魔族の台頭?
「魔族の台頭…ですの?」
「ああ、魔族は長い間闇に潜みこの機を狙っていたらしい。密かに数を増やして、当たり前のように社会に馴染んで…今になって、自分たちは魔族だったとカミングアウトし始めている」
「でも、悪さをしていない者たちならばそれはいいのでは…?」
「シャル、そういう甘さは魔族には通じない。彼らは世界を征服するために、こんなことをしているのだから。…シャルを襲った黒幕たちもおそらくは魔族だ」
「…!」
ヴァレール様からのお話に、身体が震える。
敵は魔族…なんてこと。
魔族は今や伝説上の存在…わたくしのような獣人族の先祖返りも珍しいですけれど、魔族だって本来ならもういないはずの人々。
けれど…本人たちがカミングアウトしているならば本当に魔族なのだろう。
そんな嘘をつく理由がないから。
「…魔族との争いとなると」
「ああ。今この世界に獣人族は…シャル一人と思った方がいい」
「わたくし…」
「シャル。僕は王太子だ。だから本来なら…世界のために戦ってくれと君にいうべきだろう」
「…」
ヴァレール様は苦しそうに表情を歪める。
「でも…君にこれ以上無茶はして欲しくない」
「ヴァレール様…」
「君はもう十分尽くしてくれた、もういいじゃないか」
「ヴァレール様」
「僕は君を愛してる。僕は君を守りたい」
ぎゅっとわたくしを抱きしめるヴァレール様。
わたくしは…。
「…いいえ、ヴァレール様。わたくし、守られるだけは嫌ですわ」
「!」
「わたくしは聖女であり、ヴァレール様の婚約者。であれば、ヴァレール様とともに戦いますわ」
「…シャル」
「その代わり、お約束致します。わたくし、絶対魔族との戦いでは死にませんわ。…ね?」
安心させたくて微笑む。
ヴァレール様は苦しそうに眉根を寄せたが、無理をしてわたくしに微笑む。
「…ああ、約束だからね?」
「ええ、約束ですわ!」
指を絡めて、約束をする。
大丈夫。
こんな時のために、魔力石を貯め続けてきた。
きっと、魔族に負けたりなんてしない!
「でも、敵が魔族であれば…我が家の書庫も探って魔族の弱点とかを調べてみますわ。どうやら我が家は本当に獣人族の末裔のようですし、なにか資料があるかも」
「そうだね、僕も過去の資料を集めて調べることにするよ」
ヴァレール様を見送る。
「では、お気をつけて」
「うん、シャルもね。愛してるよ」
額にキスをされる。
「わたくしもお慕い申し上げていますわ」
わたくしも、たまにはと思って自ら背伸びしてヴァレール様の頬にキスをした。
ヴァレール様は嬉しそうに笑ってくれた。




