しくても諦めなかった。この姿勢が“鉄道の父”の原点だ。」




「産業革命が始まると“蒸気機関”が登場してくる。石炭を燃やして水を沸騰させ、蒸気の圧力でピストンを動かす“火の力の機械”だ」


「火で動く……馬の代わりか!」


「そう。スチーブンソンは炭坑の中で蒸気機関を見て、“これを地上で走らせればいい”と思いついた」


「思いつくのは簡単だけど、できるのか?」

「そこがすごいところ。彼は仕事の合間に自分で蒸気機関車を組み立てはじめた。

材料は炭坑の廃材や使い古した部品。まさにゼロからの挑戦だ」




「彼が最初に作った機関車は、正直言うと“重すぎて”線路を壊した。でもスチーブンソンは諦めなかった。

鉄の質、車輪の幅、線路の材質……全部を改善していった」


「努力型天才じゃん」


「そう。そしてついに――1814年“ブリューワリー号”が誕生した。

炭坑から石炭を引き出すための機関車で、これが後の“鉄道”の原型になる。」


「鉄道って“線路が大事”なんだよ」

「道つくるほう?」


「そう。スチーブンソンは“レールをどう作るべきか”を考えた。木じゃ弱い。石じゃ割れる。だから――鉄のレールにした」


「鉄道の“鉄”って、そこからか」


「さらに彼は“車輪の幅”も統一した。

 これがいま世界中で使われている 標準軌 1435mm の原型」


「世界中!?」

「そう。“世界の輸送の基準”を作ったのがスチーブンソンなんだ」



「そして1829年、“ロケット号”が誕生する」


「名前かっけー!」


「軽いパーツ、効率的なボイラー、強い車輪。

 彼の開発した技術の集大成だ。

 スピードは時速40km――当時の馬車の2倍以上」


「うわ、めちゃ速いじゃん!」


「そう。“人と物を短時間で大量に運べる”って革命だった。

スチーブンソンはこう言われる。“世界を走らせた男” だって」



 私は姿勢を伸ばし、深い声で語る。

「――“火の力で国をつなげる。人が歩くより、馬が走るより、この鉄の馬は未来を駆けるだろう”」


 ケイ王子は息を呑む。


「“道があれば、どこへでも行ける。

  道がなければ、つくればいい。

  道とは、国そのものの血管である”」


「……かっけぇ……」


「“輸送を制する者は、国を制す”

 スチーブンソンはそう信じて線路を敷き続けた。

 彼の鉄道は、街を変え、産業を変え、人の暮らしを変えた」


 *


「つまり!」

 ケイが勢いよく立ち上がった。


「僕が“鉄の馬”を作ればいいんだな!!」

「違う!!」


 その日の夕方、悲鳴が響いた。


「こ、コヒロさぁぁぁん!!」

 リカード貿易大臣と宮廷技師が走り寄る。


「あのバカ……王太子殿下が、巨大な馬の形の鉄塊に“蒸気ボイラー”を詰め込み“鉄の馬1号”を走らせようと……!」

「死ぬってそれ!!」


 中庭には白煙を噴きながら暴走寸前の鉄馬。

 そして、満面の笑みの王子。


「見ろコヒロ! 僕の“未来の乗り物”だー!」

「未来じゃなくて爆発だよそれは!!」


 私は全力で止めながら言った。


「……王子。鉄道は“馬の代用品”じゃない。“国を動かす仕組みそのもの”なんだよ」


 王子は黙って鉄馬を見つめ、ぽつりと呟いた。


「……僕もさ、“国を動かす仕組み”を作ってみたい」


 私はふっと笑った。

「王子、お前ちゃんと成長してんな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ