穏やかな日々
「シャル」
「はい、ヴァレール様」
「好きだよ、愛してる」
「わ、わたくしも!わたくしもお慕いしておりますわ!」
耳がピクピクして、尻尾が無意識にピンと立ってしまう。
けれどそんなわたくしにヴァレール様は微笑む。
「獣人化はいつ解けるんだろうね」
「はやく元の姿に戻れるといいのですけれど」
「そうだね。でも、どんな姿でもシャルは可愛いよ」
どこか楽しそうなヴァレール様。
ヴァレール様が良いならこの姿のままでも…いや、結婚するときに年の差婚になってしまいますわ!
やっぱり元に戻らないと!
「はい、シャル、あーん」
「あーん」
「美味しいかい?」
「ええ、とっても!」
ヴァレール様は甘くて優しい人だけれど、だからといって迷惑はかけたくない。
でもこの姿では結婚の話も進められないし、次期王太子妃としての仕事もできない。
おまけにお兄様は幼いわたくしにはいつも以上に過保護だし…!
わたくしが元に戻らないと、ヴァレール様が困ってしまいますわ!
「ふふ、シャルは可愛いね」
「えへへ」
でもやっぱりもうちょっとこうしていたいですわ…!
「我が村ではこんなにも貧乏な暮らしが続いているというのに、あそこの公爵領はすごく裕福らしいぞ」
「きっと公爵家の娘が次期王太子妃に決まっているからだ」
「あそこばかり狡い」
「そうだ狡い」
「狡い狡い」
そう、狡い。
狡いから奪っちゃえば良い。
そう言って少年は笑った。
「奪っちゃえばいい?」
「奪っちゃう?」
「なにを?」
「お金を?」
「家族を?」
全部だよと少女は笑う。
全部、命もなにもかも全部、と少年は笑う。
「全部、全部奪い取れ」
「全部奪い取れば、生活も楽になる!」
「全部、全部!」
「全部、全部!!」
「全部、全部!!!」
次第に声が大きくなる。
その日、全員が武器を買い揃えた。




