表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/56

第49講 歴女と王子と星の真実と『ガリレオ・ガリレイ』

 王宮の夜空は、雲一つなく澄み渡っていた。

 しかしその静寂をぶち壊す声が、塔の上から響いた。


「コヒローッ! “星を動かす魔法”って本当にあるのかー!?」


 見上げると、王子が天文塔の手すりに腰かけていた。

 いや、危ないだろそれ。十一歳の王子が高さ五十メートルの塔で足をぶらぶらさせるな。


「バカ王子、落ちたら星より速く墜ちるぞ!」

「だってさ、魔導院の神官が“この国は神の星に守られている”って言ってたんだよ! でもオレ、望遠鏡で見たら動いてるんだもん!」

「……動いてる?」

「うん! 星が、ゆっくり動いてた! 神が動かしてるんじゃないの?」


 その言葉に私はピクリと眉を上げた。

(おお……これは、今だな。)


「王子。今夜は授業だ」

「え、今から!?」

「今からだ。星が動くって言ったな。なら今日の講義は――」


 私はチョークを握り、天文台の黒板にその名を書いた。


 『ガリレオ・ガリレイ ――“それでも地球は動く”』


 王子は目を丸くした。

「がりれお……? なんか響きが魔導師っぽい」

「違う。彼は“科学の魔導師”だ」


 *


 十七世紀のイタリア。

 まだ“星の動きは神の意志”と信じられていた時代。

 ガリレオは空を見上げて言った。


 「違う。星は神の飾りじゃない。天は、動いている」


「へぇ〜、反抗的じゃん」

「そう。彼は“地球が回っている”――つまり“神が動かす世界じゃない”と言い切った。

 それを証明するために、自分で望遠鏡を作って月を見たんだ」


「……なに見えたの?」

「“月にも傷がある”って気づいた。

 完全に美しい神の世界なんか、存在しない。

 でも、その“傷”こそが真実だ――彼はそう言った」


 私は黒板に丸と線で軌道を描きながら言う。


「星も地球も、神の命令じゃなく“法則”で動いている。

 “神が上、地が下”なんて誰が決めた? 

 彼は、自分の目を信じたんだ」


 王子は少し黙り込んだ。

「……でも、それ言ったら怒られそうだな」

「怒られたどころじゃない。宗教裁判にかけられた」

「うわ、やっぱり!」


「『お前の見たものは間違いだ、神に逆らうのか』

 そう言われても、ガリレオは“観測したこと”を曲げなかった。

 結果、彼は軟禁された。だが、最後まで言い続けた。

 “それでも地球は動く”――と」


「……強ぇな、そいつ」

「そうだ。真実を見た人間は、孤立しても黙らない。

 “信じること”と“考えること”の違いを示した男だ。」


 私はチョークを置き、王子の方を見た。

「お前もさっき言ってただろ。“星が動いてる”って。

 それが“観測”だ。

 ガリレオも最初はただの“見た”から始まった。

 でも、それを“信じる”勇気を持ったんだ」


「……見たものを、信じる勇気……」


 王子は夜空を見上げた。

 無数の星が瞬き、彼の瞳に映っていた。


「でもさ、もし僕が“星が動いてる”って言ったら、父上や魔導院は怒るかな」

「たぶん怒るだろうな。けど、世界は怒っても動く」

「……うわ、名言っぽ」

「だろ?」


 少し笑って、私は言葉を続けた。

「ガリレオの一言は、千年の“思い込み”を壊した。

 神の秩序を壊したって? いや、違う。

 “考える自由”を取り戻したんだ。」


 *


 翌朝。

 科学院主任のフェン氏が青い顔で報告書を持ってきた。


「殿下が……“王立天文院”に勝手に入り、全ての星図を並べ替えておられます!」

「……は?」


 駆けつけると、王子が笑顔で叫んだ。

「見ろコヒロ! “神の星座表”をひっくり返したら、こっちの方が本当っぽくね!?」

「お前、地動説を実践すんな!!」

「ガリレオ方式だ!」

「お前、裁判されるぞ!」

「へへっ、“それでも星は動く”!」


 その無邪気な笑顔に、私は苦笑いした。


 (――いいさ。考えることを恐れない王が、一人でも生まれれば。きっと、この国も動き出す。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ