洗脳は効かない
「さあ、鑑定を始めよう」
「ええ!」
取り繕え、笑え。
隙を見せるな、大丈夫、わたくしならできる。
彼が真面目に鑑定をしているうちに、お香の効果を聖魔力を使って調べる。
「君は豪商の末娘なんだってね」
「ええ、そうですわ」
聖魔力を使ってお香を調べた結果は、あまりにも酷いものだった。
このお香…どうも人を安心させリラックスさせる効果があるのは確かだが、それだけではない。
相手の判断能力を削ぎ、ものを考えられなくする効果があった。
さらに、一度このお香を嗅ぐともう一度お香を欲しくなる…依存性が高いのだ。
占い師は、このお香の効果で鑑定に来た人を虜にして洗脳しているのだ。
「それでは、なにかと苦労しているのではないかな。あれをしろこれをしろとご両親に言われたり、望んでもいない結婚を押し付けられたり」
「それは…」
「隠さなくてもいいんだよ。辛かっただろう。この屋敷にそこのお兄様と一緒においで。寄付金さえくれれば、私は君たちを迎え入れるよ」
「…わたくし」
お兄様はこのお香を吸ってしまった。
聖魔力を持っているわたくしは無事だけれど、お兄様は…。
「いえ、結構です」
え?
兄様が断った。
「今回は一度占ってもらおうと来ただけですので。今日はここまでにします」
「そうですか。では、また気が変わればいつでも来てください。もちろんまた鑑定に来てくださってもよろしいですよ」
「はい、ではまた」
お兄様はわたくしを抱っこして屋敷を出る。
馬車を待たせたところへ走って行って、馬車に乗り込むとお兄様は胸を押さえた。
「…はぁっ」
「お兄様…!」
「ごめん、少しお香に酔って判断能力が鈍った。…でも、お香程度の洗脳じゃ効かないよ」
「お兄様…」
「だって、可愛いシャルを守らないといけないからね」
わたくしが軽率に占い師に会いたいなんて言ったから…。
「ごめんなさい、お兄様…」
「いいんだ。シャルは悪くない」
「ねえ、お兄様。お香の効果を消すのに、聖魔力を使ってもいい?」
「うん、頼む」
お兄様に聖魔力を浴びせる。
お兄様はなんとか回復した。
「…うん、もう大丈夫みたいだ」
「お兄様、本当にごめんなさい。でも、ありがとう」
「…シャル?」
「わたくし、頑張りますわ」
大人の姿で無理をすると、幼くなる。
幼い姿で無理をするとどうなるのかなんて、わからない。
でも、聖女として。
王太子であるヴァレール様の婚約者として。
このまま、あの悪徳占い師を野放しには出来ない。
「お兄様。あの口ぶりから、あの占い師は困っている人からお金を寄付金として巻き上げているはずですわ」
「…そうだね」
「さらに、貴族まで誑かしているとくれば国家転覆を視野に入れている可能性も考えられますわ。わたくし、事が起きる前に国中の洗脳を解きますわ」
わたくしの言葉に、お兄様は目を丸くした。




