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episode 5 侍女たち

第五話目になりました!

「あの妃。なかなか良いではないか」

皇帝がボソリと呟いた。


「ですが、出身もはっきりしていないのでしょう?」


「そうだな。だけど気に入った」


「…そうですか」



皇帝はこれからが楽しみだと笑みを浮かべた。

「とても興味深い」






「仕事を与えろ?妃なのですから、子供を作れば良いのですよ?」

俊風は首を傾げつつ、言う。

だから、この間子供はまだ作らないと言ったばかりではないか。


「そうではなくて、妃として楽な生活を送れるのは嬉しいことです。ですが、とっても暇なのです」


「なるほど…」


考える素振りを見せる俊風だったが、なぜかいきなり笑顔になった。




「鈴々妃。貴方の特技はなんですか?」


「…特技。歌を歌うとか」



カラオケでよく高得点を取れることを友達からすごいと褒められたことがある。

その程度でしかないが、強いて言うならこれだろうと思った。



「じゃあ、試しに何か歌ってみてください」


「試しって…嫌ですよ」


「なぜに?」

俊風は心から不思議そうな顔をする。


人前で歌うのは苦手だ。

友達の前で歌った時は相手が幼馴染だったからである。


それなのに胡散臭いこの男の前で歌いたくない。



「仕方ない。俺も友達とカラオケに行った時は無理やり歌わされたっけ…」

一瞬、俊風の素が見えた気がした。



「なら、仕事の件は少し考えておきます。妃がする仕事はないと思いますが、下働きとかならできるかもしれないです」


それだけ言い残すと俊風は去って行った。

疲れのため息を漏らした凛。




凛は那月宮に戻った。

戸を開けると、今まで誰もいなかったはずの宮の玄関で侍女の格好をした女性が五人ほど並んで立っていた。


「おかえりなさいませ」


「えっと、どちら様です?」


凛が戸惑いつつ訊ねると侍女の格好をした女性の一人が笑みを浮かべながら言う。



「今日から、鈴々さまにお仕えすることになりました。狼華ロウファと申します。そして、左から孫里ソンリ麻音マーオン劉爽華リュウソウカ王蓉ワンヨウです」



丁寧に紹介する侍女は侍女頭に向いてそうだ。



「よろしくね。でも私、人に何かしてもらうのってあんまり得意でなくて…必要最低限で任せるわ」


「はい、鈴々さま」

拱手をした侍女は他の侍女にテキパキ割り当てをする。



熟練の侍女といった感じである。



「それでは、鈴々妃。そろそろ昼餉のお時間ですね」


そう言えば、朝起きてから何も食べていない。

食べる暇も与えてもらえずに俊風に呼び出されたので(夜に眠れず、朝の遅い時間まで寝ていたので気づけば昼前だったのもある)お腹がすいた。



「毒味は私に任せていただきたいです」


「…いいの?」


「はい。私でよければ」


「それじゃあ、よろしく」

少し躊躇うが、本人が希望するならお願いするしかない。


どうせ誰かに頼まないと形だけでも妃にはなれない。




昼餉の時間、狼華は早速毒味を始める。

ただ、その手際が良すぎて冷め切る前に食べることができる。


けどそれって良いんだろうか。


まぁ、速攻性の毒ならすぐに倒れてしまいそうだが。

凛はドラマや小説の中の後宮しか知らないのでそこまで詳細に詳しいわけではない。



「それよりも今は、食事を楽しんだ方が良いよね」


小声で呟くと美味しくて温かい料理を食べた。






食事が終わって部屋に戻った凛。

部屋は二階にあるのだが、普段は一階の寝室を使っている。


この部屋はまだ掃除がされていなくて埃っぽかったからである。



窓を開けると光が部屋の中に差し込んでくる。


風が吹き込んできて心地良かった。


「♪風尊し あの日から 私の世界は 変わった  あの日 思えば 光の彼方 私を見つめる」


気がつけば、口ずさんでいた。

凛は即興で歌を作ってしまう癖がある。



「お上手ですね」

拍手と共にそんな声が聞こえた。

振り向くと後ろには狼華が立っていた。



「ろ、ろ、ろ、狼華!?」


「早速名前を覚えていただいたようで光栄です」


「この事は誰にも…」


「言いませんよ」狼華が首を横に振る。

凛はその言葉を信じることにした。



「鈴々さま。歌がお上手なんですね」


「まぁ、趣味と言いますか…」


「なんで敬語なんです?」

狼華は眉を顰める。



「あ、いや」


つい、堅苦しい物言いになってしまった。

「あはは」と凛は慌てて笑顔を浮かべる。




「それよりも、狼華。貴方どこの出身なの?」


「南方出身です」


「南か…」

と真面目な表情で呟いてみたものの、この世界の地図は分からない。



「鈴々さまは?」


「私?」

どうしようか…。

未来から来たなんて言えるはずがないし、この世界に私の実家はない。



「えーと、私は東の方よ」


確かに国的には東にある。


嘘は言っていない。

「東側ですか。それと、鈴々さま…先ほど文が届きました」


「どういう?」


狼華は懐から紙を取り出す。

凛はそれを受け取り、中身を読む。



「はぁあぁ!?」



「…どう、しました?」

狼華はこの反応になることを分かっておきながら訊ねる。

先ほど、内容を読んで口頭ではなく文自体を見せようと思ったのは内容が内容だったからだ。



「今晩、皇帝がよ、よ、夜伽を…」


「鈴々さま。頑張ってください」


狼華は頑張ってくださいと凛を見た。






「噂で聞いた話なんですけど、ここの皇帝の夜の営みは結構ハードみたいですよ」



俊風が満面の笑みで言うのが腹立つ。


夢が叶うとでも言いたげ顔だ。

とっても分かりやすい。


「やぁ、良かったですね。凛さま!」


「良くない!なんで、よりによって私のところに来るのよ。センスがない」


「そんなこと言ったらダメですよ。他の妃たちからしたら願ってもないことなんですから」


俊風が諌めてくる。

だが、こちらとしては迷惑極まりない。




「とりあえず、夜が楽しみですね」



凛はこっちの気も知らないでそんなことを言う俊風の頰を引っ叩いたのだった。


つづく


ありがとうございました。

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