聖女として
「国中の洗脳を解くって、幼い姿でそんな無茶をしたらどうなるか…!」
「お兄様。わたくしは、お兄様の妹である前にこの国の聖女ですの。お兄様との約束を破るのはとても悲しいですわ。でも、この状況を考えれば無茶をせねばならない時だと思いますの。お兄様も、わかってくださるでしょう?」
貴族であれば、一人の女の子と国、そのどちらを優先するべきかは弁えているはず。
「…シャル」
「大丈夫。わたくし、きっと無事にお兄様の元へ戻りますわ。ですから、お兄様」
お兄様を安心させたくて、にっこり笑う。
「わたくしがお兄様の元へ帰ってきたら、きっときっと褒めてくださいませ」
「…っ、シャル、待って!」
わたくしは聖魔力を使う。
命を燃やして、国内に蔓延した洗脳を解く。
占い師の捕縛は、お兄様ならわたくしに何があろうときちんとやってくださるはず。
でも、出来たら…お兄様とヴァレール様の元へ、無事に帰りたいな。
国中の洗脳を解いたところで、私は意識を飛ばした。
シャルに無理をさせた占い師を告発した。
占い師は洗脳にも屈しない教会の方の守護騎士の助力により捕縛された。
けれどシャルの意識は戻らない。
シャルが無理をして、意識を飛ばしてから一ヶ月。
一ヶ月も、目覚めていないのだ。
「シャル…」
一応、いつ目覚めてもいいように身体を動かしたりマッサージしたりして最低限のリハビリはしている。
栄養も点滴して、日々治癒魔法も使っている。
けれど、目覚める気配はない。
シャルには今、獣の耳と尻尾が生えている。
黒豹の耳と尻尾だ。
「我が家は遠い祖先に獣人がいると聞いていたが…」
獣人は、人よりも神に近い存在と我が国では崇められている。
その血筋である我が家の娘だから、シャルはこれまで何度も命を燃やしても幼児化したり獣人化する程度で済んだのやもしれない。
けれど、そんなことがわかったところで。
目覚めなければ、意味がない。
「…シャルっ」
やはり、甘やかさなければよかった。
こんな危険な目に遭わせるくらいなら。
でも、だけど。
たしかにあそこで、シャルが自らの命を賭していなければ…国は崩壊していただろう。
「…たのむから、めをさまして」
シャルは正しかった。
…正しすぎた。




