影武者
少年が酒場で粋がる犯罪者グループに囁く。
「それでね、その国の王太子の婚約者を拐えば身代金もすごいと思うんだ」
「けどなぁ」
少女が囁く。
「それさえ成功すればお金持ちになれて、犯罪なんてしなくても生きていけるようになるよ」
「それは…」
「身代金を受け取ったら、王太子の婚約者を殺して口封じすれば完璧!ね?」
「…たしかに美味しい話だが、リスクがな」
少年が犯罪者グループのボスに酒を注ぐ。
「今までだって危険な橋を渡ってきたんでしょ?」
「大丈夫、今回も上手くいくよ」
酒が回った男たちは、段々と乗り気になる。
思考を誘導されていく。
「そうと決まれば準備しなきゃ!」
「ほらほら、頑張って!」
彼らはシャルロットを誘拐するための作戦を練り、準備を進め始めた。
「ほほほ、本当に楽な仕事じゃな」
「あとはこいつらが上手くやってくれればいいけど」
「まだ妾たちが出る幕ではないからのぅ…出る幕になる前に決着をつけたいものじゃが」
「そうじゃないとあの聖女、面倒くさそうだもんね」
「幼女化しているうちになんとかせねばと思っておったのに、どうも獣人化したまま成人に戻っているらしいしのぅ…本当にしぶといやつじゃ」
少女も少年も、シャルロットを消すために新たな刺客を送り込む。
「影武者…ですの?」
「そうだよ」
わたくしはヴァレール様の言葉に首をかしげる。
「でも、公務ですのに」
「けれどさすがに、シャルが狙われていると分かりきっている状況でシャルを出すわけにはいかない」
「それは…」
我が国では今の時期、平和式典とよばれるイベントが行われる。
我が国にとっては大切な、大陸の平和を祈る式典。
ヴァレール様の婚約者として、わたくしももちろん出席予定だったのだが…ヴァレール様はわたくしを出席させず影武者を使うおつもりらしい。
「でも、大切な式典ですのに…」
「シャル、あまり王太子殿下を困らせてはダメだよ」
「お兄様」
お兄様に窘められてしまった。
「今回は王太子殿下のご判断が正しい」
「でも」
「今回影武者を用意するのは必要なことだよ」
お兄様もヴァレール様の立てた対策に賛成らしい。
ニ対一では不利だ。
仕方がない。
「…わかりましたわ。今回の式典は諦めますわ」
「それがいいね」
「そうしよう」
実際わたくしが狙われているなら、せっかくの平和式典がわたくしのために台無しになる可能性もあるのだし…影武者になる方には申し訳ないですけれど、お互い我慢ですわね。
「影武者の方には、よろしく伝えてくださいまし」
「わかったよ」
なんとか無事に平和式典が終わるといいのですけれど。




