毒死回避希望で!!
むかし、むかし。あるところに新雪の如く真っ白な肌と、風で靡けば目を奪われてしまう艷やかな漆黒の髪を持った一人の少女が小人たちと仲良く森の奥で暮らしておりました。
そう_彼女の名を、『白雪姫』と申します。
なんて、絵本ならこう書かれていただろう。
私は確かに『白雪姫』と周りから呼ばれているが中身は28歳独身のOL社畜ですし、なんなら姫とか呼ばれる柄じゃないからね。
そこのところ勘違いしないように。
さて、独身社畜OLがどうしてかの有名な童話の一つである『白雪姫』の姫になっちゃってるかというと想像は容易いだろう。
今どき有りがちな人生に疲れたところに交通事故で異世界に来ちゃった系だ。
そう…
「来ちゃってんのよね〜。異世界」
ははっ笑えねぇ冗談かな??乾いた笑いが漏れる。
避難先である小人の家に飛び込んだものの窓辺で黄昏るしかない。
因みに現在『白雪姫』の物語だと中盤だし、【私】の意識は目醒めたけど既に嫉妬のあまり白雪姫を亡き者にしようと女王は暗殺者に任務を与えたあとだった。
「とにかく…大人しく殺されちゃたまったもんじゃないわ!まずは生き延びることが最優先。王子に関しても考えなきゃね」
う〜ん、う〜んと唸りながら悩むけど一向に良い案なんて出ない。
「つか、白雪姫ってファーストキスをよく知りもしないような面食い王子によって奪われるのよね…物語じゃ死にそうな白雪にキッスしてロンマンチックに終わらせてるけどあんなの人工呼吸だし、セクハラともとれる」
どちらにせよ、そんな野郎とキスするなんて御免被る。これも回避せねば…。
異世界に来る前すら恋愛とは無縁の生活を送っていた私のファーストキスを奪わせてたまるか!
意気込みながら熱く燃えていると階段を登ってくる気配がすると木製の扉が酷く軋んだ音を立てて開いた。
「布団干すからシロも手伝って〜」のほほんとシーツを小脇に抱えて部屋に訪れたのは小人の一人『ダイ』ちゃんだった。
「ダイちゃん、おはよ。」
「おそようだよ〜、もうお日様が真上なんだからね!まったく!イッちゃんぷんぷんしてたよ」
ぷりぷり怒ってる風だが容姿もあってか可愛いらしく和んでしまう。
「さあ行こ!シーツ持って、川までレッツゴー!」
少し前まで寝ていたベットからシーツを剥ぎ、ダイちゃんは私の手を取った。
この白雪姫の世界では、小人といえど然程小さくない。中学生男子の平均身長ほどか、それより小さいかくらいだ。
だから…
「うわっ!」
くんっとちょっとの力で簡単に私は引っ張られてしまう。ダイちゃんが七人の小人で最小でも、だ。
「イッちゃんたち待ってるよ〜」
のんびり喋るダイちゃん。ちなみに『イッちゃん』というのも小人の一人である。
家からほんの少し歩いた先、ケラケラと笑う声と川のせせらぎが聞こえる。木々の隙間から木漏れ日が差すこの森で私は生き延びて自分のファーストキスを守れるのか…。
穏やか昼下がり前と進むダイちゃんの背を追いながら、つい溜息をついてしまう。