動物は見ていた
日曜日の昼下がり。
僕達を見に多くの人々が集まってくる。
そんな中でとある象は悩んでいた。
「パオーン(はぁ〜)」
「パオ?パオーン?(どうしたの?パオゾーくん)」
「パオーンパオパオーン(ゾー子さん、実は最近嫌なものを見てしまったんだよ)」
「パオ?(どんなの?)」
それは先月のことだった。
いつものようにお客さんの前で鼻を持ち上げ、精一杯観客を楽しませていると一組の家族が僕の近くに歩いて来るのが見えた。
その家族はとても仲が良さそうしていたので僕もなんだか嬉しくなって、鼻を必要以上に上げてみたりクルクル無意味に回ってみたりと沢山サービスをしてあげた。
それを見た子供はキャッキャと笑い、お父さんに色々な質問をくり出したりしていた。
「ねぇパパ!なんで象さんって鼻が長いの?」
「それはね、高いところにある食べ物を食べる為に鼻が長くなったんだよ。」
「へー、手を長くした方がものを取りやすいのに変なのー」
子供が無邪気に悩んでいると今度はお母さんが子供に笑顔で話しかけた
「まぁ、色んな生き物がいるんだよ。ほら、さっき見たキリンさんも首が長かったでしょ?」
「そういえばそうだね!ん?じゃあもしかして人にも首が凄い長い人とか鼻が凄い長い人がいるってこと?」
「そ、そうかもしれないわね。貴方が大人になったら探しに行ってみるといいかもね」
などと愉快な家族の会話を大きな耳で聞いていると、話が不意に変な方向に向かい始めた。
「ねぇパパ見て!あの二匹の象さんすごく仲いいみたいだよ!」
「あぁ、ホントだ。きっと夫婦なんじゃないかな?」
「パパとママみたいな?」
「そうそう」
「じゃあパパとママみたいにケンカするのかな」
「ど、どうだろう。ま、まぁするんじゃないかな。」
「そうなんだぁ。大きな体でケンカなんかしたら怪我しちゃうかもしれないのに、、やだなぁ」
「たしかにそうだな。ケンカは良くない。。」
「そうだよね!ケンカなんて良くないよね!最低だよね!」
そういうと一瞬ニヤリと子供の顔が歪むのが見えた。
僕は、その一瞬覗かせた顔を見て(ああ、これがいいたかったのか)と納得すると共に
そうお父さんに言う子供の姿は僕よりも数段大人びて見えた。
全てこの小さな子供の計画通りだったのだろう。
いつもケンカをする両親に苦言を告げるための会話劇。
そこに、小さいながらも、狡猾な人間の本質を目撃してしった気持ちになり大変嫌な気分になってしまった。
「パオ!(こわ!)」
「パオーンパオパオーンパオーンパオパオーン(だよね。でも子供ですらそんなことまで考えて生きなきゃいけないなんて人間って可哀想だなと思ってさ)」
「パオパオーン(私達ほんと象で良かったわ)」
「パオン(たしかに)」
そう苦笑したパオゾーくんは、今日も沢山の自分達を見に来たお客さんを楽しませるべく長い鼻を持ち上げるのであった。
「パオーン」