洗脳が解けた
「…シャル」
僕は…王太子として、婚約者であるシャルを誇りに思う。
自らの命を燃やしてでも国を救った彼女に、感謝している。
僕は王太子として、何度も彼女に救われている。
彼女には頭が上がらない。
けれど。
「どうしてなんだ!」
眠ったままの彼女の横で嘆く。
わかっている、王太子の婚約者として…聖女として。
彼女の決断は正しかった。
国中の洗脳は彼女のおかげで完全に解けた。
けれど、それでも。
「自らを犠牲にするなんて、誰も頼んでない」
頼まれなくてもそれをするのが聖女だ。
それはそうだ。
でも僕はどうしても君を許せない。
君は正しい。
本来なら感謝するべきだ、王太子としては感謝している、でも。
「僕は君とずっと一緒にいたいのに、君をやっと愛して、愛されて…僕たちは両想いになれたのに、どうして…どうしてっ」
泣き喚く王太子なんて、みっともない。
けれど今だけ、許してくれないか。
一月が経っても、目覚めない君。
どうしたらいいのか、僕はもうわからない。
「…シャル」
お伽話のように。
僕のキスで、目覚めてはくれないだろうか。
その唇に、無遠慮にキスをする。
こんなことをしても、目覚めてなんて…―
「…ヴァレール様?」
目覚めた。
「…」
「…」
「…え、わたくしキスされましたの!?」
ちっこくて、黒豹の耳と尻尾を生やした君は耳をピクピク尻尾をフリフリする。
可愛いけど…可愛いけどさぁ!!!
「シャル!」
「ひゃあっ!?」
シャルに抱きつく。
小さな君はベッドに押し倒される。
「ヴァレール様、重いですわ!あとなんかヴァレール様からすごくいい匂いが!」
「どうでもいいけどこのままでいさせて!!!」
「重いですわー!?」
その後僕は、シャルの侍女からシャルの目が覚めたと報告を受けて走ってきたシルヴェストルに無理矢理シャルと引き剥がされた。
「運命の番、ですの?」
「そう、シャルの感じる王太子殿下のいい匂いは、おそらくそう呼ばれる存在だということだ」
「ふむ?」
「つまり、遺伝子的に最高のパートナーってこと」
「まあっ!それはいいことですわね!」
ぱっと笑顔になるシャル。
「幼児化したり獣人化したりさ…本当にうちの妹はもう…」
「心配ばかりかけてくるし…」
「ご、ごめんなさいですわ…」
「でもまあ、よく頑張ったね」
「偉かったね」
シルヴェストルと二人掛かりでシャルを褒める。
シャルは頬を染めて尻尾をピンとする。
可愛い。
「でも今度こそ本当に」
「無理は禁止!」
「ね!」
「はーい…」
今度は尻尾がしゅんとした。
わかりやすくていいな、これ。




