episode 4 皇帝の提案
第四話目です!
「なぁ。そんなに露骨に避けないでくれないか?」
皇帝が声をかけてくる。
そんな中、凛は部屋の隅で固まっていた。
なぜ、自分の部屋に皇帝がいるんだろう。
「他の妃なら、喜んで抱きついてくるというのに」
そんな破廉恥な事できるか!
凛は突っ込みを抑えて皇帝を見る。
相変わらず、綺麗な顔だ。
その端正な顔がこちらを向く。
ドキッとした凛は反対に顔を背けた。
見えないが、少し不機嫌そうな顔をしているのがありありと分かる。
「あの、なんで今晩は私の宮に?」
「気分かな」
気分で目立つ事をするなよ。
呆れと怒りが同時に込み上げてくる。
「それで、何もしないんですか?」
「逆にしても良いのか?」
そう聞かれると困る。
妃になるならなるで覚悟を決めないといけないし、かと言ってそんないきなり無理である。
「…ダメです」
「だよな。今回私はそなたと話がしたくて来ただけだ」
「話ですか?」
皇帝は真面目な顔をする。
一体、なんの話だ?
「そなた、妃ではないな」
「はい?」
バレた…。
凛は絶望する。
もう、バレたならここにいられないし、タイムスリップなんて信じてもらえないだろう。
ここで否定しても意味はないのは明白。
ならば、堂々と認めるのみ。
「そうですよ」
「やっぱりな。そんなに誤魔化す素振りも見せずに認められると逆に自分を疑ってしまいたくなるが妃でないのは事実みたいだな」
「はい」
この皇帝が聡明ならば、なんとか分かってくれそうな気もしなくもないが、どうだろう。
「私は妃でもないものに妃の仕事を強要するつもりはない。だから、逃げるなら今しかないからな」
声をひそめて、だが力強い口調で言う。
「逃げても良いのですか?」
「私が逃す。絶対に」
皇帝ならできるかもしれないが、逃げたところでどこへいけば良いのだ?
後宮以外に私がいる場所はない。
ならば…
「いえ、私は妃として仕事を全うします」
胸を張ってはっきり言う自分が誇らしくなった。
「なので、主上も遠慮なくどうぞ」
役者のように両手を広げて頭を下げた。
「その様子なら大丈夫そうだな。鈴々、寝室を貸して欲しい」
「早速ですかぁ!?」
「違う。ただ眠いだけだ」
なんだ、と安堵のため息を漏らす凛を傍目に皇帝はイタズラっぽく呟いた。
「ま、その時に少し妃として働いてもらうか」
「主上!」
凛は顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに叫んだ。
「ありがとうございました」
深々と頭を下げる凛。
「何が?」
帰り際、皇帝は不思議そうに小首を傾げる。
凛は顔を上げて皇帝を見る。
「その…色々とです」
「あぁ。昨日夜に何もしなかったことか。まぁ、流石に無防備な女に手は出せない」
「そっちではないです!」
皇帝の護衛たちは外で待機しているので多分、聞かれていないはずだ。
「それでは」
目を細めて皇帝は綺麗な顔を微笑を浮かべた。
「はい」
「…凛さま…鈴々妃?…凛さま!」
「ほぇ?」
間抜けな声を出す凛を見て俊風は呆れた。
「どうしたんですか。ぼーっとして」
そういえば、宮に俊風が来ていた気がする。
「べ、べ、べ、別に」
「その焦りが逆に怪しいですよ」
俊風は全てお見通しだ、と言わんばかりの表情だ。
「鈴々妃。貴方、皇帝に会いましたね」
本当に全てバレている。
凛は降参だ、と両手を上げた。
「そうですけど何か」
最後の悪あがきだ。
せめて、皇帝に見惚れてしまったことは誤魔化そう。
俊風は凛の反応を見て少し考えた後、にやぁっと笑った。
「もしかして、皇帝の美貌に見惚れてしまったとか」
「そ、そんな事はないですよ?」
疑問符がついている時点でもうバレている。
「皇帝に見惚れてしまったのならば話は早いな」
この後に何を言うのか大体想像できてしまう。
「皇帝の子を産めば皇后の地位は硬いものになる」
「だから、なんで私がそんな重役を担わないといけないんですか?他にも適任の人はたくさんいるでしょうに」
凛は不満そうだ。
だが、俊風はそんなの気にした様子もない。
ただ目の前にチャンスがあるなら離さないと確固たる決意があるのが見てとれる。
「それは貴方が私と同じ境遇だからです」
確かにそういう絆ではないものの仲間意識はある。
だから、協力してあげたいが…自分の身を危険に晒すような行為をそんなに簡単に決めるわけにはいかない。
しかも陰謀って…。
胡散臭さ満載である。
「私も出来ることなら何かしてあげたいですが、大人たちの事情のために自分の子が巻き込まれるのはごめんです!」
凛は強く言い切った。
子供は欲しいと思う。
だけど、その子供を大人たちの陰謀などに利用されたくない。
「なるほど…母親として子供を守るわけですか」
仮定の話をしているつもりだが、実際に皇帝の子を孕んでしまったみたいな感じで聞こえる。
「確かに、子供を物のように扱うのは本意ではありませんね。分かりました。他のやり方を検討してみます」
「そうしてくださると嬉しいです」
「それでは、私は仕事に戻りますので」
俊風は帰って行った。
凛は、はぁっと体の力を抜く。
最近休める時が滅多にない。
休める時に休んでおきたいものだ。
皇帝はなぜあんなにも気を遣ってくれたのだろう。
そんなことを考えたとて意味がないことなのに。
つづく
ありがとうございました!
また、次回。