episode 6 来たる夜
第六話です!
「嫌だぁ!」
凛は布団に顔を突っ込んで叫ぶ。
今すぐ、元の世界に戻りたい。
だけどそれは無理だ。
なので、叫んでいる。
「鈴々さま。落ち着いてください」
狼華が背中を撫でてくれる。
「私、そんな皇帝と…無理よ!」
「噂が噂ですからね」
部屋の隅から見ていた孫里がうんうんと納得する。
「こら、孫里」
狼華はそんなことない、とそんなハードなものではなく初歩的なものから…と言うが話せば話すほど、凛を不安にさせていく。
「ねぇ、狼華。ずっと部屋で一緒にいてよ」
「無理ですよ。そんな状況のなか部屋に一緒にいたらいたたまれない気持ちになります」
「だけど…」
縋ってくる凛の手を取って狼華は柔らかく笑う。
「それに、侍女がいない方が主上も思う存分できるでしょうし」
「思う存分されたくないの!」
そんなやり取りをしていると麻音が皇帝が来たと伝えに来た。
「頑張ってください。鈴々さま」
「…」
凛は無言で返した。
すると扉が開き、寝室に皇帝が入ってくる。
「鈴々」
「ようこそお越しくださいました」
凛は形だけでも優雅に振る舞う。
心拍数が爆上がりする。
…深呼吸、深呼吸。
「それでは」
狼華はファイトと拳を作る。
「お前たちも外で待っておけ」
皇帝も護衛を外させる。
二人きりになってしまった。
皇帝はゆっくり寝台に近づくと横になる。
…あぁ。出来れば避けたかったことが起きるのか。
凛は後宮に行きたいと願ったことを後悔する。
「鈴々。お前、噂は聞いているか?」
「…えぇ。風の噂程度で」
そんなことを聞いて何になる。
今からすることは噂通りなのだろう。
「はぁ。誤解が広がってゆく…」
目元を押さえて疲れ切ったため息を漏らす。
「誤解ですか?」
「私が今日ここに来たのはお前のことを知るためだ」
「はぁ」
意味が分からないとでも言わんばかりの生返事を返した。
知るため?
文に書いてあった内容と違う。
「あの文は部下が勝手に送ったもので、夜の営みをしに来たわけではない。それと、その噂とやらも信じるな」
案外良い人そうで凛は体の力を少し抜いた。
そこまで気を張らなくても良いのかもしれない。
「それでは、なんであんな噂が?」
「…多分、私が滅多に妃のところに行かないので鬱憤を晴らすために誰かが流したんだろうな。くだらない」
ただ、そのくだらない噂で恐れられているのが可哀想で仕方がない。
「それじゃあ、早速そなたのことを教えてくれ」
「一体何を教えれば良いのです?」
「んー、趣味は?」
皇帝は少し砕けた調子になる。
意外に親しみやすい。
「歌を歌うことです」
「ほぉ。歌か…それじゃあ出身は?」
「…東の方です」
凛は先ほどと一転して硬い声で答えた。
東の方のどこだと聞かれたらおしまいだ。
「ふーん。なら、好きな香の種類とか」
特に何も尋ねてこなかったことに安堵する。
その後も皇帝はいくつか質問してきた。
その質問たちは答えやすいものばかりだったのですらすら答えた。
「思っていた以上に面白いな」
「どういう意味ですか?」
凛の純粋な質問に、皇帝はニヤリと口角を上げた。
「この私がそなたの願いを叶えよう」
皇帝は自信満々に言い放ったのだった。
「ね、願いですか?」
「鈴々、そなたはこの世界の者ではないな」
皇帝が衝撃な一言を放った。
つづく
ありがとうございました!
また、次回!