episode 16 気になるのは変だよ
第十六話目です。
…どうしたら結婚してくれるか。と考えながら紫華は凛の部屋に向かう。
まだ、寝ているということだったがそろそろ起きているのではないだろうか。
一応ノックをしてすぐに部屋に入った、のがいけなかった。
目の前に下着姿の凛が立っていた。
目を見開いて、完全に固まっている。
紫華として、なんてことない風景だが流石に気まずさというものはある。
「…すまない」
「…っ、馬鹿野郎ー!!」
凛は顔を真っ赤にして近くにあった物たちを投げてくる。
「本当にすまなかったー!」
紫華は慌てて扉を閉めた。
大変申し訳ない。
「何事ですか?」
狼華がやって来て状況を確認して来た。
「いや、その…」
「その変態が覗いてきたのよ!ありえない!」
部屋の中から着替え終わった凛が出てくる。
「それは…いくら皇帝でも少し倫理観に欠けるかと」
「だから、すまなかったって」
謝ったところで記憶がなくならない限り許せない。
「…」
鋭い目線で紫華を睨みながら凛はそこまで子供ではないので表面的には許してやる。
「…ごめん」
「別に良いですよ。次はなしですけどね」
見られたところで、減るものではない。
まぁだが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「それで、なんで来たんですか?朝早くから」
「いや、今度こそ結婚を…」
…ん。
これだけ毎回結婚、結婚言われていてはさすがに気にする。
なので、最近凛はどこか迷惑甚だしい皇帝のことばかりを考えていた。
初恋じゃないのだから、自分の気持ちにも察しはつく。
いや察するから嫌なのだ。
「…そうですか」
不機嫌な声で言う。
なんで、気になるのか。
気になるのは変だよ。おかしいんだ。
この非常識野郎のことなんて…。
「嫌ですよ絶対!」
きっぱりとこれまで以上にきっぱりと言わせてもらう。
しっかりと拒否する。
そして、案の定…紫華は目を見開いて驚く。
「帰ってください」
「え、えぇぇぇえ……」
狼華に連れて行かれる紫華。
間抜けな声を出して、見えなくなるまで狼華に引きずられていった。
「…恋は盲目」
前に聞いた言葉を思い出した。
「結婚したら妬まれる気しかしないわ…」
全妃の敵になる…「のは嫌だ!」
「うるさいぞ」
聞き慣れた声が聞こえてきた。
「俊風」
「…あのさ、ちょっと話したいことがあるんだ」
やけに神妙な顔で言ってくる俊風に凛は首を傾げながら話を聞くことにした。
東屋に移動して話を聞くことにした。
「あの…実は、結婚の話は無しにしてくれないか?」
願ったり叶ったり!
「そんな喜ぶような顔をしないでよ。悲しい」
「んじゃなくて、なんでいきなり?」
「俺の言ってることで凛を迷わせているのなら俺は諦めるよ」
微笑を浮かべて、俊風は今までで一番大人っぽい笑みを浮かべた。
「俊風…。ねぇ、俊風って本当の名前って何?」
「ん?」
「改名したんでしょ」
俊風は迷った結果…ゆっくり口を開いた。
「瞬」
「瞬。良い名前だね」
凛は椅子から立ち上がった。
「凛…」
「瞬、ありがとう。今までの人生で会った中で一番良い親友だよ」
満面の笑みを浮かべる凛。
これで吹っ切れた。
「…あはっ、それは良かった」
哀愁に満ちた笑みを浮かべた俊風は後悔していなかった。
「瞬に後押ししてもらったんだ。私がするべきなのは…」
凛は黄昏色の空に優雅に飛ぶ烏を羨ましく見つめた。
ありがとうございました!