黒幕の内心
…私はフェラン。
魔族の末裔である。
魔族の王として、魔族を束ねるべく生まれた存在。
魔族は一度、獣人族により滅ぼされた。
「神に近いとされる獣人族…我らの天敵であり、そして運命」
獣人族と魔族との争いは、実はこの文明以前にも繰り返されていたと我らの先祖から伝え聞いている。
彼らとの争いは、もはや運命なのだ。
「…シャルロット、か」
三人しかそばに置いていない腹心の部下たち。
現在魔族は秘密裏に勢力を拡大していて、しかし私の直属の部下はこの者たちだけ。
その部下たちを悩ませる獣人族の末裔の少女。
興味をそそられて、誰にも告げずにこっそりと見に行ったことがある。
彼女が獣人族の先祖返りになり、成人の身体に戻った後のことだ。
「…とても美しい、娘だったな」
穏やかで、お人好しで。
そしてなにより、美しい。
まるで、心根の優しさが外見にまで現れているかのような。
「まあ…そんな恋をしたとして、無駄なのだが」
魔族は獣人族に惹かれることが多々あるそうだが、結ばれた前例はないという。
魔族は世界の嫌われ者なので、さもありなん。
「我らは瘴気から生まれる。世界の癌だと蔑まれる。誰から理解されるでもなく、同胞としか愛し合えない。我らがただただ日の光の下で生きていたいだけだとしても、他の種族はそれを認めない」
だから、我らが『普通』に生きてみたいと願うならば。
影に潜まず光の世界で生きたいと望むならば。
世界を征服する他ない。
そんなやり方しか、我らは知らない。
「だが、できれば…」
彼女が生きて、世界征服が達成されて。
そんな奇跡が起こるならば。
「彼女を娶りたいものだ…」
あの一途な少女が、それを受け入れるとも思えないが。
「…ふふ、有り得ないことだな」
獣人族の先祖返りとなった彼女は、明確に敵だ。
割り切らなければ。
私は魔族の王なのだから。
「…王という立場も、ままならないものだな」
もし私がただの魔族の一員であったなら、彼女を無理矢理にでも攫って…そのまま魔族からも人間からも逃げ回ることだって考えられただろうに。
だが、私は魔族の王だ。
魔族を束ねる責務がある。
逃げられはしない、責務が。
「…シャルロット」
多分、本人に告げる機会はないだろう。
ただ、遠くから遠視の魔法で見つめただけの女の子。
それでも私は…君が好きだよ。
だから。
…殺すのが、惜しいが。
「貴様を殺して、世界を手に入れる」
今回は、獣人族は貴様一人。
我ら魔族に有利な世界だ。
遅れは取らない。
…まあ、獣人族が一人いる時点で脅威なのだけど。
きっと、我らは貴様に勝つ。




